「昨年の段階では、多くの人が、スマホにここまで多くの有機ELが採用されるとは思っていなかったのではないか。テレビでも同じような転換期がくる。小型(10型)から大型(100型)までをカバーできる印刷方式は、将来のデファクトになると考えている」としながらも、「JOLEDは、開発会社。生産設備の外販なども要望があれば対応していきたい」と、自前生産にこだわらない手法で有機EL市場の拡大に取り組む姿勢を示す。

一方、10型以下の小型パネルについては、「現時点では材料の問題など課題が多いが、さらなる高精細化技術の開発に取り組んでいる。400ppiの実現に向けて、材料、装置の開発などにも着手しており、課題が解決されれば、小型有機ELパネルの市場でも、RGB印刷方式は戦っていける」とする。

小型パネル市場は、ジャパンディスプレイも、液晶パネルや蒸着式有機ELパネルを投入しており、市場での食い合いも想定されるが、「現時点では、印刷方式の小型有機ELパネルが生産できるのであれば、それでいきたい。だが、それは不可能。その観点からジャパンディスプレイは、小型有機ELパネルは蒸着でやり抜くことを決めた。現時点で食い合うことはない」と説明した。だが、JOLEDの東入來社長兼CEOは、今後の技術進展によって、近い将来、RGB印刷方式によって、小型有機ELパネル市場に、JOLEDが参入する可能性も示唆する。

とはいえ、JOLEDが推進する中型、大型領域では、有機ELパネル対液晶パネルという競争軸が成立するのは、量産体制の確立などを考えれば、もう少し先のことになりそうだ。

JOLEDの東入來信博社長兼CEOも、「JOLEDにとって、いまは技術確立の最終段階に到達したところ。製造、販売はこれからであり、ここにジャパンディスプレイのインフラを活用できる」と期待する。

むしろ、有機EL市場のなかでは最後発となるRGB印刷方式による有機ELパネルがJOLEDから出荷されたことで、小型から大型までをカバーする環境が整い、有機ELへの流れを、ひとつの陣営として形成することが可能になったという要素の方が大きい。ただ、言い換えれば、有機ELの技術的主導権争いが本格的に始まったといってもいいかもしれない。

気になるジャパンディスプレイとの関係

もうひとつの注目点は、ジャパンディスプレイとJOLEDとの関係だ。

現在、JOLEDは、産業革新機構が75%、ジャパンディスプレイが15%を出資。ソニーおよびパナソニックがそれぞれ5%ずつを出資しているが、ジャパンディスプレイが、産業革新機構から株式を取得し、JOLEDの持株比率を過半数にまで引き上げることを決定。2017年内には取得完了を目指し、連結子会社化する。

また、JOLEDの東入來信博社長兼CEOは、4月1日付けで、ジャパンディスプレイの副会長執行役員を兼務。6月以降、ジャパンディスプレイの社長兼CEOを兼務することになる。もともとJOLEDは、ジャパンディスプレイの新規事業会社としての位置づけであったが、経営不振に陥っているジャパンディスプレイの現状や、経営トップにJOLEDの東入來社長が就くことで、JOLEDの存在感は高まることになる。

JOLEDは、有機ELパネルに関して特許を2600件保有し、申請中のものが1700件。とくに、印刷方式に関するものでは1500件の特許を保有あるいは申請中だという。

また、材料、装置、プロセスの開発までを1社で行っている点が、印刷方式を採用している他の企業との差別化になっており、ここでも強みを発揮できる。

これからJOLEDに対する投資をどう加速するのか。そして、ジャパンディスプレイを立ち直すスプリングボードとなるのか。有機ELパネル市場の立ち上がりとともに、その点にも注目しておきたい。