現在放送されている春ドラマの中で、視聴者をザワつかせる作品だと話題を集める、小栗旬主演のカンテレ・フジテレビ系ドラマ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(毎週火曜21:00~)。毎話すっきり解決とはいかない展開も、視聴率は堅調に推移している。カンテレの笠置高弘チーフプロデューサー(CP)は、どのような思いでこのドラマを企画したのだろうか――。


テレビドラマでも本気になればできる

笠置高弘
1958年生まれ、大阪府出身。早稲田大学卒業後、1983年に関西テレビ放送入社。これまでドラマ『天体観測』『銭の戦争』『憧れの人』、映画『サヨナライツカ』などを担当。

今から3年前。主演の小栗旬から相談されたのが、今作のきっかけだという。

「小栗くんと新しい企画を探る話をしている中で、彼の方から『テレビでは無理だと思うけれど、こういう企画がある』と伺いました。それから、脚本の金城一紀さんを紹介してもらってお会いすると、金城さんも『5年前から考えているけれど、ドラマ化は難しいと思う』とおっしゃる。リアルなモチーフがある企画だから、私も正直なところ、はじめは映画じゃないと無理、テレビ向けではないと思いました」

それでも、30年にわたりドラマに携わってきた笠置氏の中で引っかかるものがあり、最終的には決断する。

「昨今の憲法改正や防衛問題、豊洲などを取り巻く問題など、今まで見て見ぬ振りしてきた"日本の負の遺産"のようなものを真摯(しんし)に見つめ直さないといけない時代なんじゃないか。そんな時代だからこそ、やるなら今しかないと思いました。それに、今ある多くのドラマが1話だけで全体像を見透かされ、『見る価値ないじゃん』と視聴者にそっぽを向かれているのは、文化ではなく文明だけの価値観でドラマを作っているから。このまま続けているとジリ貧になっていくばかり。でも、テレビドラマも実は文化を担おうと本気になれば、必ずその志は視聴者の方々にも感じてもらえるはずだという思いもありました」

さらに、小栗演じる稲見朗とは相反するキャラクターの田丸三郎役として、西島秀俊が出演に応じたことも大きかった。

「小栗くんに負けない存在感があり、かつアクションができて番組づくりを愛してくれる役者になると、僕の中では西島くんしかいなかった。彼の出演が決まった時に、この企画を本格的に進める決断をしました」

『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(カンテレ・フジテレビ系、毎週火曜21:00~)
『SP』シリーズなどの金城一紀氏が原案・脚本。主演の小栗旬演じる稲見朗、西島秀俊演じる田丸三郎ら、人に言えない過去を持つ公安機動捜査隊特捜班の面々が、これまでの警察ドラマの常識を越える"規格外"の事件に挑む姿を描く。
きょう23日放送の第7話(=写真)では、犯行予告を出したテロ組織「平成維新軍」に特捜班が立ち向かい、テロを防ごうと奔走する。

リアリティにとことんこだわった結果…

こうして話を聞くと、構想段階から触れ込みにある"規格外"のドラマであることが分かり、自らハードルを上げることに迷いは感じられない。リアリティにとことんこだわったセリフからもそれが伝わってくる。例えば、第4話(5月2日放送)で、警察庁警備局長・鍛治大輝(長塚京三)のこんなセリフがある。「北の方でミサイルの発射実験がやたらと失敗しているだろ」……まさに、最近の北朝鮮情勢を表しているようである。

「放送スタート時点ですでにクランクアップは済ませていましたが、金城さんの天才的な面がこうしたセリフ1つ1つに反映されています。脚本作りに入る前の作業として、20本弱ぐらいのプロットを出してもらい、選んだ中から綿密に流れを決めて、最終的な方向性については打ち合わせを重ねました。とにかく日本のリアルな闇を描いてほしかったので、通常のテレビドラマだったら助かるようなシーンでも爆破されてしまう(第4話)といった、金城さんの脚本をそのまま通しました」

アクションも"規格外"の仕上がりだ。クランクインの1年前から小栗、西島の2人は訓練を重ね、同じ公安機動捜査隊の田中哲司、野間口徹、新木優子の3人も加わり、50日間の特訓を受けたという。

MIPTV(仏・カンヌ)に参加した西島秀俊

「クランクインは第1話の新幹線のシーンから始めました。できるまで練習し続けた小栗くんが本気を見せると、西島くんを含めキャストの皆さんが『これはヤバい現場に来た』と声を漏らしたほど。監督もスタッフも、今回はこういうドラマをやるんだということを象徴する最初の新幹線のシーンで、意識を共有できたのかもしれません」

放送直前にフランス・カンヌの国際テレビコンテンツ見本市・MIPTVで実現したアジア初のワールドプレミアスクリーニング(上映会)でも、アクションシーンに定評があった。

「海外に出ていきたいと話す役者は多いですが、活躍されているのは渡辺謙さんなどに限られています。日本市場は中途半端に大きいことも関係していますが、アメリカや韓国と仕事をして以来、日本だけが世界に取り残されているという危機感を持ち続けていましたから、今回は良い機会になりました。アニメや時代劇だけでなく、日本でも面白いアクションエンタテイメントがあるんだということを知ってもらえたのではないかと思っています」