【レポート】

JAXAと欧州宇宙機関、機関間会合を開催 - 両機関の協力をさらに拡大・深化

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の奥村直樹(おくむら・なおき)理事長と、欧州宇宙機関(ESA)のヨーハン=ディートリッヒ・ヴァーナー(Johann-Dietrich Woerner)長官は5月15日、東京において機関間会合を開催した。両機関の協力をさらに拡大・深化させることを目的としたもので、この中で、両機関の協力実績を確認するとともに、今後も地球観測や有人宇宙開発、宇宙探査などの分野で、共同ミッションの実施や新たな事業の創出などで協力関係を推進することを確認。共同声明への署名がおこなわれた。

共同声明を持ち記念撮影に応じるESAのヴァーナー長官(左)とJAXAの奥村理事長(右)

記者会見するESAのヴァーナー長官(左)とJAXAの奥村理事長(右)

ESAのヨーハン=ディートリッヒ・ヴァーナー長官はドイツ出身で、現在62歳。ESA長官としての来日は今回が初ではあるものの、35年前には発電所の保安エンジニアとして、20年前にはドイツの大学の学長として来日。さらに3年前にはドイツ航空宇宙センター(DLR)の長官としても来日しており、その経歴を活かした流暢な日本語の挨拶で会場をわかせた。

そんな和やかな雰囲気で始まった会見の中で、奥村理事長とヴァーナー長官は、この直前におこなわれた会合において、大きく3つの分野において協力関係を推進することを確認したと明らかにした。

地球観測や測位衛星のデータ利用、産業振興での協力

1つ目は、地球観測分野などでのデータの利用や産業利用の拡大である。

日本はすでに温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)を打ち上げ、温室効果ガスの観測を行っており、現在は後継機「GOSAT-2」の準備も進んでいる。そしてESAでも、新しい地球観測衛星の開発と打ち上げに向けた準備も進んでいる。そこで、両者で取得したデータの校正を行うことで合意したという。また、地球観測衛星のデータの利用を拡大させ、産業振興につなげたいとの見通しも語られた。

ヴァーナー長官もまた、JAXAとESAはすでに地球観測分野でデータの交換をしているが、これをさらに強化したいと述べ、さらに共同で開発を進めている地球観測衛星「アースケア」(EarthCARE)の運用などを通じ、気候変動や地球温暖化の解決に貢献したい、と語った。またこうしたデータを使った新興国の支援や、農業への活用など、宇宙に関係する技術を生かした産業振興を進めていく考えを示した。

さらに、日本が準天頂衛星「みちびき」の構築を進めること、ESAですでに独自の全地球測位システム「ガリレオ」(Galileo)が稼働し始めたことにも触れ、衛星測位分野でもESAとの関係を強化し、産業振興に貢献することを目指した協力を提案したという。

奥村理事長は「ESAとはすでに、さまざまな分野で情報交換、意見交換を進めていますが、より産業につながるよう展開していきたいと提案をしています。たとえば欧州ではガリレオの運用が始まり、日本でも『みちびき』の2号機がまもなく上がるなど、新しい局面を迎えています。その中で、より産業振興につながる具体案を求めていきたいと考えています」と語る。

日本と欧州が共同で開発を進めている地球観測衛星「アースケア」の想像図 (C) ESA

欧州の全地球測位システム「ガリレオ」の想像図 (C) ESA

また、「今回の会合で初めて聞いた話では、欧州では1ユーロを宇宙に投資すると、数ユーロの利益が出るという試算があるそうで、これは経済協力開発機構(OECD)でもそのように試算されているそうなので、日本もOECDの加盟国として、どういう計算をしているのか調べてみたいと考えています」とも語られた。

それに対しヴァーナー長官は、その利益の一例として「たとえば欧州は彗星に『ロゼッタ』という探査機を送りました。ロゼッタはとても暗い灰色の彗星をカメラで探査し、その微妙な色の違いや地形を見分けることができました。その技術を地球で活かすと、たとえば森林でなにか灰色の物体が見えた場合、それが山火事なのか、ただの蒸気なのか、ということを見分けることができます」と語り、すでにその技術を使った監視カメラが100台以上生産され、販売されていると述べた。

さらに「将来の世代のための責任」(ヴァーナー長官)として、宇宙ゴミ(スペース・デブリ)や、地球に衝突する危険のある小天体などへの対策についても、意見交換をするなどし、その課題解決に共同で取り組んでいくことでも合意したという。

