イケメン扱いされる俳優は、とかく、見た目じゃなくて実力で勝負したいと考える。そのために、キラキラした王子様的な役や正義感に満ち溢れたヒーローではなく、ちょっと悪い役に挑むのだ。

東出昌大

朝ドラ『ごちそうさん』で、妻思いの旦那様役を演じて全国区の人気を得た東出昌大も、そのときの世間の評価に甘んじることなく、パラサイト(『寄生獣』)、アウトロー(『GONINサーガ』)、ヘタレ(『ヒーローマニア -生活-』)、実在する天才棋士(『聖の青春』)、天才捜査官(『デスノート Light up the NEW world』)……などなど様々な役柄に挑んで来た。

モデル出身の東出は、自分自身よりもまず、服の魅力を引き出すことを訓練されているため、役を服に置き換えて考えると、役の本質を理解し、その魅力をより良く見せるように振る舞えるはずだ。阿部寛、大沢たかお、田辺誠一、伊勢谷友介、井浦新……とモデル出身の名優は多く、彼らは皆、そういった能力に長けている。

『あなそれ』でイケメンと真逆の高評価

東出昌大は目下、世紀のW不倫ドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系毎週火曜10:00~/以下 あなそれ)で、(いい意味で)"気持ち悪い!"人物を的確に演じて、イケメンとは真逆の評価を欲しいままにしている。俳優としては、これほど嬉しい評価はないのではないだろうか。

『あなそれ』は、いくえみ綾の人気漫画が原作で、「2番めに好きな人と結婚するといい」と占われた主人公美都(波瑠)が、2番めに好きな人・涼太(東出)と結婚した後、過去1番好きだった男・有島(鈴木伸之)と出会い、両者既婚ながらつきあいはじめ、互いの家庭が次第に地獄化していくという物語だ。

東出演じる涼太は、2番めに好かれただけはあり、悪くない人ではある。眉や髪型にそれほど気を使ってないが、服はきちんとしたものを着ているし、なにより誠実だ。そんな彼が、ある時から妻の異変に気づき、その行動を監視しはじめる。まず、第1話で、妻が寝ている間にケータイの履歴を盗み見る、そのメガネ顔がやばく(映し方のせいもある)、かつての怪作『ずっとあなたが好きだった』(92年)の奇行の持ち主・冬彦(佐野史郎)の再来とまで言われた。名優・佐野史郎の代表作と肩を並べるとは、かなりのものだ。

涼太は、深い愛情ゆえの執拗な追跡により、あっという間に不貞の事実を知るが、彼は変わらず妻を愛し続ける。尻尾をつかんでいることを彼女に気づかせないようにニコニコし続けた結果、感情が爆発し、ハイテンションでワインを部屋にぶちまけたり(6話)、妻の好きな占いをしてもらいに、何軒も店をまわったり、ついに突きつけられた離婚届を書くと見せかけて、字を間違え、ニコニコしながら破いたり(7話)と、回を増すごとに攻撃的になって来ている。

そうなればなるほど、美都の心は涼太から離れていくというのに……。2番目に好きだった事実はどこへやら、「あなたの笑顔は息が詰まる」とまで美都に思われてしまう。ああ、可哀想な涼太!

東出昌大の真の役割は

そう、東出昌大の『あなそれ』における真の役割は、彼が狂っていくのも無理はないと視聴者に思わせることではないだろうか。と、思って観ると、東出のニコニコは、美都から見たらすごく気持ち悪いものだが、ほんとうは実にピュアで一途な顔にも見えてくる。

東出が巧いと思うのは、いくえみ綾の漫画の登場人物が、能面のように、感情が角度によっていかようにも見えるようなタッチで描かれているところを、果敢に体現しているようなところだ。優しく能動的な涼太の行き過ぎた愛情が、気持ち悪いと拒絶されるほどの狂気になっていく。向き合っている美都の思いを受けて、変容していかざるを得ないから、その奇行は時にトゥーマッチにも見える。自己コントロールできず、冴えた対応のできない涼太の滑稽さが痛ましい。

東出が涼太をおかしく演じれば演じるほど、軽く浮気している美都のダメっぷりが際立っていく。東出昌大は、自分の役だけでなく、相手役の魅力も倍増させているのだ。それはまるで、ファッションショーで、女性モデルを素敵にエスコートする男性モデルのようでもある。

■著者プロフィール
木俣冬
文筆業。『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中。ドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』、構成した書籍に『庵野秀明のフタリシバイ』『堤っ』『蜷川幸雄の稽古場から』などがある。最近のテーマは朝ドラと京都のエンタメ。