子宮頚部異形成について医師が解説

女性特有の疾患である子宮頚がんの仕組みをきちんと理解しよう

女性特有のがんの一つである子宮頚がん。その名称を聞いたことがある人は多いだろうが、「子宮頚部異形成」という言葉を耳にしたことがある人となると、一気にその数は減るのではないだろうか。実はこの子宮頚部異形成は、子宮頚がんの手前の段階にあたる。

年間で約1万900人が新たに子宮頚がんに罹患している(2014年の人口動態統計より)だけに、その発病のメカニズムをきちんと理解しておけば、自身やパートナーの命を救うことにつながることになる。今回は一般にあまり知られていないであろう子宮頚部異形成について、産婦人科専門医の十倉陽子医師にうかがった。

――まず、子宮頚がん発病の原因をあらためて教えていただけますでしょうか。

最近になって、子宮頚がんが発生しているほとんどの人が、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスに感染していることがわかってきました。HPVには子宮頚がんを起こしやすいハイリスクタイプとローリスクタイプがあります。日本人では、性交経験のある女性の約10%において、子宮頚部にハイリスク型のHPVが検出されています。

――HPVが子宮頚がんの原因なのですね。それでは、子宮頚部異形成と子宮頚がんの関係性について教えていただけますでしょうか。

HPVに感染しても、90%の人は2年以内に自分の免疫の力でウイルスが自然に排除されます。ただ、10%の人は感染が長期間持続し、子宮頚部異形成という子宮の頚部の細胞が異常に増殖した前がん病変に進んでしまいます。

そして異形成が軽度、中等度、高度と進行していくと、子宮頚がんへ移行してしまうことがあります。日本では年間に約1万人が子宮頚がんを発症し、約3,000人が亡くなっています。特に若い女性で患者さんが増えているのが特長です。喫煙や性交渉のパートナーの多さ、コンドームなしでの性交渉がリスクとなるので注意しましょう。

――性交渉で感染するHPVは、大半の女性が生涯を通じて一度は感染するウイルスと言っても過言ではないですよね。異形成にも軽度、中等度、高度と複数のステージがあるとのことですが、各ステージから子宮頚がんへと移行してしまう確率はどれぐらいなのでしょうか。

HPVに感染してから子宮頚がんに進んでしまうまで、数年から10年程度かかるとされています。軽度異形成からですと5年間で5~14%、中等度異形成からは5年間で17~26%、高度異形成とその後のステージである上皮内がんまで進行してしまうと、2年ほどでおよそ3割が子宮頚がんへ進んでしまうとされています。そのため、多くの場合にはこの時点までに治療が必要となります。

逆に軽度異形成からは59~75%が、中等度異形成からは52~64%が、高度異形成と上皮内がんまで進行しても19%が2年以内に正常な細胞へと自然に治ってしまうと言われています。

――子宮頚部異形成の各ステージでの症状には、どのようなものがあるのでしょうか。

子宮頚部異形成では通常、ほとんど自覚症状がありません。子宮頚がんへ進行してしまっても、その初期には症状がほとんどなく、がんが進んでいくにつれて時々起こる症状としては「臭いがある」「茶褐色や黒褐色のおりもの」「月経以外の出血である不正出血」「性交渉時の出血」「腰や腹部の痛み」などが出てくることになります。

何か症状があれば、婦人科を受診してきちんと検査を受けることが大切です。ただ、できるだけ初期に発見するため、検診をしっかり受けていただくことがより重要です。

※写真と本文は関係ありません


取材協力: 十倉陽子(トクラ・ヨウコ)

産婦人科専門医。

大学卒業後、総合診療、家庭医、地域医療を初期研修で学び、その後女性を全人的に見ることができる医師を目指し産婦人科医局に入局。

腹腔鏡手術での婦人科良性腫瘍、性感染症、女性医療、婦人科悪性腫瘍、周産期医療、新生児治療の研修を踏まえ、現在は不妊治療専門施設に勤務。体外受精を含む不妊治療を中心に、その他女性のトラブル全般に対応できる女性の全人的医療者を目指しています。一歳と三歳の二児の母としても奮闘中です。
En女医会所属。英ウィメンズクリニック勤務


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