IBMは同社のコグニティブコンピューティングプラットフォーム「IBM Watson」の利用事例や活用法などを紹介する「IBM Watson Summit 2017」を4月末に開催した。基調講演などから見えてきた、Watsonがもたらすコグニティブコンピューティングのあるビジネス環境を改めて捉え直してみよう。

コグニティブが変える仕事の質とありかた

コグニティブコンピューティングとは、IBMがAIを使って仕事をする際のスタイルとして提唱している用語だ。単純に単語を直訳すれば「認知コンピューティング」とでも訳せるだろうか。単純なAIと何が違うのかというと、IBMによれば「ある事柄についてコンピュータが自ら考え、学習し、自ら答えを導き出すシステム」だという。

IBMはコグニティブを中心に「データ」と「クラウド」をつなぐ流れを描いている

ますますわかりにくくなっている感じだが、要素技術としては「自然言語認識」「傾向分析」「学習能力・意思決定」という3つの大きな柱を持っている。つまり、人間とは自然な会話で条件の入力が行え、データやユーザーの好みなどを学習しながら、与えられたデータをもとに「これが正解ではないか」とコンピュータが判断した回答を提示してみせる、というものだ。

概念だけ聞くと、昔のSFアニメなどが描いていたコンピュータそのものだという感じがする。パソコンが普及する前の「コンピュータ」のSF的なイメージは、人間が疑問を投げかけたり、データを入力して質問すると、正解とその確率を提示してくれるものだった。

実際にパソコンが普及してみると、それらがあまりに遠い夢物語だったと気づかされることになったのだが、パソコンの本格的な普及からおよそ四半世紀以上も経って、ようやく現実世界がSFに追いつき始めたともいえるだろう。

では、実際にコグニティブコンピューティングを導入した仕事とはどのような変革をもたらすのか。Watsonを導入したという企業は多いのだが、ライバルに真似されては困るということなのか、実際の事例はなかなか見ることができない。正直な話、Watson関連の取材をしていても、「Watsonがあるとどうなるの?」と聞かれても、即座に相手を納得させる具体的な答えは難しかった。

そんな筆者にとって、IBM Watson Summit 2017の基調講演で目を引いたのは、三井住友銀行のコールセンターで実際に導入されているシステムの紹介だ。同行ではコールセンターのオペレーターにWatsonベースのシステムを採用。顧客からの電話を音声解析して質問内容を把握し、顧客が求めている解決方法に最も近いと思われるデータをWatsonが表示してくれるのだ。この紹介の中で、珍しく画面付きでシステムが紹介された。