パナソニックは、ARM製CPUを搭載したIPカメラを活用した「Vieureka(ビューレカ)プラットフォーム」を開発。画像データをIPカメラ上で処理し、クラウドと連携するエッジコンピューティングソリューションを実現する。

同社では、VieurekaプラットフォームのAPIを公開。IPカメラに搭載するVieurekaコントローラを通じて、サードパーティー製品の画像認識機能を利用できるようにするほか、クラウドを通じて複数のカメラを一元管理することが可能なVieurekaマネージャーを提供する。さらに、分析結果をもとに、新たな知見を導き出すためのAI機能の提供も行う。

Vieurekaとは

パナソニック 全社CTO室技術戦略部事業創出推進課・宮崎秋弘課長

同社では、「IPカメラはマルチベンダーで考えており、月額1万円弱で利用できる『コト売り』ビジネスで展開する。事業部でビジネスを推進するのではなく、全社CTO室が中心となり、社内ベンチャーならではの小回りとスピード感を生かしたビジネスとして展開していく」(パナソニック 全社CTO室技術戦略部事業創出推進課・宮崎秋弘課長)としている。2017年度中に約20件の導入を目指す考えだ。

Vieurekaプラットフォームは、画像認識機能をIPカメラに搭載し、カメラ側で画像処理を実行。処理したデータだけをクラウド上のデータベースに送信し、データ分析を行うことができるプラットフォームだ。

Vieurekaプラットフォームの構成

「IPカメラの映像データは、数Mbpsと大きいため、カメラの台数が多くなるほど、大容量の映像データをクラウドに送信し、画像認識を行うことが困難になるが、Vieurekaプラットフォームでは、カメラ内で画像認識を行い、データ量が数10バイトから数100バイトと、小さい認識結果のみをクラウドに送信できるため、ネットワークのトラフィックやクラウドでの処理に関わる負荷を増大させることなく、カメラの設置台数を増やすことができる」(同)という。

クラウド上に蓄積されたデータは、目的に応じて、集計、分析のほか、グラフ表示などによって可視化できる。

Vieurekaの商品名は、見るの意味を持つ「View」と、発明家であるアルキメデスがなにか閃いたときに使ったとされるギリシャ語の感嘆詞の「Eureka」を組み合わせた造語で、ロゴマークには人が閃いた様子を採用。しかし、目の部分は描かず、「目の部分はカメラが果たす役割であり、Vieurekaは、そこから得た情報から閃きを与えることを目指したことを示した」(同)という。

Vieurekaは、ViewとEurekaを組み合わせた造語で、ロゴマークには目の部分は描いていない

Vieurekaプラットフォームは、クラウドを通じて、画像認識機能の柔軟な入れ替えが可能で、用途に応じて、ソフトウェアを選択できるのも特徴。APIを公開するとともに、SDKを提供して、サードパーティーが、同プラットフォームに対応した画像認識機能として、Vieurekaコントローラ上に実装することができる。

IPカメラに搭載されたソフトウェアは簡単な操作で管理ができる

IPカメラのCPUへの負荷などのログも管理できる

すでに、PUXの人物検出エンジンと、ビーコアのカラービットタグ認識機能が、同プラットフォームに対応。今後、自動車ナンバー認識機能も対応することになるという。

「IPカメラの画像認識機能は、ハードウェアやファームウェアとして実装されているため、実現できる機能が限られているという課題を解決。さらに、パソコンによる画像認識機能はコスト高になるという課題も解決できる」としており、運用費用は月額1万円以下に設定しており、「運用にはパソコンが不要で、スマホからでも管理が可能。監視カメラの価格を含めて、従来のシステムに比べて、10分の1の費用での導入、運用が可能になる」という。

複数のIPカメラをひとつの画面で管理することが可能だ

Vieurekaマネージャーでは、Vieureka対応カメラや、カメラ内で動作する画像認識機能の制御、状況監視が可能であるほか、複数のカメラを用いたシステムや複数の拠点でシステムを運用する際にも、各カメラの状態監視や画像認識機能をアップロードしたり、制御したりできる。

パナソニック 全社CTO室技術戦略部事業創出推進課・主任技師・本坂錦一氏

「複数のソフトウェアの実行、停止、設定値の変更を、クリックするだけで操作でき、一元的な管理が可能になる。状況監視、ログファイルの取得も、Webブラウザ上から行うことができる。さらに、カメラや画像認識機能に異常が発生した場合にはEメールで通知する機能も提供している」(パナソニック 全社CTO室技術戦略部事業創出推進課・主任技師・本坂錦一氏)という。

Vieurekaプラットフォーム対応カメラとしては、パナソニックの監視カメラであるi-PROシリーズの一部製品と、エルモの画像認識クラウドカメラ「VRK-C201」がある。今後、対応カメラを増やしていく予定だ。

エルモの画像認識クラウドカメラ「VRK-C201」

先行導入事例

すでに、先行導入事例として、24時間営業の小売店を展開するトライアルカンパニーが「人物検出を用いた店舗向け来客分析サービス」として活用。また、食品製造の東京フードが「従業員入退室管理システム」として導入している。

