ここ数年、サーバやネットワークの仮想化の進展とともに、ストレージをソフトウェアとして扱える「Software Defined Storage:SDS」が注目を集めている。SDSは昨今のインフラ基盤のトレンドである「ハイパーコンバージドインフラ」に組み込まれており、押さえておくべきトピックの1つとなっている。

コアマイクロシステムズは、汎用PCサーバとSDS(Software Defined Storage)を組み合わせた、ソフトウェアベースの自社開発ストレージ製品を、多数ラインアップしている。

本稿では、コアマイクロシステムズ代表取締役社長の高橋晶三氏に、SDSを中心としたストレージ業界の潮流、SDSをコアにした同社のストレージ製品戦略について聞いた。

コアマイクロシステムズ 代表取締役社長 高橋晶三氏

--現在のストレージ業界を俯瞰してみた時、どのような潮流があるか--

高橋氏: まず、SDSが広がっていることが挙げられる。ただし、大手のストレージベンダーは多くの製品ラインを持ち、製品同士が共食いを起こさないように縦割りでカテゴリーを分けている。そのため、大手ベンダーはすべてをSDSに変えることはできない。

また、大手ベンダーは既存のストレージ製品群の上位のレイヤーにSDSを位置付けている。具体的には、ストレージ製品を束ねて仮想化する用途やストレージの運用を容易にする用途にSDSを使う。

サーバ仮想化ソフトと分散ストレージソフトを組み合わせたハイパーコンバージド・インフラストラクチャ(Hyper-Converged Infrastructure:HCI)アプライアンスは、SDSが中核となっているものの、既存のストレージ製品とは異なる新ジャンルとして販売されている。

一方、新興ベンダーの製品は、構造的上はすべてSDSと言ってよい。いずれの製品も、汎用PCサーバをベースにしており、ストレージ機能をソフトウェアで実現している。

ただし、新興ベンダーには注意が必要だ。ベンチャー支援の投資家とタッグを組み、最初から大手ベンダーに買収してもらう出口戦略をとっているからだ。長期的な視野に立った成長は考えておらず、派手なマーケティング活動によって虚の価値を作って売り抜けようとしている。

--新興ベンダーの技術は大手ベンダーの技術と比べて、すぐれているのか--

高橋氏: 技術で優れているものはほとんどないと言ってよい。大手ベンダーから見ても、実際のところは脅威でもなんでもない。例えば、キャッシュ技術で名を売った米Nimble Storage(米Hewlett Packard Enterpriseが買収)は、米NetAppやZFSとやっていることは同じだ。

ただ、米国ではスタートアップ企業にカネが集まるので、大手ベンダーからすると、若干は邪魔でうるさい存在となる。一方で、大手ベンダーは大量の現金を持っている。このため、買収によって新興スタートアップ企業のノイズを減らしたり、市場の統制を図ったりする。

HCIのコンセプトも、米Nutanixのような新興ベンダーから出てきたが、コンセプト自体は大昔からあった。私自身も、10年ほど前から独自のHCIを考えていた。大手ベンダーは、わざわざ自身のビジネスを縮小したり脅かしたりする可能性のある製品は作らないだけだ。

重複排除やデータ圧縮についても同じことが言える。大手ベンダーは、顧客がストレージを大量に消費してくれれば最も喜ばしく、データ圧縮や重複排除によって消費量が減ることは歓迎しない。だから、米EMCは、重複排除機能を持つバックアップ用NASの米DataDomainを買収した。

--10年以上前に考えていたHCIとは、どのようなものなのか。現在のHCI製品とは異なるのか--

高橋氏: ストレージのあるべき姿として、完全SDSベースの多階層のスケールアウト型ストレージを考案した。現在のHCI製品とは異なり、HCI製品だけを使うのではなく、外付けのスケールアウト型ストレージを組み合わせる。第1層にHCIを置き、第2層と第3層に別のストレージを置く。私は、10年前に考案した当時も、そして今もHCIを単層で使うことは考えていない。

第1層では、仮想サーバ(VM)のインスタンスが動いており、VMインスタンスを提供するための分散共有ストレージを内蔵する。つまり、現在のHCIと同じだ。ただし、あくまでもVMインスタンスを提供する目的にのみ内蔵ストレージを使う。

VMインスタンスの上で動作する業務アプリケーションのためのストレージは、第2層に出したストレージで提供する。第2層もスケールアウト型の分散共有ストレージであり、VM上で動くアプリケーションに対してQoSを制御できる。

第3層では、データをバックアップ/アーカイブしたり、Amazon S3のようなパブリッククラウド上のストレージに広域でデータを分散したりして格納する。エッジに設置した仮想的なストレージの背後でパブリッククラウドのストレージにデータを格納する使い方も想定する。

これが、10年前に考案したストレージシステムのスタイルだ。実は、2018年に製品化する予定だ。アプライアンス型のストレージ製品ではなく、サービスビジネスの形態を考えている。要素技術として、ベルギーのベンダーが開発したSDSを使う。

--分散ストレージを3層構造にした独自のHCIは興味深いが、現在主流の1階層だけのHCI製品ではダメなのか--

高橋氏: 現在のHCIは、VM上で動作するアプリケーションや用途のすべてを満たすことはできない。VDI(デスクトップ仮想化)のように全インスタンスがほぼ均一な使い方であれば、第1層だけの現状のHCIでも構わない。CPU、メモリ、ストレージのサイジング(容量設計)もしやすい。

ところが、複数の用途が混在した使い方をしようとすると、第1層だけのHCIでは荷が重い。データベースサーバが動作するVMもあれば、バッチ処理のためのVMもある。HPCのような高負荷な処理をするVMもある。それぞれのVMに対して適切なリソースを割り当てて使うことが難くなる。

さらに、ストレージの階層が複数に分かれていれば、パブリッククラウドのストレージを階層に含めることも容易にできる。例えば、オンプレミスとパブリッククラウド間や、パブリッククラウド同士の間で移動させるリソースは、VMだけではない。ストレージデータも移行できたほうがよい。

複数のクラウドにまたがったストレージ空間を作っておけば、複数クラウド間で完全なレプリカを作成することなく、ある特定のパブリッククラウドだけを突然切り離して利用をやめることができる。つまり、クラウドベンダーにロックインされずに済む。これは、広域のイレイジャーコーディングによって実現する。

VMインスタンスはいつでもどこにでも簡単に引っ越しできるのに、パブリッククラウドのストレージにデータをため込んでしまうと、引っ越しが難しくなる。これが現状だ。だから、パブリッククラウドからいつでもストレージデータを引っ越しできる構造にしておかないといけない。