間もなく発売から半年を迎えようとしているAirPods。評判が高く品薄状態が続いている割には街中で見かける機会はあまり多くない気がする。実際のところはどうなのだろうか。2週間ほど使用してみたので、そのレポートをお届けしたい。

AirPodsとは

AirPodsはAppleが2016年12月に販売を開始したワイヤレスイヤホン。充電器と予備バッテリーを兼ねたケースに収納されており、取り出して耳に装着するとペアリングしたiPhoneに接続される仕組みになっている。

コロンとしたAirPodsのケース

裏面にペアリング用のボタンがあるが、完全にフラット

AirPods本体に合わせた形状の穴にマグネットで吸着され、逆さまにしても落ちない

初回はiPhoneの近くでふたを開け、裏面のボタンを押すことでペアリング

初めてAirPodsの写真を見た時、疑問を抱いた人は多いのではないだろうか。筆者もその一人だ。落とす、なくす、うっかり踏んづける……何度シミュレーションしてみても、その状況が頭の中に思い浮かぶのだ。これ、どうなの? 不安を拭えぬまま、まずは使ってみることに。

落ちるのはイヤーピースのせいではなかった

もともと筆者はイヤホンというものが苦手である。カセットテープもCDもMDもスキップして最初に使った携帯音楽プレーヤーはiPod shuffle。あの丸いイヤホンをどうすればうまく耳に収められるのか分からず、ぐりぐり押し込んだつもりなのに立っているだけでポロっと落ちてくる現象に悩まされたものだった。

2012年、iPhone 5 発売と同時にAppleの純正イヤホンは「EarPods」という名でリニューアルされ、イヤーピースの形状が大幅に変わった。当時の発表会で「ヒトの耳は生体認証に使われるほど個人個人で形が異なっている。万人の耳に合うイヤホンを作るのは、万人の足にフィットする靴を作るのと同じくらい難しかった」(大意)と紹介されたのが印象に残っている。実際、万人の耳に合うイヤホンは筆者の耳にも合い、生まれて初めて「音楽を聞きながらジョギングする」という体験を得た。ただし、それが全然落ちないわけでもなかった。

そんなことを思い出しながら初めてAirPodsを装着する。片耳に入れると「ふぉん」と起動音が鳴り、iPhoneと接続したことを知らせる。もう片方を入れる。と、普通のイヤホンと何かが違うことを感じる。確かに、耳に何かがはまっている感触はあるのだが、驚くほど軽いのだ。バッテリーが内蔵されている分、イヤーピースの重量はAirPodsのほうが明らかに重いはず。なのに、体感ではAirPodsのほうが軽い。

落ちるのではないかと、そっと首を縦に振り横に振ったがそんな気配はない。ブンブンと振ってみても、立ち上がって歩いてみても変わらない。なんだこれは。なぜこの状態で落ちないんだ。

EarPodsとAirPods。頭の形状はほぼ同じだが、AirPodsは軸が太く、全体が長い

重さの違い。耳にぶら下げる重量はEarPodsのほうが重いことになる

考えてみれば、イヤホンはコードも含めた重量が耳にぶら下がっている上に、コード全体が揺れや引っ張りなどの作用を受ける範囲になっている。AirPodsはコードがない分全体の重量は軽く、AirPods本体に触れない限り揺れや引っ張りの影響を受けることはない。イヤホンがポロっと落ちる原因は耳にはまっている部分そのものよりも、コードにかかる力がそこに集中することにあったのではないか。また、落ちるほどの力が加わらない時でも、コードの存在が首の動きの抵抗になっていることを、ワイヤレスになってみて初めて感じた。実際の重量以上にそのことがAirPodsの体感重量を軽くしているのだろう。

そんなわけで、驚きをもって使い始めたAirPods。最初は恐々だったが、外を歩いていても、階段を上り下りしても、ジョギングをしても落ちない。結局2週間のうちに一度も落ちることはなかった。

Apple Watchともペアリング。iPhoneなしで音楽を聞きながらワークアウトが可能

今のiPhoneは(女性は特に)衣類のポケットには入れにくいので、カバンに入れる。イヤホンを使えばカバンと耳の間がコードでつながれる。カバンを下ろす、持ち替える、物を出し入れするなど、動くたびに動作をコードで阻害される。これからの季節、傘を持っていればなおさらだ。また、冬場はマフラーやコートの襟が物理的な障害になって外れたり、イヤホンをしていることをうっかり忘れてコートを脱ぐとiPhoneまで道連れで落としてしまったりする。コードが邪魔だと感じた経験は、おそらく多くの人にあるはずだ。

イヤホンを気にしなくて良いことで得られる自由さは、プールで長く泳いだ後に水から上がるとふっと足が軽い、あの感じに似ている。人間は抵抗に適応していずれ自然に受け入れてしまうものだ。今のイヤホンに不満がないと思っている方も、これはぜひ一度体験してみてほしい。