ディズニー/ピクサー最新作は、真っ赤なボディがトレードマークの天才レーサー、マックィーンが主人公のシリーズ第3弾、『カーズ/クロスロード』(7月15日公開)だ。今作のマックィーンは、最新技術を限界まで追求したレーサー、ストームをはじめとする新たな世代の台頭に追い込まれ“人生の岐路”に! 新たな相棒クルーズとともに、現況を打ち破る旅へと出て行く物語で、本作で監督デビューを果たしたブライアン・フィー監督も「人生の過渡期の物語」と説明する。深みを増した「カーズ」について、来日した監督に話を聞いた。

ブライアン・フィー監督

――クルーズがアメリカのディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー・パークに登場して話題になりましたが、この新しいキャラクターについて教えてください。

この映画中の彼女はとても重要な役割を担っていて、彼女は次世代のキャラクターです。ストームはレースという目的のために作られた車ですが、クルーズはストリートカーで、見た目的には無理そうですよね。それなのに夢が実現できそうな車というところが、この作品の中でテーマ的にとても重要なんです。自信をもって夢を見れば、実現できるということを表しています。マックィーンにとっても、彼女を見ることで満たされます。彼女が成功に導くわけですね。彼女が成功することで自分も満たされるという。言ってみれば、親の子どもに対する誇りのようなものです。自分ではなく、自分の子どもが成功することで満たされることほど、素晴らしいことはない、そういう影響を彼女が与えるわけですね。

――そのストーリーの開発については、どの程度かかわっていたのでしょうか?

かかわっていたというよりも、メインの仕事でした。本当に初期の開発段階から参加して、ほぼそれが仕事でした。そのほかの仕事もストーリーを支える補完みたいなもので、ストーリーの開発に最大限の時間を費やしました。とてもパーソナルな要素を反映しています。

――パーソナルな要素とは、具体的には何でしょうか?

自分自身で実際に関係したことを描いています。たとえば両親との関係、わたしと娘たちとの関係、世代というもの、教える側、教えられる側というということなどです。わたしは母を失くしていて、父も歳をとっています。大人になっても、両親がいることの安心感はあったわけで、それがなくなりつつあることを自覚することは、とても怖いものでした。

――それをマックィーンに投影しているわけですね。

マックィーンは人生の過渡期に遭遇しているので、そういう意味で投影しています。わたしもまた娘たちの親になり、かつて自分が体験したようなサポートをしてあげる立場になっている。そういう想いを、脚本を開発する段階では、いつも思い出していた気がします。

――以前ピクサーへ取材に行った際に、アンドリュー・スタントン監督も実体験をニモの物語に投影していたと言っていましたが、ピクサーの社内では、自分の家族を扱うというトレンドが確実にありますよね。

それはもう絶対に必要なことなんです。この作品で言うと6年くらい費やしているわけで、自分が呼吸している間はずっとこの作品に携わっているので、多くの情熱を持って向かわないと、やり遂げること自体が難しいものになります。したがって個人的に想い入れがある題材であれば周りの人間、クルー全員にとってもモチベーションが上がるものなんです。

――ジョン・ラセター氏は、どういうリアクションでしたか?

最終的にすべてのピクサー作品はジョン・ラセターがGOを出さないと作れないわけで、彼の承認を得ないものは手がけられないんです。ジョン自身もすべてを注げるような題材である必要があって、過去作品も共感しうる人生経験を元にして生まれたものだと思います。

――ところでマックィーンがジョンで、クルーズがあなた自身という関係性で描いているということはありますか?

それは一個の見解であって、真実ではないですね(笑)。ただ、ジョンからバトンを受け取って、この作品を手がけているわけ、似たような縁は見出せるかなとは思います。でも、僕たちは、そのことを追い求めていたわけではなかったわけで、あくまでも偶然の結果として、そう見えることはあったということです。もちろん、ジョンもこの作品を誇りに思ってくれればうれしいです。クルーズのマックィーンへの想いは、共通しているかな(笑)。

――そういう深読みも楽しめるほど、普遍的なテーマで描いていることですよね!

確かに、制作中にクルーズの気分になったことはありました。なぜなら、監督という経験がなかったから、どうしてもジョンのサポートが必要でした。経験のないなか大変な仕事をするということで、学びながら監督業をやってたので、そういうところで、ジョンに頼ったというところは確かにありました。なのでそういう指摘や解釈は間違いではなく、映画と通じるところもあったかもしれないけれど、あくまでもいい意味での偶然ですね(笑)。

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■プロフィール
ブライアン・フィー
ケンタッキー州アレクサンドリア出身。少年時代、両親と地元のドライブインシアターで『ジャングル・ブック』(67)と『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)を観て以来、映画が好きに。コロンバス・カレッジ・オブ・アート&デザインを卒業後、手描きアニメーションやキャラクター・デザインの仕事に携わり、2003年ピクサー・アニメーション・スタジオに。ストーリーボード・アーティストとして『カーズ』(06)、『レミーのおいしいレストラン』(07)、『ウォーリー』(08)、『カーズ2』(11)を手掛け、『モンスターズ・ユニバーシティ』(13)ではストーリー・アーティストを担当。本作で監督デビュー。