イーロン・マスク氏率いる米国の宇宙企業スペースXは、6月24日から26日の2日間に、2機の「ファルコン9」ロケットの打ち上げた。

24日に打ち上げたのは、今年1月にも打ち上げた機体を再使用したもので、同社にとって2度目のロケット再使用となった。26日の機体は新品だったものの、着陸時に使用する小型の安定翼に、耐熱性などが向上した新型のものが装備された。打ち上げはともに成功し、さらに海上に浮かんだドローン船への着地にも成功した。

24日に打ち上げられたファルコン9 (C) SpaceX

26日に打ち上げられたファルコン9 (C) SpaceX

2度目の再使用打ち上げ

24日に打ち上げられたファルコン9(Falcon 9)は、ブルガリアの衛星通信会社ブルガリアサットの通信衛星「ブルガリアサット1」(BulgariaSat-1)を搭載していた。ロケットは日本時間6月24日4時10分(米東部夏時間6月23日15時10分)に、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射台を離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約35分後に衛星を分離して、所定の軌道に投入した。

打ち上げに使われたロケットの第1段機体は、今年1月15日に通信衛星「イリジウムNEXT」を打ち上げた際にも使われた機体(シリアル番号B1029)が再使用された。

スペースXでは、ロケットを再使用し、旅客機のように同じ機体を何度も打ち上げられるようにすることで、打ち上げコストを従来の「100分の1」にすることを目指している。同社にとっては2002年の設立以来の大きな目標の1つであり、これまでさまざまな研究や開発、試験を続けてきた。

そして3月、一昨年の4月に打ち上げに使用した機体(シリアル番号B1021)を使った、初の再使用打ち上げに成功。今回が通算2度目の再使用打ち上げとなった。

スペースXもブルガリアサットも、今回の打ち上げにかかったコスト、あるいは価格を明らかにしていない。ただ昨年、スペースXのグウィン・ショットウェル社長は、「第1段を再使用するファルコン9の場合、10%の割引で提供する」と発言。3月の初の再使用飛行後には、「第1段機体を再使用する際にかかるコストは、新造する場合の半額以下だった」とも明らかにされている。

現在、新品のファルコン9は6200万ドル(現在の為替レートで約69億円)で販売されているため、再使用で10%の割引が行われるとすると、おおよそ5580万ドル(約62億円)ということになる。また、今回は2度目の再使用打ち上げであったことから、リスクを勘案し、さらに割引が行われたとも考えられる。

またショットウェル社長は昨年3月、第1段機体の再使用による値下げについて「最大で30%の割引が可能」とも語っている。しかしいずれにしろ、スペースXが掲げている「100分の1」という目標にはまだ届いていない。

ファルコン9の再使用が当たり前になる時代へ

スペースXは、次のファルコン9の再使用打ち上げがいつになるかは明らかにしていない。ただ、今年3月には、今年だけでも6回の再使用打ち上げをしたいと表明しており、また、今年の夏に打ち上げ予定の超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」(Falcon Heavy)では、2機のブースターに、以前飛行したファルコン9の第1段機体を再利用すると明らかにされている。

また、現在のファルコン9の再使用はまだ試験的なもので、今年の年末ごろに完成する予定のファルコン9の最終進化型「ファルコン9 ブロック5」は、当初より再使用することを前提とした設計になっており、この機体の運用が始まれば、再使用打ち上げが標準となり、再使用にかかる時間やコストが短縮できる。

ちなみに、3月の初の再使用では、前回の飛行から再使用飛行までにかかった時間は約1年で、純粋に点検や整備などの作業時間だけの累計は4カ月だった。今回も、作業のみにかかった時間は4カ月ほどだったという。スペースXはいずれ、これを24時間にまで短縮し、ロケットを打ち上げて帰ってきた翌日には、ふたたび打ち上げられるようにしたいという目標を掲げている。

今後、ロケットの信頼性を保ちつつ、再使用に必要な作業の効率化や省力化などにより、どこまでコストダウンや、その分の価格への還元による値下げが実現するのかに注目が集まる。

打ち上げを待つブルガリアサット1を載せたファルコン9 (C) SpaceX

ブルガリアサット1を載せたファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

再回収にも成功

一方、途中で分離された第1段機体は大西洋に向けて降下し、待機していたドローン船「もちろんいまもきみを愛している(Of Course I Still Love You)号」への着地に成功した。

今回は衛星の質量が大きく、また通常よりエネルギーが必要な遠い軌道ヘ向けて打ち上げなければならなかったため、ロケット側に残る推進剤が少なくなる。その場合、十分に機体を減速させることができないため、着陸は難しくなる。スペースXのイーロン・マスクCEOも、打ち上げ前にTwitterで「今回のファルコン9は、着陸時にこれまでで最も高い負荷と熱にさらされます。着地が失敗する可能性は十分あります」と述べていた。

しかしロケットは、Xマークが描かれた甲板の中心こそ外したものの、着地に成功。その後マスク氏は「ロケットはトーストのように焼かれ、着地時の衝撃も大きなものとなりました。クラッシュ・コア1)もほとんどすべて使い尽くしまいました。ただ、それ以外は良好です」とコメントしている。ただ、この機体が3度目の飛行に使えるかどうかは、おそらくは今後の分析が必要なこともあり、現時点では明言されていない。

なお、着地地点が中心から外れたことについて、マスク氏は「ロケットは着地の直前、突如として、横方向へ強く打たれたようになりました。おそらく強い突風のせいか、もしくはロケットに何か問題が起きたのかもしれません。テレメトリーを分析したいと思います」と述べている。

ファルコン9が着地する直前の「もちろんいまもきみを愛している」号の様子。左側の海がエンジンの噴射ガスで叩かれ、しぶきが上がっている (C) SpaceX

ファルコン9が着地した「もちろんいまもきみを愛している号」 (C) SpaceX

ブルガリア初の通信衛星「ブルガリアサット1」

ファルコン9で打ち上げられたブルガリアサット1は、ブルガリア共和国の衛星通信会社ブルガリサットの通信衛星で、東経2度の静止軌道から、バルカン半島に衛星通信サービスを提供することを目的としている。

衛星の製造は米国のスペース・システムズ/ロラール(SS/L)が担当した。打ち上げ時の質量は3669kg、設計寿命は15~18年間が予定されている。

打ち上げ後、SS/Lは衛星の太陽電池パドルの展開や通信の確立などが予定どおり行われて、衛星の状態が正常であることを確認している。ブルガリアサット1は現在、近地点高度(地表に最も近い高度)約210km、遠地点高度(地表から最も離れた高度)約6万5500km、軌道傾斜角23.9度の、いわゆるスーパーシンクロナス・トランスファー軌道に乗っており、このあと衛星側のスラスターを使って、東経2度の静止軌道へ乗り移る。

ブルガリアが通信衛星を保有するのはこれが初めて。人工衛星そのものは、ソビエト連邦が東側諸国などと共同で行った宇宙計画「インテルコースマス」の枠組みで、1981年に打ち上げられた「インテルコースマス22」がある。衛星の製造はソ連が担当したものの、機器の開発や運用などはブルガリア側が中心となって行われた。

ブルガリアサット1 (C) SS/L

脚注

1):ファルコン9の着陸脚に組み込まれた衝撃吸収装置。アルミをハニカム構造に加工して作られており、衝撃が加わると自らつぶれることで、その衝撃を吸収する。同様の機構は、過去にアポロの月着陸船などで使用されたことがある。ファルコン9の場合、今回のように着陸時の衝撃が大きく、つぶれて吸収できる範囲を使い尽くしてしまうと、交換が必要になる。