【レポート】

PRは何をすべきなのか? - 「戦略PR」を唱えるブルーカレント 本田氏に聞く

ブルーカレント・ジャパン 代表取締役社長/CEOの本田哲也氏は、今年の4月、従来の社会常識に挑み、人々がものを「買う理由」をつくりだす6つの法則を解説した「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」(ディスカヴァー・トゥエンティワン) を出版した。この本は2009年に出版しヒットした「戦略PR」について、最新事例を加えながら書き下ろした最新の解説書だ。そこで、本田氏に同氏が考える「戦略PR」について改めて聞いた。

本田哲也

ブルーカレント・ジャパン 代表取締役社長/CEO
1970年生まれ。戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショ ナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。
1999年、世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。
2006年、ブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『戦略PR』(アス キー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。
『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(田端信太郎 氏との共著、ディスカヴァー刊)などの著作、国内外での講演実績多数。2015年よりJリーグマーケティング委員。
2015年の「PRWeek Awards」にて「PRProfessional of the Year」を受賞。「カンヌ ライオンズ2017」PR部門審査員。

本田氏がPRの世界に関わったのは、1999年にフライシュマン・ヒラード・ジャパンに入社したのが始まりだ。それまで同氏はセガの海外事業部で営業の仕事をしていた。当時、フライシュマン・ヒラードは日本法人を立ち上げたばかりで、日本法人の代表取締役社長に就任した田中愼一氏が、以前、セガ時代の上司たったいう関係もあり、田中氏に誘われ入社したのだという。

本田氏は当時を振り返り、「PRには可能性があると思っていましたが、最初の頃はPRが何かもわからず、外資系企業とのギャップも感じていました。それが2年目あたりから、BtoB企業の記者会見のアレンジ、企業合併後アナウンスメント、日産グループの社員向けのメッセージをどう発信するかなど、刺激的な仕事ができるようになりました。また、最初は自分の得意分野を何にしていくのかわかりませんでしたが、すべての分野で専門家になるのは不可能だと悟り、消費財担当になると決めてからはブランドマーケティングの基点ができました。また、米国出張でフライシュマンの消費財担当のイベントに参加したことも大きな刺激になりました」と、PRへの興味が強まったきっかけを語った。

その後、フライシュマン・ヒラードは、コンシューマーブランドマーケティングに特化したグループ内企業「ブルーカレント・ジャパン」を2006年に設立。本田氏は代表取締役社長に就任する。

本田氏はその頃、P&Gの仕事をメインにしており、いい関係が続いていたという。そのため、ブルーカレントでは、P&Gで培ってきた戦略PRのノウハウ、インフルエンサーマーケティングをパッケージ化して、PRの面で遅れている日本企業に提供していけば、日本に貢献できると思ったという。

本田氏は、日本のPRが遅れている理由を、次のように分析する。

「日本のPRが遅れている理由は、パブリシティだと思われている点です。これは歴史でしかないと思います。PRは米国で生まれ、日本に輸入されたのは戦後間もなくでした。日本はその後、高度経済成長の時代になりましたが、その時代は大量生産、大量消費の時代です。そのため、マスマーケティングをやる必要があり、それがテレビの誕生と重なりました。当時、テレビ広告の下にパブリシティの入り、テレビ広告のおまけのような存在になりました。そのことが日本のPRの遅れに影響していると思います。さらに、1970年代に公害がクローズアップされてくると、企業が社会と向き合わないといけなくなり、広報部が作られました。日本の広報部はネガティブな点に対応するために作られたため、宣伝・マーケティイングと違う路線を歩んできました。そのため、攻めというより、守りの部署として位置づけられた点もPRの遅れに影響していると思います」(本田氏)

執筆のきっかけは「情報環境の変化」と「グローバル視点」

「戦略PR」から8年、今回、「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」を執筆した理由を本田氏は本の中で、「情報環境の変化」と「グローバル視点」の2つを挙げている。

「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

「情報環境の変化」については、ソーシャルメディアの登場が大きいという。

「ソーシャルメディアの登場と普及により、一般の人の情報消費スタイルが変わり、広告のあり方、PRのあり方も変わってきたと思います。もっとも大きいのは、情報の受け手が情報を発信する変化です。また、それまで限られた時間に限られたメディアからしか情報が取れなかったものが、自分で加工し、いつでも、どこでも情報を入手できるようになりました。このように、ソーシャルメディアの登場によって、情報の発信者と受け手の関係が変わり、情報取得の自由度が飛躍的に変わったと思います」(本田氏)

