フジテレビの亀山千広社長が、きょう28日をもって退任する。5月26日に行われた最後の定例会見では「4年間いろいろとお世話になりました」と感謝を述べつつも、視聴率低迷から脱出できなかったことに「非常に申し訳なく思っていますし、残念でなりません」と悔しさをにじませた。

ドラマプロデューサーとして『ロングバケーション』『ビーチボーイズ』『踊る大捜査線』らをヒットさせた華々しい経歴もあり、何かとメディアを騒がせてきた亀山氏。その発言や低視聴率へのバッシングも少なくなかったが、社長在任期間中に何を行い、何を残して退任するのか。コラムニストの木村隆志氏が検証していく。


長寿番組の幕引きと生放送への挑戦

2013年6月、亀山氏は視聴率民放3位に転落した同局のピンチを救うべく就任。最大の仕事は"長寿番組の幕引き"だった。

2014年春、国民的番組『笑っていいとも!』(放送期間:31年半)を終了。
2015年春、夕方の『FNNスーパーニュース』(同:17年)、深夜の『ニュースJAPAN』(同:21年)を終了。
2016年春、『ライオンのごきげんよう』(同:31年半)、『東海テレビ制作の昼ドラマ』(同:52年)、『すぽると!』(同:15年)を終了。

退任するフジテレビの亀山千広社長

長寿番組を次々に終了させる、まさに刷新。バラエティ番組の改編も多く、1980~90年代の黄金期に掲げた「楽しくなければテレビじゃない」というイメージの刷新を内外に知らしめるような采配だった。言わば、「約30年間続いたイメージを終わらせて、新たなサイクルを模索しよう」ということだが、なかでも象徴的だったのは「生放送への挑戦」。2016年春に、平日朝から夕方までの"15時間生放送"をスタートさせた。

今ではすっかりトークバトルが定着した『バイキング』の視聴率が上昇傾向にあるほか、『直撃LIVE グッディ!』もジリジリと視聴者に浸透しつつあり、今後に期待が持てる。

驚くべきは、同年秋にドラマ再放送を中心とした『メディアミックスα』を開始し、"15時間生放送"をわずか半年でやめてしまったこと。つまり、亀山氏は「批判の声を承知で、間違いを素直に認めて、早めに動いた」ことになる。そんな勇気ある姿勢に、私が接した何人かの社員は「驚かされました」と言っていた。

「月9を打ち切らない」という英断

一方で、亀山氏が幕引きしなかった長寿番組もある。定例会見で記者たちは超一流のドラマプロデューサーだった亀山氏に、必ず月9ドラマに関する質問をぶつけていた。近年、立て続けに歴代ワースト視聴率を更新している月9ドラマをなぜ打ち切らなかったのか。

他局なら打ち切るであろう苦境の中、誰よりも亀山氏自身が「いまだ話題性は随一である」ことを実感していたのだろう。『とんねるずのみなさんのおかげでした』『めちゃ×2イケてるッ!』も含め、「悪いものでも話題性さえあれば、好転しはじめたときの上昇力が大きい」のは事実。今後どうなるかは分からないが、"視聴率は低いがファンの愛情は濃い"これらの番組を終了させなかったことは、のちに「英断だった」と称えられるかもしれない。

全話平均視聴率8.6%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)に終わった2017年4月期の月9ドラマ『貴族探偵』

もちろん課題も存在する。本来、改編期の起爆剤となるべく新番組に、どうも無難な視聴率狙いのものが多いのだ。今春、フジテレビはゴールデンタイムの新バラエティ番組を2本スタートさせたが、『最上級のひらめきニンゲンを目指せ! クイズ!金の正解!銀の正解!』『潜在能力テスト』と、ともにクイズ番組。「大コケしにくいけど、大ヒットもない」ファミリー層受けを狙ったものであり、局としてのカラーは感じられなかった。

ただ、これは亀山氏の社長在任期間中、『水曜歌謡祭』『オモクリ監督』『超ハマる!爆笑キャラパレード』『モシモノふたり』など、さまざまなジャンルの新番組が低視聴率にあえいだ副作用だろう。今後フジテレビがV字回復を目指すためには、無難な新番組ばかりではなく、「いろいろやってみたけど、うまくいかなかった」という経験をマーケティングとして生かすことが求められている。