SAPは5月16日から3日間、米フロリダ州オーランドで年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW 2017」を開催した。今年の目玉は、IoT、機械学習、アナリティクスなどをまとめたツールセット「SAP Leonardo」の正式発表だ。インメモリコンピューティング技術「SAP HANA」以来の大型発表としている。本稿では、同社エグゼクティブ・ボード・メンバーでプロダクト&イノベーション担当のBernd Leukert氏が「勝つ(Win)」をテーマにした基調講演の模様をお届けする。

SAP エグゼクティブ・ボード・メンバーでプロダクト&イノベーション担当 Bernd Leukert氏

SAPは以前から、ERPなどの業務アプリケーションを「企業を動かす(Run)もの」として位置付けてきた。だが、あらゆる産業でクラウド、IoTといった技術がもたらす変化が進行しており、そのスピードは加速している。Runに加えて、"Win"によりデジタルトランスフォーメーションに向けた「デジタルのDNAを作ることができる」と、Leukert氏はSAPの戦略を説明する。Leonardoは"Win"を担うものとなる。キーワードは「オープン」だ。

マルチクラウドを実現するPaaS「SAP Cloud Platform」

Leonardoは新しい技術ではなく、既存の技術をIoT向けに集めた技術群となる。SAPのPaaSである「SAP Cloud Platform」を土台としたマルチクラウドインフラによるオープン性、豊富な機能などを特徴とする。

SAPが今年2月に再ブランディングしたSAP Cloud Platformは、Cloud Foundryの統合による抽象レイヤを設けることで、マルチクラウドを実現する。Leukert氏は、これまでAmazon Web Services(AWS)上で公開ベータとして提供してきた「SAP Cloud Platform Cloud Foundry」を、米国と欧州でGA(一般公開)にし、「Microsoft Azure」上でベータ提供を開始したことを発表した。「Google Cloud Platform(GCP)」もサポートする。

Googleとは今年3月に提携を発表しており、この日はGoogleのクラウド事業トップに就任したDiane Greene氏がステージに登場した。「SAPはビジネスアプリケーションのリーダーであり、われわれはクラウドにおける技術のイノベーションを続けてきた。2社は補完的な関係」とGreene氏。すでに発表されているGCPによるSAP S/4 HANAへの対応、GCP上でのSAP Cloud Platform、Googleの機械学習、深層学習での協業などに加え、「SAP NetWeaver」をGCP上でサポートすることも発表した。GoogleはGoogle TreasuryにGCP上のSAP HANAを採用するという。

そして、提携締結から2カ月で初の共同顧客として、ドイツのソフトウェアベンダーのsovantaがS/4 HANAのプラットフォームとしてGCPを採用したことを発表、4週間でGCP上にS/4 HANAをのせたという。

Googleとの提携は、オープン性の下で実現するマルチクラウド戦略となる。そのほか、SAP Cloud Platformはセキュリティ、モバイル、統合、アナリティクスなど、Open APIを用いて豊富な機能を利用できるほか、APIを持つデジタルコンテンツのストア「SAP API Business Hub」などパートナー/開発者のエコシステムも特徴となる。

ビジネスイノベーションプラットフォーム「SAP Leonardo」

Leonardoは「ビジネスイノベーションプラットフォーム」として、ビックデータ、機械学習、IoT、ブロックチェーンなど分野のSAP技術セットで構成される。SAP Cloud Platform上でこれらの新しい技術を結び付けることで、新しいアプリケーション、サービス、ビジネスモデルの開発を支援する。

Leonardoはイノベーションのための技術とツールセット

例えば「SAP Leonardo Machine Learning Foundation」は、財務、マーケティングといった特定の業務アプリケーション向けに機械学習アプリケーションのセットだ。また、「SAP Leonardo IoT Foundation」はモノからのデータをSAPのプロセスと組み合わせるための技術で、事前設定されたソリューションを用意する。再利用可能なサービスを用いて、カスタムIoTを構築できる。50種類以上のIoTプロトコルをサポートする「SAP Leonardo Edge」も備える。

「SAP Leonardo Blockchain」はマイクロサービスとしてブロックチェーン技術を提供することで、既存アプリケーション向けにブロックチェーンのブロックチェーン拡張を構築したり、SAP Leonardoの技術ツールと組み合わせてIoTや機械学習に統合したりできる。

デモでは、ドリルなどの工具のレンタルショップがメンテナンスシステムにSAP Leonardoを利用した例が披露された。

レンタル中の工具のメンテナンスは最悪のシナリオに基づき90日サイクルだったが、センサーを組み込むんでツールの動作状況をリアルタイムで得ることで、メンテナンススケジュールを最適化できる

レンタル中の工具に問題があると、その情報がショップのダッシュボードにポップアップ表示される。技術者派遣にあたって、ツールの使用データを見ながら、Co-Pilot(SAPのコグニティブ対話型UI技術)を利用すると「この顧客は100%つかっているわけではないので、急ぎではない」というレコメンを得られた

最終的に、工具のレンタルは日単位で課金していたところ、センサーにより使用量に応じた料金プランを用意するというビジネスモデルに変えた。