今年(2017年)のCOMPUTEX台北では、半信半疑ながらではあるが、Microsoftがこれからのパーソナルコンピューティングに大きなムーブメントを起こしそうな予感をもった。パソコンの業界のリーダーとして、これからのパーソナルコンピューティングがどのようにあるべきかを構想として提示できていたように感じる。

31日、開幕2日目の基調講演の壇上に立ったMicrosoftのNick Parker氏(Corporate Vice President, Original Equipment Manufacturer Division)は、インテリジェントクラウドとマルチプルデバイスについて言及し、それらが新しい将来性を生むとアピールした。それは、生産性とビジネスプロセスの再発明でもあるとした。

MicrosoftのNick Parker氏(Corporate Vice President, Original Equipment Manufacturer Division)

それに欠かせないのが新しいコンセプトのデバイスだ。それらが確実に暮らしを豊かにしていくだろうとParker氏はいう。

Parker氏は、先だって発表されたWindows 10 Sについても触れ、それが教育市場に拡がることで学びを変えていくにちがいないとし、会場で氏の話に耳を傾ける台湾のベンダーに向けて協力して新しいデバイスを作って新しい市場を作ろうと呼びかけた。業界全体の成長のためにはパートナリングが重要だとし、さらに、これまでの台湾パートナーの努力に対して謝辞を述べた。

いつでもクラウドとつながるWindows

そして、そのあとに発表されたのがAlways Connected PC構想だ。これは、Windowsパソコンが常時クラウドに接続されているようにするというものだ。Parker氏はこの発表をMatt Barlow氏(corporate vice president, Windows marketing)とPeter Han氏(vice president, partner devices and solutions)に譲った。実は、最初の違和感はここで感じた。

Snapdragon 835を搭載した最初のAlways Connected PCは、HPやLenovo、ASUSから出てくるという

パソコンよりずっとあとから出てきたスマートフォンは今、モバイルネットワークのおかげで、いつでもどこでも必ずインターネットに接続されているという特質を得ることができている。iPadやAndroidタブレットなどについてはモバイルネットワーク通信ができないものも少なくないが、スマートフォンに限って言えば、モバイルネットワークによる通話とデータ通信ができないものは皆無といってもいい。パソコンがずっとあこがれて、そんなことができる世の中にしようとしていたことを、ほんの数年で実現してしまったのがスマートフォンだ。

Always Connected PC構想は、Windowsパソコンにもそのような世界をもたらそうというものだ。もちろん、SIMスロットを装備し、モバイルネットワークにつながるWindowsパソコンは以前からあった。だが、ハードウェアベンダーは、そのためのハードウェアパーツはもちろん、キャリアネットワークとの互換性テストなどのためにかかる費用で、どうしても製品価格があがってしまい、意気込み通りには売れないという理由から、LTE機能内蔵のパソコンについてはあまり積極的に展開しようとはしてこなかった。

KDDIやVAIOのロゴも、世界の通信・ハードウェアパートナーが賛同

その消極的な状況にカンフル剤的に投入されようとしているのがこの構想だ。SIMではなくeSIMを使ってモバイルネットワークと接続する。そのためにMicrosoftは世界各国の通信事業者と大手のハードウェアメーカー各社との間でパートナーシップを結んだ。

Always Connected PC構想で名前が挙がった、通信・ハードウェアのパートナー

キャリアには日本のKDDIも含まれている。またVAIOもまた誇らしげにパートナーとして名前が挙がっていた。ASUS、HP、Huawei、Lenovo、VAIO、Xiaomiがこの構想に賛同し、Always Connected PCを作ると宣言したハードウェアベンダーだ。もしかしたらDellも含まれている。というのも、基調講演会場のスライドにはDellのロゴがあったのだが、直後に公開されたプレスリリースやHan氏のブログにはその名前がない。また、米国本社を含め、プレスリリースはメールで送られてきただけで、Webサイトにあるリストにはこの構想についてのものが現時点では見当たらない。もちろん日本マイクロソフトからもいっさいの発表はない(2日時点)。このあたりの微妙な温度差に、ちょっとした違和感を感じたりもするわけだ。

さらに昨年(2016年)暮れに中国・シンセンで発表されたQualcomm Snapdragon 835上で稼働するWindowsについても進捗があり、最初のベンダーはLenovoとASUS、そしてHPとなることが発表されている。

Qualcommは、COMPUTEXの会期中に会場近隣のホテルでデモンストレーションをメディア向けに披露したが、もう明日リリースしてもおかしくないくらいにまともに動いていた。

Snapdragon 835でスムーズに動く64bitのフルWindows

上の画面を出力している、実際のデバイスがこれ。Snapdragon開発用のリファレンスが使われている

もっともMicrosoftのハードウェアパートナー関連の施策は、かなりクローズドなものとして扱われることが知られている。ハードウェア開発者向けのWinHECにしても、基本的にはクローズドで、昨年も基調講演には参加できたが、技術セッション等は立ち入り禁止だった。

詳細は秋以降か、日本メーカーの動きも気になる

こうしたことを鑑みると、いろいろなことがはっきりしてくるのは、秋以降になるのだろう。モバイルファースト、クラウドファーストといいながらも、モバイルネットワークに接続されるパソコンに市民権を持たせることができなかったMicrosoftだが、今回の構想で、どのようなどんでん返しを見せてくれるのかに注目しておきたい。

ちなみに、先日は、new Surface Proが発表され、秋にはLTE機能搭載の製品が追加されることがアナウンスされた。だが、この製品はAlways Connected PCと呼ばれない。おそらくeSIMは実装されていないだろうからだ。

日本に戻ったらすぐにKDDIとVAIOに取材し、状況の詳細を聞いてこようと思っている。名前が見当たらない富士通やパナソニック、東芝にも話をききたい。もちろん個人的には、この疑心暗鬼が杞憂で、この構想が大きなムーブメントを起こすことを願ってやまない。