18日のGlobal Accessibility Awareness Day(GAAD)にあわせ、Apple Store各店舗でアクセシビリティの基本のセッションが実施された。これは、ワールドワイドな取り組みで、日本ではApple Watch at Isetan Shinjukuを除いた全店舗でセッションが催行された。

Apple銀座で開催された「視覚に障害がある方のためのApple Watchの基本」

GAADはWeb、ソフトウェア、モバイルデバイスなどに於けるアクセシビリティの普及を世界全体で考えるという日で、デザイン、開発、ユーザビリティ、その他の関連するコミュニティなど、テクノロジーとその利用機会を創出したり、提供したり、影響を与えたりする人々を対象としている。

Apple銀座では「視覚に障害がある方のためのApple Watchの基本」が開かれた。これは、昨日紹介した「Today at Apple」において「Basics(基本)」と呼ばれているプログラムである。なお、Today at Appleの提供に伴って、これまで「イベント」「ワークショップ」「プログラム」などと呼ばれていた催事は「セッション」という名称へと統合される模様である。

18日のAppleのWebサイト

セッションのスタートに先立って、Appleのアクセシビリティに関する取り組みが紹介された。本日、AppleのWebサイトのトップページは「誰もが使えるテクノロジーこそ、最もパワフルなテクノロジーです。」という見出しとともに、アクセシビリティ機能に関する動画7本を掲載したページへのリンクが貼られている。これら7本の動画はAppleのYoutubeチャンネルにも日本語字幕付きでアップロードされている。動画のページにはあわせて、ビデオの中味をテキストで表示するリンクもあり、聴覚などの身体機能において障碍を抱える人々にも内容が理解できるよう配慮がなされている。

今回はセッション名の通り、Apple Watchのアクセシビリティ機能にフォーカス。国内のApple StoreのセッションでApple Watchをフィーチャーするのは、この回だけのようだ。前半はズーム表示をはじめとした視覚サポート機能を、後半はジェスチャーで操作する画面読み上げ機能「VoiceOver」を取り上げた。

表示を15倍まで拡大できるズーム機能

Apple Watchでは、腕時計のリューズにあたる「Digital Crown」で画面を上下に動かすことで、表示している内容を最大15倍まで拡大できる。文字盤ではカスタマイズすることで、数字を画面いっぱいに表示することも可能だ。他に拡大機能では、フォントの調整が行える。メール、メッセージ、設定といったDynamic Type機能に対応しているアプリのテキストを、より大きく、より読みやすいサイズに調整可能だ。表示フォントを太くすることもできる。

Apple Watchの画面の「見え方」が問題となる場合もある。その際には、ということで、ホーム画面やアプリなどをグレイの色調だけで表示する方法、ホーム画面のアイコンの動きなど、画面の一部の要素をシンプルな表示にする「視差効果を減らす」をオンにする方法が紹介された。他にも、Apple Watchで設定がオンかオフかを分りやすくするために、オンとオフのスイッチに追加のラベルを表示させる「オン/オフラベル」などの解説が。

Siriを利用してメッセージやメールを作成する

Siriを使って、メッセージやメールのテキストを作成する方法のレクチャーもあったが、参加者の表情を伺っていると意外とSiriの機能はご存じないといった様子。Apple Watchのマイクから音声を拾って、メッセージの宛て先指定や件名、本文の入力を行うのだが、あたかもSiriと会話をしているかのように事が進んでいくのに、驚きの声が上がる瞬間も。参加者からは「長文を打ちたいとき、ちゃんと認識してくれるの?」という質問が出てきたが、その場合は、句読点を意識して、当該箇所で一呼吸おいて話しかけると、上手くテキストを生成してくれるということだった。

VoiceOverをオンにすると、画面の中でアクティブになる(候補)の箇所が角の取れた四角で囲われる

後半のVoiceOverの解説は筆者も驚きの連続だった。Apple Watchにこんな機能があったとはという感じである。VoiceOverをオンにすると画面の中でアクティブになる(候補)の箇所が角の取れた四角で囲われる。そこをタップすると例えば、時刻を表示して(四角で囲われて)いれば今何時なのかApple Watchのスピーカーから、声で教えてくれるし、アクティビティの進捗状況が表示されていれば、ムーブで何Kcal消費したか、エクササイズを何分行ったか、スタンドは何回できているかを音声で読み上げてくれるのだ。

