脚本家の小林靖子氏

特撮やアニメで数多くの作品を手がけてきた脚本家の小林靖子氏が23日、東京・LOFT9 Shibuyaで開催されたトークイベント「白倉伸一郎 プロデュース作品を振り返る。」に登場。その中で、2007年1月から2008年1月にわたって放送された特撮ドラマ『仮面ライダー電王』で主演を務めた俳優・佐藤健の魅力について語る場面があった。

「仮面ライダー」、そして「スーパー戦隊」シリーズといえば、若手俳優の登竜門として、これまでに多くの人気男性俳優を輩出してきた。中でも佐藤はその筆頭で、現在のドラマや映画での活躍ぶりは、もはや説明の必要もないだろう。日曜あさの特撮ヒーロー作品は1年という長い期間にわたって放送されるため、視聴者にとっても若手俳優が成長し、輝きを放ちはじめる瞬間を目撃できる機会にもなっている。

『電王』で佐藤が演じた主人公・野上良太郎は、「イマジン」と呼ばれる複数の怪人に憑依されるため、個性的な人格を演じ分ける必要のある難しい役どころ。当然、それだけの演技力があったために佐藤が選ばれたと推測するのが普通だが、小林氏は「佐藤君は当時、演技経験はそんなになかったのだけれど、すごく頭のいい人なので、いろんなパターンの芝居が求められる意図を理解して楽しんで芝居をしていたのが選考のポイントになったと聞きました」とキャスティングをめぐる事情を説明した。

小林氏の実感として、「最初の1・2話のモモタロス(が憑依した良太郎)はまだちょっとぎこちない」という面があったというが、そこから良太郎の演技はどんどん魅力を増していく。その理由について小林氏は、「モモタロスの憑依バージョンって、そのあといろんな方もやりましたけど、どうしても(スーツアクターの)高岩(成二)さん系のモモタロスになっちゃう。普通はみんなおちゃらけた方にいっちゃうんですね。でも佐藤くんは、"かっこいいモモタロス"をやることができる」と違いを分析。すると客席からも、過去のモモタロスを脳内で比較するだけの時間が流れたあと、大いに納得する声が聞こえた。

臆病、短気、女好き、ワガママなど、未知のキャラクターはいくつかの記号から立ち上げられる。一方でその記号を超えた時こそ、ファンの中でそのキャラクターが確かに生き始める瞬間でもある。「変な記号で表現しなくてもモモタロスができる。それがすごい」という小林氏の評価は、初主演作にしてすでに記号に還元できない"オリジナル"を作り上げる、卓越した役者としての片鱗を佐藤が当時から見せていたことの証言でもあるように感じた。そんなことを意識しながら作品を見直すと、また新しい発見もありそうだ。

「白倉伸一郎 プロデュース作品を振り返る。」は、平成仮面ライダーシリーズのプロデューサーを務めた東映の白倉伸一郎氏と、白倉氏にゆかりのあるゲストがグラスを片手にディープなトークを展開するトークイベント。6月9日の第二回には田崎竜太監督、7月29日の第三回には脚本家の井上敏樹氏が参加する。