公開する在庫データの鮮度とカバー率が、販売機会の喪失リスクに

大阪に本社を構えるアズワンは、1933年創業以来の歴史を有する理化学機器の総合商社。近年では、研究・産業・医療分野において、先進のITとロジスティクスで創造的な価値を生み出している。また、2007年に中国・上海、2017年には米国カリフォルニア州・サンタクララに拠点を開設するなど、グローバル進出にも注力する。

そんなアズワンでは、従来からのカタログに加えて、Webショップ「AXEL」を軸としたeコマースへと販売チャネルが拡充しており、取り扱う商材も増え続けている。いまや提供する商品情報は150万点超にも及び、ユーザーと販売店、メーカーを結ぶデリバリー体制により商品を販売しているのである。

販売チャネルや商品情報が拡大する一方、これまでアズワンでは、販売店に対して同社が抱える約10万件の在庫商品のデータを1日1回CSV形式で提供していた。しかし、これとは別に仕入先にも常時20万点ほどの商品在庫情報が存在しており、ネット通販企業を中心に一部の販売店からは、自社在庫と仕入先在庫を合わせた30万件分の在庫データをリアルタイムで見られるようにして欲しいという声が目立つようになっていた。

このようなニーズを受けて同社では、自社のデータベース基盤「Oracle Exadata」で管理している30万点以上の在庫データを、基盤への最小限の負荷と処理時間でリアルタイムに外部連携できる仕組みの検討を昨年11月頃より開始したのである。

アズワン IT推進部のマネージャーの箱田真一氏は次のように話す。

「Eコマースでは、商品を検索して在庫切れだったり、要取り寄せだったりすると、販売機会の喪失につながりやすいものです。購入する側からしてみれば、少しでも早く商品を手に入れたいのですから」

アズワン IT推進部のマネージャー 箱田真一氏

4300社にも及ぶ販売店に対し、在庫情報をリアルタイムに公開するシステムを構築することとなった同社だが、当初は自前でシステムを構築し、オンプレミスで運用することも視野に入れていた。しかしその場合、管理負荷や運用コストをどう抑えるかが大きな課題となった。

箱田氏が所属するIT推進部は、12人のチームで社内のITを統括している。販売系システムや購買系システムといった業務ごとに人員を分けている一方で、インフラ担当なども存在。また開発要員は存在せず、基本的にシステム開発は外部委託となっている。

「新たなシステムの構築に伴い、ITスタッフの負荷が増えることは避けたいというのが部長を含めた共通見解でした」と箱田氏は振り返る。

ちょうどそんな折の昨年12月、大阪市内で開催されたオラクル主催のセミナーに参加した同氏は、クラウドベースのチャットボットについてのセッションを通じて、課題解決に向けた大きなヒントを得ることになる。

「概要を聞いて、こういうやり方もあったのかと、もしかしたら自社でも使えるのではないかと感じました。これまでは、外部に情報を公開しようとすると、自社でアプリケーション・サーバを立てて運用しなければなりませんでしたが、クラウドとチャットボットの組み合わせであれば、データベースの提供だけで可能なのだということに気づき、これ1本で行くことにしました」(箱田氏)

社内には既に約300もの仮想サーバが稼働しており、それらのシステムを少しずつクラウドに移行していきたいという思惑もあった。前述の管理負荷や運用コストの問題もあり、最終的にオラクルのデータベース「Oracle Database 12c Release 2」をクラウドで提供する「Oracle Database Exadata Express Cloud Service」の導入が決定した。

ちなみに同社は2014年7月に、6つのシステムで運用していたデータベース基盤を「Oracle Exadata」に統合している。今回、このデータベース基盤とリアルタイムに連携する効果的なアプローチとして「Oracle Database Exadata Express Cloud Service」と、「Oracle Database」のREST APIを簡単に開発できる「Oracle REST Data Services」の活用に至ったのである。