一方のグローバル視点については、「グローバライゼーションが2009年以降大きなテーマになり、海外との情報の垣根もなくなってきました。世界のどこが進んでいて、どこが遅れているというよりも、常にグローバル視点で見る必要になって来ていると思います」と説明した。

新たに3つの法則を追加

本田氏は「戦略PR」について、本の中で次のように説明している。

「属性順位転換を意図的に起こす方法論 - それが『戦略PR』なのだ。戦略PRによって「いい○○=××」という社会常識を変え、新たな『買う理由』を生み出すことができる」(「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」より)

そして、「戦略PR」には6つの法則がある。それが本書の主旨だ。

2009年に出版した「戦略PR」では、「おおやけ」「ばったり」「おすみつき」の3つの法則を解説しているが、今回の本では、「そもそも」「しみじみ」「かけてとく」の3つの法則を新たに追加している。

「おおやけ」とは、そのときの社会的な課題に対して、なぜ自分たちが解決できるかを示すこと、「ばったり」とは偶然性を演出すること、「おすみつき」とはインフルエンサーのように第三者の支持や推薦をもらうことだという。

今回、3つの法則を追加した背景を本田氏は、「『おおやけ』『ばったり』『おすみつき』の3つの法則は普遍的なもので、PRとは何かを端的に表しています。しかし、世の中の変化によって、この3つでは説明できない成功事例が登場してきました。そこで、覚悟を決めて一度分析しようと思い、過去5年間に賞を取った事例を数百分析しました。その結果、『そもそも』『しみじみ』『かけてとく』が出てきました」と説明する。

「そもそも」とは、表面化してはいないが潜在的に「みんながそう思っていること」で、これをPRで問いかけることで、同時多発的な気づきを喚起するもの。「しみじみ」とは感情を揺さぶり、当事者意識を持たせること、それがないと人々は行動を起こさないという。そして、「かけてとく」とは、機知性の発揮で、人に「やられた」「1本取られた」と思わせることで、それによって受容効果と共有効果が高まるという。

では、今回の本は、誰をターゲットに書かれたものなのだろうか?

「一義的なターゲットはPRや広告に携わる人がですが、PRの発想は全ビジネスパーソンに関係することなので、すべてのビジネスパーソンが対象になります。この本は、PRや広告に携わっていない人でも何らかのヒントになると思っています。そういう意味で、経営者や商売をされている人もターゲットになります」(本田氏)

そして、この本で一番訴えたかったことについて本田氏は、次のように語った。

「本の中で言葉を変えて繰り返し言っているのは、『世の中を見なさい』ということです。日本人は真面目で、自分が携わっている商品やブランドを近視眼的に見る傾向がありますが、その分、客観的視点が失われています。これがアキレス腱になります。冷静に世の中がどうなっているかが見られないと、井の中の蛙になります。現在は、ソーシャルメディアなど情報が洪水になっており、判断するのは企業ではなく、生活者になっています。井の中の蛙でいいはずがありません。もう少し、井戸の外も見ないとうまくいくものもいかなくなります。それがPRで、だからこそ、さまざまな企業の課題を解決する手助けができるのです。その具体的なものが『戦略PR』であり、パブリックリレーションだと思います」(本田氏)

そして最後に同氏はPRに携わる若手に対し、今後もPR業界は大きな成長分野だと語り、次のようにエールを送った。

「まだ、本来あるべきノウハウが日本にはないので、そのギャップが日本のPRのチャンスになります。今、日本はPRの重要性に気づき始めており、そのためPR会社の中には上場する企業も出てきています。景気に関係なく、右肩上がりの業界のため、そこでプロになる覚悟さえできてしまえば、成長できると思います。PRは深い世界なので、机上の空論だけでなく、チャレンジと苦労は必要ですが、今後はオリンピックなど、すごく大きな案件にも関われると思います。また、PRというのは代替性の低い業種で、企業が社内でやることができない、できる人が限られている業種です。今後も専門家に任せようという機運は続いていくと思います」(本田氏)



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