NVIDIA アジアパシフィック地域担当テクニカル・マーケティング・ディレクター Jeff Yen氏

NVIDIAは6月9日、COMPUTEX TAIPEI 2017に合わせて発表した、薄型ゲーミングノートPC向けのデザインプラットフォーム「Max-Q Design」について、都内で記者説明会を開催。同社がゲーミングノートPCに力を入れる背景や、薄さ18mm以下の筐体にGeForce GTX 1080を搭載するための工夫を紹介した。

「Max-Q Design」は、薄型ゲーミングPCの筐体にハイエンドGPUの搭載を可能とするデザインプラットフォームで、ASUSやMSI、Acer、CLEVOといったメーカーがこれを採用した薄型PCを展示していた。

17.9㎜厚でGTX 1080搭載のとんでもないゲーミングノート「ROG Zephyrus」
Max-Q DesignのGTX 1070搭載薄型モデルなど、MSIがゲーミングノートPC5製品
AcerのMax-Q対応ゲーミングノートPC、GTX 1080搭載で厚さたったの18.9mm

相反する要求を両立させる

NVIDIAでアジアパシフィック地域のテクニカル・マーケティング・ディレクターを務めるJeff Yen氏によると、ノートPC市場全体が落ち込む中、ゲーミングノートPCは非常に好調な推移を見せているという。GeForce GTXを搭載した製品の出荷台数は、2015年の1,000万台から、2016年には2,000万台と2倍に成長しているとしている。この勢いを持続させるための取り組みが重要になる。「Max-Q Design」もその1つだ。

Yen氏は「ゲーマーの夢」として、より薄く軽く、そして4Kでのゲームプレイも可能なほどの高いパフォーマンス、そして動作音が静か、そんなゲーミングノートPCがほしいと願っているという。しかし、それぞれの項目はなかなか両立させられないジレンマがある。

「薄くて、パフォーマンスが高くて、静かで」。確かにこれが実現できればすばらしい

デスクトップ向けのGeForce GTX 1080は高い性能を持つが、TDP180Wと電力消費も大きく、サーマルソリューションを考えると、非常に大きな筐体が必要となる。これをシステム全体が90Wで動作するゲーミングノートPCに搭載することは困難を極める。また、通常のゲーミングノートPCでは、比較的負荷が軽いブラウザゲームでさえ、プレイ中はファンのノイズが目立つような状況だ。

GPUだけで180Wの消費電力だが、これを90WクラスのノートPCに搭載するのは困難を伴う

こうした課題を解決するアプローチが「Max-Q Design」だ。「Max-Q」は航空宇宙工学に由来する言葉で「大気圏飛行の際、ロケットにかかる動圧が最大になる点」と定義されている。動圧が最大になるには、流体密度と相対速度の最適なバランスが重要となる。

「Max-Q Design」では「最適なバランス」という考え方をゲーミングノートPCの設計に取り込んだ。これにより、2014年に登場したNVIDIA GeForce GTX 880M搭載モデルと比較して、厚さは3分の1、パフォーマンスは最大3倍の製品が開発できるようになったという。鍵となるのは「電力効率を重視したGPUのチューニング」と「ゲーム設定の最適化」「放熱設計の改善」「次世代の電源レギュレータ」だ。

Max-Q Designによって、3年前のモデルと比べて3分の1の薄さ、最大3倍のパフォーマンスを実現

Max-Q Designを構成するための鍵となる技術

パフォーマンス重視ではなく、効率重視のチューニング

さて、通常のGPUではパフォーマンスを重視したチューニングが行われる。基本的には消費電力を上げれば、その分パフォーマンスも向上するわけだが、次第に伸びが鈍くなり、消費電力が大きくなっても、得られるパフォーマンスゲインはわずかになってくる。電力効率という面からみると、あまりよろしくないがそれでもパフォーマンスを追及するというアプローチだ。

消費電力が上がれば、パフォーマンスも上がりはするが、その伸びは小さくなる。つまり、ある一定のパフォーマンスから先はわずかな性能向上のために、多くの電力が必要となる