トライアルカンパニーでは、約5000平方メートルの店舗内に40台のカメラを設置。人物検出と年齢性別分析を実施して、その認識結果だけを集計してクラウドに送信。滞留時間や売り場到達率、店内回遊率などを分析できる。PUXの人物検出エンジンを活用することで、95%以上の精度で来店客の検出が可能だ。

PUXは、パナソニックが51%を出資するソフトウェア子会社で、米国立標準技術研究所(NIST)から世界最高水準と認められたパナソニックの顔照合性能技術と、同じベースを持つ人物検出エンジンを使用している。

「来店客のプライバシーを守りながら、来客行動の可視化や定量化が可能になる。これまではアルバイトを使うなど、一定期間だけの集計しかできなかった来店状況を、24時間365日、リアルタイムで来店客情報を表示することが可能になり、それをもとに、展示レイアウトの変更や、キャンペーンやセールの評価、販促費の効率的な提案などを、短期間に行うといった用途で活用している」という。ヒートマップ化することで、店舗入口と店舗の一番奥の売り場の来店率を比較できるほか、タイムセールの成果を推し量ったり、POS情報との組み合わせにより、売り場ごとの来店客数と売上げとを比較し、売り場の効率性を算出したりできる。

「今後は、POS情報と連携した購買客の行動の可視化だけに留まらず、購買に至らなかった来店客の行動を可視化する取り組みにも応用していく」という。

トライアルカンパニーが導入した人物検出を用いた店舗向け来客分析サービスの分析画面

東京フードでは、カラービットを活用した従業員入退室管理システムに、Vieurekaプラットフォームを採用。名札に付けたカラービットタグのIDを、IPカメラが認識し、それによって、食品工場前に設置されたエアシャワーの自動扉の開閉を入室権限にあわせて実行。さらに、入室状況の管理も行う。

カラービットタグを認識するIPカメラは、アルコール噴霧器の前に置かれており、手などの消毒の際に認識を行う。そのため、消毒を行っていることが前提となること、IDカードに手を触れずに、認識と自動扉の開閉が行えることから、衛生面の確保という点でもメリットがある。

「名札に印刷されたカラービットタグを離れた距離からカメラで認識することができるため、ICカードや生体認証による入退室管理に比べて接触感染や異物混入のリスクを軽減でき、さらに、有事の際には、映像を証跡として活用することが可能になる。また、 画像認識用パソコンが不要であるため、一般的な画像認識システムに比べてトータルコストを削減できるメリットもある」という。

東京フードで導入しているカラービットを活用した従業員入退室管理システムの様子

全社CTO室で導入しているアテンダンス(出席)ボード

さらに、パナソニックの全社CTO室においても、アテンダンス(出席)ボードの名称で、Vieurekaプラットフォームを活用。社内在席確認に使用している。

社員の名前が書かれたマグネットシートに、カラービット技術を採用。これをIPカメラで認識することで、社員の在社状況や在社時間を自動的に集計する。退社する場合や外出時、出張時はマグネットシートを裏返せばいい。「カラービットタグを使うことで、簡単に社内での勤務時間や在席確認ができるようになる。一日に一度、画像データを取得しており、それを見れば出張先などの情報が、別のフロアからも確認できる。一般的なホワイトボードをIoT化。情報をデジタル化でき、状況確認やログの収集につなげることができる事例のひとつ」と位置づけている。

在席状況などが個人ごとに確認できる。ホワイトボードをIoT化する事例

また、全社CTO室が運営しているWonder Labのライブラリにおいても、カラービット技術を採用した雑誌の閲覧管理に活用。雑誌の棚にカラービットタグを活用したパネルを置き、雑誌が持ち出されると、それをIPカメラが撮影し、どの雑誌が、何回持ち出され、どれぐらいの時間読まれたのかといったことを自動的に集計できる。この結果、どの雑誌が閲覧される回数が多いのかといったことがわかる一方で、なかには、1カ月に渡って、1回も取り出されることがない雑誌があることもわかり、読まれない雑誌と新たな雑誌を入れ替えるといったことも行われているという。

Wonder Labのライブラリでの導入の様子

雑誌を取ると、その下にあるカラービットタグをカメラが認識

「持ちだされた回数は少ないが、持ち出されている時間が多いものもあり、熟読されていることがわかる。より多くのエンジニアに利用してもらうための書棚づくりにつながる」という。

Wonder Labのライブラリで雑誌の閲覧管理を行っているソフトウェア管理画面

多く読まれている雑誌が置かれた書棚は赤く表示

Vieurekaプラットフォームを採用したソリューションは、これまでに、約5件の導入実績があったが、今後、正式に販売活動を開始。2017年度には、カラービットタグを活用したソリューションで約10件、顔認識技術を採用したソリューションで約10件の合計20件の導入を目指す。

さらに、自動車ナンバー認識技術を活用したソリューション提案を新たに開始するほか、パナソニックのAIソリューションセンターなどとの連携により、AIを活用した取り組みを開始。蓄積したデータをもとに、より効果的な売り場レイアウトの提案や、深層学習を活用して導き出したパターンを利用することで、IPカメラ側での分析を行うエツジコンピューティングの進化も目指す。