日本の空港民営化(運営委託)は、各地でさまざまな動きが顕在化している。当面は、高松空港の運営権者決定(3つの候補から7月中にも決定か)、静岡空港第一次審査締め切り(7月26日)、福岡空港一次審査締め切り(8月10日)といった節目があり、これを過ぎるといよいよ、北海道7空港一括民営化に向けた国及び各社の動きが本格化すると見られている。またこのほど、2020年運営移管に向けた熊本空港の基本スキームも明らかにされた。

空港運営の民間委託に関する検討状況(国土交通省より)

他方、北海道の民営化はその他の空港に比べて構造が複雑であり、根が深い問題もある。筆者がいま感じている3つの懸念・心配について述べてみたい。

運営権委託に関する5原則

ひとつ目の心配は、空港管理者による意思疎通・認識の共有についてだ。今回の7空港民営化が、これまでの関西、仙台、そして相前後する福岡や熊本など、他空港と違うのは、空港の管理者が国(新千歳、函館、釧路、稚内)、北海道(女満別)、市(帯広、旭川)と分かれており、民間委託後の空港運営の仕組みが複雑なものとならざるを得ないことだ。

国は一連の国管理空港の運営委託プロセスを踏まえ、7月にもマーケットサウンディング、その後、年内にも実施方針を発表するとみられる。これに向け、6月8日に空港管理者4団体(国、北海道、帯広市、旭川市)が、北海道7空港の運営権委託における基本原則について合意した。

その5原則とは、(1)7空港の枠組みを維持(2)公平な入札で運営権者を決定(3)運営権者の提案や要求水準の厳守(守られなければ契約解除)(4)黒字空港による赤字空港の補填を行わない(5)原則として空港管理者(国、道、市)による運営者への出資を行わない、というものだ。一見、常識的で妥当と見える各合意項目の裏側には、各管理者・関係者の思惑が交錯し、それへの力関係の結果決められた背景が垣間見える。

全ての空港への投資強要はすべきでない

まず、(1)の7空港の枠組み堅持だが、北海道は以前から今回の一括民営化の対象から外れている6空港(丘珠、中標津、紋別、奥尻、利尻、礼文)が地方都市・空港活性化に取り残されることを危惧し、応募者に道内全13空港を見据えた空港運営の考え方を盛り込むよう望んでいた。しかし、国は7空港だけでも大変なところに余分な検討要素を持ち込むことで審査が複雑化することを嫌い、「対象外の6空港について何かを提案しても一切加点評価はされない」と、一連の空港シンポジウムで応募候補者に断言していた。

今回の合意で道の思惑は水面下に沈むことになるが、今後の応募者の提案戦略において、道内空港ネットワークの充実に関する提案を検討するには、丘珠空港を拠点とする航空網という要素は不可欠である。今後の議論再燃を待つということになりそうだ。

北海道7空港の内、新千歳空港だけが上下合計で60億円強の黒字(2015年度)となっている

(4)の「赤字補填はしない」という意味は、これだけでは大変分かりにくい。赤字補填は当然行うが単なる穴埋めではない、という趣旨になっている。

現在7空港の中では、新千歳だけが上下合計で60億円強の黒字(2015年度)で、他の6空港はそれぞれ2~9億円と、赤字額は合計で40億円にも達する。一体運営をすれば、否が応でも新千歳の黒字で全体をカバーせざるを得ないのだが、この合意で言っていることは、「各空港をそれぞれ全て黒字にせよということは要求しない」ものの、「運営権者は単なる収支の合算で浮けばいいという発想ではなく、新千歳の黒字を原資にして他空港の収益を改善するための具体的な経営努力を行え」という意味だ。

応募者の心構えとして設定するのは分かるものの、空港運営がビジネスである以上、確たる成算のない投資はできない。全空港への八方美人的な提案を国として要求するのはいかがなものかと思う。後述する空港側の勘違いを誘発する懸念も消えない。

道の出資の道を閉ざす意味は

(5)の空港管理者の出資問題についても、道が昨年来、新運営事業者(SPC)の出資・運営参画に意欲を示していたものを、国として認めないことを明確にしたものだ。これまで国は、現在民営化プロセスに入っている高松空港や福岡空港への県の出資を認めており、県管理の静岡空港も同様な状況だ。

複数空港一括管理となる北海道においては、エアポートセールスの一体化や広域観光ルートの整備など喫緊の課題を解決する上で、道のまとめ役としての活動が期待されるところもある。そのため、国があえて道の出資の道を閉ざすことに固執する真意が、筆者には疑問である。このように、空港管理者間、特に国と道との関係は、協調と相互補完というよりは、「主導権争い」の側面が目立つように感じるのは、今後に向けての大きな心配と言えるだろう。