一部の深夜ドラマを除く、今期の春ドラマがすべて終了した。視聴率では、『緊急取調室』(テレビ朝日系)の1話が、今年の民放連ドラトップとなる17.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)をマーク。一方、話題の面では、主人公のゲスな不倫を描いた『あなたのことはそれほど』(TBS系)が回を追うごとにメディアとSNSを席巻した。

ここでは、「捜査一課ドラマの勝利と一抹の不安」「悪い主人公と不穏な結末」という2つのポイントから春ドラマを検証し、全19作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

『緊急取調室』

■ポイント1:捜査一課ドラマの勝利と一抹の不安

序盤から終盤まで終始一貫、警察を舞台にした作品が視聴率上位を独占。全話の平均視聴率で、『緊急取調室』が14.1%、『小さな巨人』(TBS系)が13.6%、『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)が12.5%、『警視庁捜査一課9係』(テレビ朝日系)が11.5%とトップ4を占め、録画視聴率を含めた総合視聴率でも『小さな巨人』がトップの21.3%を記録した。

しかもこの4作はすべて、殺人や強盗などの凶悪犯罪を扱う"警視庁捜査一課"が舞台となっている。今期放送された作品の中には、警察以外の人物が事件を解決する『貴族探偵』(フジテレビ系)、『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』(フジテレビ系)、『4号警備』(NHK)もあったが、テレビ局が最も追い求める視聴率の面では捜査一課の圧勝だった。

しかし、ツイッターやクチコミサイトなどを見る限り、『貴族探偵』や『4号警備』は「録画してじっくり見る」「今期ナンバーワン」という声も多かっただけに、愛情の深さという面では遜色ないのかもしれない。

一抹の不安を感じるのは、「今回の結果を受けて、各局が捜査一課のドラマを量産しないか」ということ。今から3~4年前、刑事モノが量産されて視聴者に飽きられ、徐々に減らしていったという過去があるのだ。もともとテレビ朝日のドラマは7~8割が刑事モノだけに、他局も追随すると、同じ歴史を繰り返しかねない。目先の視聴率を取るのなら刑事モノを量産するという策もアリだろう。しかし、私が取材している限り、現場のスタッフたちはそれをよしとせず、「さまざまなジャンルの作品を手がけたい」と思っている。

『あなたのことはそれほど』

■ポイント2:悪い主人公と不穏な結末

今期は『あなたのことはそれほど』の渡辺美都(波瑠)を筆頭に、悪いところのある主人公が目立った。

美都は罪悪感を持つことなく不倫に走り、非のない夫に「いなくなってくれればいいのに」と感じる悪妻だったし、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(フジテレビ系)の稲見朗(小栗旬)は、特殊任務で人を殺した過去があり、それをごまかすように複数の女性と関係を持っていた。『小さな巨人』の香坂真一郎(長谷川博己)は正義感こそ強いが、目的を遂行するためなら脅しや情報をリークするなどの悪事を行い、『貴族探偵』の主人公(相葉雅紀)も人を見下し、使用人を使って遊んでばかりの身勝手な男だった。

それに伴い各作品の最終回は、不穏な結末が続出。『あなたのことはそれほど』は、美都に不倫の罰が下ったのか、そうでないのか、視聴者の印象が分かれる形で終了。『CRISIS』は「特捜班メンバーがテロリストになったのか?」と思わせる最悪のシーンで終了。『小さな巨人』は警察の闇を暴くことより、主人公は捜査一課への復帰を選ぶという形で終了した。

これらの悪い主人公と不穏な結末は、スタッフサイドに「正しくて強いヒーローばかりではつまらない」「誰でも予想できそうなハッピーエンドは避けたい」という思いがあるからではないか。「普通の勧善懲悪ではなく、新たな結末を模索しよう」という姿勢は、今後に期待を持たせるものなった。

余談だが、興味深かったのは、週半ばから週末にかけてピュアでひたむきな主人公が多かったこと。水曜は『母になる』(日本テレビ系)の柏崎結衣(沢尻エリカ)、木曜は『人は見た目が100パーセント』(フジテレビ系)の城之内純(桐谷美玲)、金曜は『リバース』(TBS系)の深瀬和久(藤原竜也)、土曜は『ボク、運命の人です。』(日本テレビ系)の正木誠(亀梨和也)、日曜は『フランケンシュタインの恋』(日本テレビ系)の怪物(綾野剛)と、毎日1人ずつピュアでひたむきな主人公が登場。制作サイドに「視聴者の仕事疲れを癒そう」という狙いがあるのかもしれない。


今期は事件解決モノ以外のテーマが分散したため、好みが分かれるところだが、私が冬ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『ツバキ文具店』(NHK)。キャラクターとテンポの速い展開重視の作品が多い中、日常の小さな人間ドラマを丁寧に描き出し、何より映像が美しかった。

意欲的な挑戦という意味では、『リバース』も負けていない。連ドラでの本格ミステリーは難易度が高いが、そこに若者群像劇を絡めて視聴者を引きつけ、原作小説を拡張するようなラストで感動を誘った。

その他では、『人は見た目が100パーセント』『ボク、運命の人です。』『CRISIS』の3作。いずれも作り手の強い意志が伝わってくるような力作だった。

主演男優では藤原竜也と小栗旬、女優では多部未華子と剛力彩芽の役作りが出色。助演では鈴木浩介のアドリブと土村芳の伸びやかな演技が光っていた。

最後に、深夜帯のため対象外としたが、『架空OL日記』(日本テレビ系)、『100万円の女たち』(テレビ東京系)も素晴らしかった。

左から多部未華子、藤原竜也、鈴木浩介、土村芳

【最優秀作品】『ツバキ文具店』 次点-『リバース』
【最優秀脚本】『リバース』 次点-『ツバキ文具店』
【最優秀演出】『ツバキ文具店』 次点-『人は見た目が100パーセント』
【最優秀主演男優】藤原竜也(『リバース』) 次点-小栗旬(『CRISIS』)
【最優秀主演女優】多部未華子(『ツバキ文具店』) 次点-剛力彩芽(『女囚セブン』)
【最優秀助演男優】鈴木浩介(『人は見た目が100パーセント』) 次点-安田顕(『小さな巨人』)
【最優秀助演女優】土村芳(『恋がヘタでも生きてます』) 次点-仲里依紗(『あなたのことはそれほど』)
【優秀若手俳優】阿部純子(『4号警備』) ブルゾンちえみ(人は見た目が100パーセント)