ESAの彗星探査機「ロゼッタ」が探査したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星。この暗い灰色の天体を探査した技術が、森林火災などの監視に活かされている (C) ESA

月や地球低軌道での有人活動における協力

2つ目は宇宙探査の分野で、2024年以降の国際宇宙ステーション(ISS)の活用の仕方や、地球低軌道における活動などについて、共同で検討することについて同意を得たという。

また、月や別の天体への探査でも、それぞれの得意分野を生かした共同ミッションを創出ことを目指した検討も進めることでも合意したという。とくに来年3月には、将来の宇宙探査を検討する政府間会合である国際宇宙探査フォーラム(ISEF)の2回目の会合が日本で開催されることもあり、今年の年末までに検討の結論を出したいと明言された。

奥村理事長は「具体的になにをやるかは、これから考えていきます。ただ、日本が比較的高い技術をもつロボット分野や、あるいは宇宙飛行士の生命維持システムなど、いくつか候補を持っています。今後の検討でどういうことができるかを見ていきたいと思っています」と語る。

またヴァーナー長官は、ESAが検討している「ムーン・ヴィレッジ」(Moon Village)という構想について言及した。

「ムーン・ヴィレッッジは、単に『月に村を作る』という意味のものではなく、国際的なパートナーなどとともに、無人・有人の制約なく月でなにができるのかを考える、オープンな場所として考えています。たとえば月の科学もあれば、月で夏休みを過ごす、という展開もあるかもしれません。そして月で推進剤が生成できれば、火星へも行きやすくなるかもしれません。その意味では、月は将来の有人探査への布石になりえます。これに日本も興味をもってくれたらうれしいです」(ヴァーナー長官)。

奥村理事長は続けて「今の段階で、日本が月や火星に人を送るということは考えていません。将来、宇宙をどのようによりよく理解し、その恩恵を地球に還元するか、という大きな目で議論していきたいと考えています」とも語った。

国際宇宙ステーション (C) NASA

ESAが構想している月探査計画「ムーン・ヴィレッジ」の想像図 (C) ESA

宇宙科学の分野での協力

3つ目は宇宙科学の分野である。

この分野でもJAXAとESAはすでに、水星探査ミッション「ベピコロンボ」などで協力しているが、昨年事故により失うことになったX線天文衛星「ひとみ」の後継機の開発や、火星衛星探査機(MMX)の開発へのESAの協力についても要請し、同意を得ることができたという。

開発中の水星探査機「ベピコロンボ」の想像図。2018年の打ち上げが予定されている (C) ESA

JAXAが開発中の火星衛星探査機「MMX」の想像図 (C) JAXA

この共同声明の意義

今回の共同声明の意義について、ヴァーナー長官「私にとって最も大切なことは、今回、共同声明に署名しましたが、これで終わりではないということです。むしろ、これからの活動の始まりを意味するものであり、これから2つの機関の協力関係がさまざまな分野に拡大し、さらに違う次元に進化していくのです」と語る。

また続けて「共同声明を読んでいただければわかりますが、ISSやISEFなど、さまざまな点について、具体的に明確なメッセージが入っています。両機関だけでなく、将来の社会のためになにができるのか、そのためにどういう協力ができるのか、ということが入っている点が大切です」とも語られた。

奥村理事長も「こうした共同声明を出すと、日常の活動を今一度、見直す機会になり、また活動の対象や幅を広げたり、進め方を加速させたりなど、とても大きな影響があります。まさにヴァーナー長官がおっしゃったように、これが終わりではなく、始まりなのです」と語った。

さらに奥村理事長は、この共同検討はオープンであることを方針としており、JAXAとESAだけに限らず、NASAをはじめ他国にも提案を呼びかけたり、参加を受け入れたりといったことを考えていると語り、ヴァーナー長官も「グローバルな協力には、グローバルな関係が必要だ」と述べ、さらなる国際協力とそれがもたらす成果への期待を語った。

会見するESAのヨーハン=ディートリッヒ・ヴァーナー長官

会見するJAXAの奥村直樹理事長

参考

JAXA | 欧州宇宙機関(ESA)との機関間会合と共同声明について
Moon Village: A vision for global cooperation and Space 4.0 | Jan Woerner's blog
欧州宇宙機関(ESA)との共同記者会見 - YouTube

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