イヤホンジャックの廃止とワイヤレスイヤホンの登場

現代の生活では、データ通信、モバイル・デバイスの充電、オーディオなど、あらゆるものがワイヤレス化に向かっています。ワイヤレス・オーディオ市場も活況を呈しつつあるものの、それでも周りを見回すと、電車の中や街頭でも、最もシンプルな機器の1つであるヘッドホンやイヤホンについては現在でもケーブル接続が多数を占めています。

ただし、最近のニュースによると、ある大手スマートフォン(スマホ)メーカーは、長年にわたり採用してきた3.5mmヘッドホン(イヤホン)・ジャックを最新製品からなくしました。時代は変化しています。これは大胆ながら理にかなった一歩であり、ワイヤレス(無線)イヤホン(すなわち耳の中に納まる2個1組の小型ワイヤレス・スピーカ)は必要なオーディオ性能、利点、機能を満たしたうえで、実用的なフォーム・ファクタで実現でき、しかも音楽再生やストリーミングなどの機能をサポートする水準にまで技術は発展したということを意味します。

また、イヤホンジャックをなくすことで、スマホや他のポータブル/ウェアラブル・デバイスの防水性をいっそう容易に強化できます。これらの製品があらゆる屋外環境で動作することが期待されている状況では、イヤホンジャックがないことは重要な利点です。最終的にワイヤレス化が進めば、ケーブルがもつれてイラついたことなど、過去の思い出になります。

現時点まで、ワイヤレス・オーディオ市場セクターの製造業者が注目してきたのは、主にスピーカー・システムの製作でした。これについては、消費者の希望に沿うよう、携帯性や容易な取付けの実現、内装を傷つけない配線・配線収納の工夫を重ねてきましたが、それでも常に課題となっていました。

ワイヤレス・オーディオ市場は進化が明確で、急成長期へと移行しています。調査会社Marketsandmarkets (マーケッツ&マーケッツ)は、「この市場は2022年までに540億ドルに達する」と予測しています。これ自体も大きな値ですが、23.2%という予測CAGR(年平均成長率)は、この市場の変化率と成長率がかなり高いことを示しています。

このような将来的な成長のうちのかなりの部分は、スマホや他のポータブル・デバイス向け市場に関連するもので、成長率が最も高い分野はホーム・オーディオからポータブル・コンシューマ・セグメントに移行します。事実、これらのモバイル・デバイスは単体で、重要な娯楽機器の地位を確立してきました。Grand View Researchによる詳細な研究は、イヤホンおよびヘッドホン市場は、2024年までに単独で150億ドルを上回ることを示しています。レポートでは、テクノロジの進歩と小型化がイヤホンの急成長が見込める主な要因であると説明しています。

ワイヤレスイヤホンは、Bluetooth対応のデバイスをスマホなどのアプリケーションと組み合わせてハンズフリーで使用する形で、一時市場に出回っていました。しかし、消費者はこのような環境に慣れてきており、モバイル・オーディオ環境の一層の充実を期待しています。この期待の根拠となっているのは、現在市販されている、優れた音質を実現すると同時にノイズ・キャンセルや低音強調などの特徴も備えた一部のハイエンド・ヘッドホンです。

したがって、市販されている多くのウェアラブル・デバイスと同様に、魅力的なイヤホンを設計して市場に投入する際のハードルは高くなっています。まず、消費者は動作時間が長い超小型デバイスを求めています。これを実現するには、効率と低消費電力動作が不可欠です。一方で、この特性とある程度相反する可能性もありますが、消費者は深みのある音、低音強調、ノイズ・キャンセルのような機能も望んでいます。ノイズ・キャンセルを実装すると一層複雑になり、マイクと追加回路の実装が必要になります。そのため体積が増えバッテリへの負担も増加します。