ある朝突然、体に異変を感じました

こんにちは、トイアンナです。私が人生で初めてうつになったのは、10代のころ。当時は学生で、世相を見れば「キレる17歳」「神戸連続児童殺傷事件」など物騒なキーワードが飛び交い、学級崩壊やイジメも大流行していました。

私も小学校は『北斗の拳』に近い環境でしたが、そこから逃れるために受けた私立中学校はいたって平和。学級崩壊はおろか、"スクールカースト"もほとんどありませんでした。

私はオタクとして青春を謳歌する一方、ギャルのグループとも普通に交流していました。手持ちの鬼束ちひろのCDを、ギャルが愛する浜崎あゆみとトレードしては「どっちも歌詞は孤独で大変だな」と分かち合う日々。カーストなき世では、中二病も雑草のように育ち放題です。当時の私は、自分に3つの人格があるという設定で小説づくりに励んでいました。

ところが、充実しているはずの学生生活に「死にたい」「息をするのがしんどい」と思う心の隙間が生まれました。最初はお風呂や歯磨きが面倒に感じられるなど、日常の動作がおっくうになっただけ。もともとインドア派で、体力に微塵も自信なし。「最近疲れてるのかな? 」「なんか今日やる気がないわ」と軽く放置していたのです。

ところが、ある朝。

「指が動かない」

ユウウツなあまり、体が動かなくなってしまったのです。

念じないと何もできなくなる地獄

その朝のことはよく覚えています。世界が灰色になり、どんよりしていました。体が重くて重くて動きません。そのときの私は必死でした。学校に遅刻してしまう。それでも体が動かない。ひとまず休みましたが、このままではダメだ。そして「小指よ動け」と必死で念じれば、なんとか指だけを動かせると気づきます。

小指、薬指、中指……とひとつずつ念じることで、可動範囲を増やします。念じ続けて体全体のコントロールを取り戻すまで、数時間かかる日もありました。学校へは何とか通えたものの食事は味がしなくなる。しかし自分を壊したくなり、どうでもいいジャンクフードを食べてしまう。夜中3時まで眠れないのに、日中は眠い。不規則な食事と睡眠で肌はボロボロになりました。

こんな調子で授業に集中できるわけがありません。成績は笑えるくらい急降下しました。ある期末テストで赤点を出してしまったときは、ふがいなくて友達の前で泣いてしまいました。親からも怠惰だと責められ、当時はとてもしんどかったです。

メンヘラサイトに気づかされ、救われる

唯一ラッキーだったのは、当時辛うじて家にインターネット環境があったこと。眠れない夜に「メンヘラ」という単語を知り、他人の自傷行為を見れば「自分だけじゃないんだ」と思えました。10代で眠れない人はたくさんいる、死にたいと思うことも普通だと。

けれど相手もメンタルが病んだ人たちですから、オンラインとはいえ安定した関係は築けません。簡単に更新できる今のブログとは違い、htmlを組んで更新しているページは書く側も大変だったでしょう。通っていたウェブサイトもぽつり、ぽつりと更新が止まっていきました。

きっと現実で社会復帰しているのでしょう。あるいは、きちんと入院したので更新が止まっているのかもしれません。けれど、更新ボタンを押しても変わらないページを見守るこちらの気持ちは、さながら墓参りのようでした。

一方、メンヘラのページに入れ込んでいる方には、自分の病状でマウンティングする人もいました。たとえば「私の方がもっとひどいから同情されるべき」「入院してからが本物のメンヘラだ」のように。治ったほうが楽になるはずのうつが、 気がつけば自分の存在感を示す道具にもなっている……。

いつしか「このままじゃダメだ。私は治りたい」と思えるようになりました。

精神科へ行くことを決意

「精神病なんて単なるなまけグセだ」と渋る親を説得すること1カ月。なんとか精神科を受診しました。そして、処方された抗うつ薬を試したところ、めきめき体調が良くなりました。あまりにあっさり回復したので、「人の気分なんて薬次第か」とショックを受けたくらいです。とはいえ回復期には自殺未遂も何度かやってしまい、本当に紙一重で生かされました。

私には他の合併症もあり、寛解までに10年弱もかかってしまいましたが、それでも死を意識しない今の暮らしはとても幸せです。これまで「死にたい」気持ちがずっと潜んでいて、何か嫌なことがあるたびに襲われていたのですから。それが今は、つらいことがあっても「死にたい」とまで思い詰めることはほとんどありません。

この10年弱の間、医者を変えざるを得なかったこともあります。もうだめだと心が折れかけたこともあります。それでも「医学を信じること」が、うつから復帰する上で私ができた最大の対策だったと今でも思っています。

※本コラムは個人の体験や取材に基づくものであり、医療的な効果などを示唆・保証するものではありません
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著者プロフィール: トイアンナ

外資系企業で約4年勤務。キャリアの一環としての消費者インタビューや、独自取材から500名以上のヒアリングを重ねる。アラサー男女の生き方を考えるブログ「トイアンナのぐだぐだ」は月間50万ページビューを記録。現在もWebを中心に複数媒体でコラムを連載中。