「Max-Q Design」では、その逆で電力効率を重視するアプローチを採用する。パフォーマンスの上昇率と消費電力のグラフを見ると分かるが、ある点までは性能の上昇率は右肩上がりで伸びていくが、そこを超えると急激に落ち込んでしまう。このピークの点こそが、パフォーマンスと消費電力のバランスが取れた最も効率のいいポイントだといえる。

横軸が消費電力、縦軸が性能の向上率。あるポイントに達すると銃撃に向上率が落ち込む。そこが「ピーク効率が得られるポイント」

もちろん、電力効率重視の場合は、通常のデスクトップ向け/ノートPC向けGPUほどのパフォーマンスは得られないわけだが、それでも現行の薄型ゲーミングノートPCに搭載されているGeForce GTX 1060と比べても大幅な性能向上が実現できる。

性能を最優先にしない状態でも、GeForce GTX 1060との性能差は大きい

チップ自体は、通常と「Max-Q Design」用のGPUで差はなく、同じものを採用している。ソフトウェア側で電力管理を行っているという。また、電力とクロックの調整については、ピーク効率が得られるポイントをベースとして、各ベンダーと協力しながら最適化を進めているとした。

「Max-Q Design」に対応するGPUについて、GeForce GTX 1080/1070のほかに、GeForce GTX 1060のサポートはあるのか尋ねたところ、「重要なのはユーザーにとって価値があるかどうか。18mmのノートPCでGeForce GTX 1080が動いているのに、GeForce GTX 1060を搭載することに意味があるだろうか?」とのこと。

「Max-Q」は静音性も重視

「Max-Q Design」では、従来のゲーミングノートPCでありがちな騒音も軽減。通常でも40dB以下のノイズレベルに抑えるという。そしてさらなる静音動作を実現する動作モードとして「WhisperMode」を追加する。これは「GeForce Experience」を通じて利用できる機能で、グラフィックスなどゲームの設定を調整することで、負荷をコントロールする。

Max-Q Designでは、通常でも40dB以下のノイズレベルを目指す。「ここは非常に力を入れて取り組みたい」とYen氏

「GeForce Experience」に「WhisperMode」を追加

ゲームタイトルごとにターゲットとするポイントは異なり、例えば「Overwatch」では60fps、「The Witcher 3」では30fpsでのゲームプレイを前提として、効率の良いグラフィックス設定を決めているという。

ゲームタイトルごとにターゲットとするポイントは異なるが、「Overwatch」では60fpsを前提としたグラフィックスと消費電力の調整となる

また「WhisperMode」は、「Max-Q Design」だけでなく、通常のゲーミングPCでお利用できるとのことだ。

ノート以外の展開は? - 質疑応答から

説明会では、質疑応答や囲み取材も行われた。この中で出たトピックについてもいくつか紹介したい。

まずは「Max-Q Design」はノートPC限定なのか? ということ。例えば、COMPUTEX TAIPEI 2017では「Vortex G25」のような薄型ゲーミングデスクトップPCが登場、さらに国内ではマウスコンピューターのG-Tuneから「NEXTGEAR-SLIM」といった製品も展開している。こういった薄型デスクトップPCでも「Max-Q Design」を広げるか? という質問については「いまのところそうした予定はない」(Yen氏)という。

続いては最終製品の価格に関して。Max-Q Designの開発は、従来製品よりもコスト高になるのでは? という質問に対しては、「Max-Qでは電源回路に高品質なものを採用するため、通常よりコストはかかるかもしれないが、だからといって通常の製品よりも大幅に高値になるということはないと思う」とした。

また、ゲーミングノートPCの中には、それ自身が静音向けの動作モードを持つものがあるが、「WhisperMode」と併用は可能か聞いたところ、「実際にどうなるかは分からない。その静音モードがどういう仕組みで動いているかにもよるが、おそらくWhisperModeには影響がない。静音モードが温度などを見ているならば、Max-Q Designには影響するかもしれない」とのことだった。

ASUSやMSI、CLEVOなどから製品が投入される。ASUSやMSIは日本国内でゲーミングPCを数多く投入しているし、CLEVO製品は国内メーカーのベースとなっていることが多い