アプリのアイコン表示に移動すると「時計」アプリが四角で囲われ、続いて「時計、○時○分」という音声が流れる

Digital Crownをクリックしてアプリのアイコン表示に遷移すると、まず「時計」が四角で囲われ、続いて「時計、○時○分」という音声が流れてくる。アプリを次々に選択していくと、それにあわせて四角の囲いも移動し、今、何のアプリが選ばれているか教えてくれるのだ。ここでスタッフから一言。デフォルトのアプリのアイコン表示では、真ん中になっているのは「時計」で、その列は「時間」の概念に関連付けられたアプリが並んでいる、と。なるほど、そうか、そういう並びになっているのが分っていれば、選択するのもあれ?どこだっけ?と探さなくても済む。ちょっとしたところにも気が利いてるのがApple製品の特徴だということをすっかり忘れていた。

続いて、感圧センサーを利用した「Taptic Engine」を応用した機能の実演が。「Tapticタイム」と呼ばれるこの機能では、タップの連続で時刻を教えてくれるのだ。画面をダブルタップすると時間と分を、指1本で3回タップすると分のみをフィードバックしてくれる。例えば、今、11時25分だとすると、長めの振動が1回(10時台ということを知らせる)、続いて短めの振動が1回(0~9時であることを知らせる)、間をおいて長めの振動が2回(20分台であることを知らせる)、続けて短めの振動が5回(0~9分であることを知らせる)という風に。VoiceOverをオンにすると、Apple Watchが延々と喋る続けるということになるのだが、音声情報が流れ続けるのには少し抵抗があるという人で、時間だけパッと分るようにしたいという向きにはピッタリの機能だと思った。筆者は以前、Apple表参道で開催された、眼科専門医の三宅琢氏と、北京パラリンピック柔道日本代表の初瀬勇輔氏のセミナーに参加したことがあるのだが、この時、両氏から、専用の支援ツールは、取り出すだけで、周りの人々に「障害者であること」を主張し過ぎる面があり、それはとても心理的にストレスとなるという発言があったことを思い出した。音声が流れ続けるのが気になるようなら、この機能を使ってみてはいかがだろう。

また、VoiceOverの機能を参加者全員で試していて気付いていたのだが、一斉にApple Watchが喋りだして、何を読み上げてくれているのかわからなくなってしまう瞬間があった。これはちょっと特殊な状況ではあるのだが、街中でガヤガヤ五月蝿いところではどうしたら良いのだろう?

Beats by Dr. Dreの「BeatsXイヤフォン」

一つは、単純にApple Watchを耳に近づけるというのがある。あるスタッフは、肩に掌乗せて、Apple Watchを耳に近づけると聞き取りやすくなるとアドバイスしてくれたが、もっと良いのはBluetoothイヤホンだろう。特にBeats by Dr. Dreの「BeatsXイヤフォン」がお勧めだという。何故か? もちろん、Apple W1チップを搭載しているからiOS 10を搭載してiPhoneやiPadを使っているなら、ワンステップでBluetooth接続が行え、iCloudに登録したデバイス間で瞬時の切り替えが可能となるというのはあるが、それらに加え、BeatsXイヤフォンは複数デバイスとの接続が行えるからだ。ちなみに、その機能はAppleのワイヤレスイヤホン「AirPods」にはない。複数デバイスとの接続が可能となることで、iPhoneとApple Watchの両方が、ペアリングを意識せず利用できるようになる。

前述の専用の支援ツールが目立ち過ぎる云々以前に、Apple WatchやiPhoneは一般的に利用者が多いから、周りの人も簡単にサポートができる。例えば、手話で何かを伝えようとしても、それが分らなければメッセージを受け取ることはできないし、点字にしても、それを操れるようになるまでには、それなりに時間がかかるが、皆が使ってるものなら、そうした問題は取り払われる。また、Apple製品には、最初から支援技術が搭載されているから、最も入手が容易な補助デバイスであると言えるのだ。多くのことを、もっと多くの方法でできるよう、様々な機能が採用されており、アクセシビリティの理念そのものが、組み込まれているのである。だから「誰もが使えるテクノロジーこそ、最もパワフルなテクノロジーです。」という言葉も力強く響く。

アクセシビリティに限らず、環境問題への対策、サプライヤー責任など、Appleが取り組んでいる、企業としての社会的貢献は高く評価されてしかるべきである。彼らは単にスローガンを掲げるのではなく、アクチュアルな実践として行動を起こしているのだ。これがまた「Today at Apple」のセッションとして組み込まれたことも興味深い。それを「現代版の公共広場」と位置づける中で、垣根を取っ払ってApple製品を全ての人へという想いが、ストレートに伝わってくる。