【レポート】

NASA、新型ロケットの初打ち上げ延期 - トランプ氏要請の有人月飛行は断念

米国航空宇宙局(NASA)は5月12日(現地時間)、新型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」の初飛行で、宇宙飛行士を乗せて月を往復するという案について、実施しないことを決定したと明らかにした。これはトランプ政権からの要請を受けて検討していたもので、主にコスト増加が理由だという。

NASAは当初の予定どおり、初打ち上げは無人で行い、その後有人での月飛行を実施する考えだが、ロケットや宇宙船の開発が遅れていることから、これらの実施時期も数カ月から年単位で遅れる見通しだという。

打ち上げを待つ、NASAの新型ロケット「スペース・ローンチ・システム」の想像図 (C) NASA

NASAの新型宇宙船「オライオン」の想像図 (C) NASA

NASAの新型ロケット「スペース・ローンチ・システム」と新型宇宙船「オライオン」

NASAは現在、2020年代に月へ、そして30年代に火星への有人飛行を目指して、超大型ロケット「スペース・ローンチ・システム」(SLS)と、長期の宇宙航行に耐えられる新型宇宙船「オライオン」の開発を進めている。

SLSは全長100mにもなり、完成すれば現在運用中のロケットの中で、最も強力な打ち上げ能力をもつ。有人ロケット型と貨物ロケット型の大きく2種類があり、前者はオライオンを、後者は有人月・火星飛行に必要な、宇宙飛行士の居住区や着陸船、物資などを打ち上げる。新型ロケットではあるものの、ロケット・エンジンやタンクなど機体の大部分は、かつてのスペース・シャトルの技術や部品を流用する。

オライオンは、かつて月に人を送ったアポロ宇宙船を一回りほど大きくしたような宇宙船で、最大6人を乗せ、月や火星まで飛んで帰ってくることができる能力をもつ。すでに2014年12月には、無人での試験飛行に成功している。

NASAはまず、2018年11月に、SLSに無人のオライオンを載せて打ち上げ、月を何周かしたあとに地球に帰還する「探査ミッション1」(Exploration Mission 1、EM-1)を行い、続いて2021年の夏ごろには、宇宙飛行士が乗ったオライオンを打ち上げ、1~3週間ほどかけて地球と月を往復する「探査ミッション2」(EM-2)を行うことを計画していた。

打ち上げられたSLSの想像図 (C) NASA

月の上空を飛ぶオライオンの想像図 (C) NASA

「トランプ大統領のアポロ計画」

しかし今年2月、米国のトランプ政権はNASAに対して、EM-1に宇宙飛行士を乗せ、有人月飛行にすることはできないか、と検討を依頼した。

これには、トランプ大統領の任期中に「有人月飛行を行った」という実績を作りたいという意向があると考えられている。トランプ大統領の任期は2021年1月までで、さらに前年には2期目を目指す選挙があることから、EM-2が行われる2021年を待っていては実績にならない。そこでEM-1を有人に、言葉を変えればEM-2を前倒しして、任期中に有人月飛行を実現させることで、自身の成果にするとともに、さらにその人気をもって再選をも狙っていると推測されている。

NASAはその後、約3カ月かけて検討を実施。そして5月12日に「EM-1の有人化はしないことを決めた」とし、トランプ政権の要請を却下したことを明らかにした。

ロバート・ライトフットNASA長官代理は記者会見で、「検討の結果、EM-1に宇宙飛行士を乗せることは、技術的には可能だとわかりました。しかし、そのためには追加の予算とスケジュールが必要であり、とくに追加コストは膨大なものになることから、最終的には当初の予定どおりの計画で進めることが最善であると判断しました」と語った。

もしEM-1に宇宙飛行士を乗せる場合、本来無人で打ち上げるはずだったオライオンに、コクピットや生命維持システムを搭載したり、SLSにも脱出システムを搭載したりなど、大規模な改修が必要になり、さらに試験も必要になる。

会見に登壇したNASAのウィリアム・ゲスティンマイヤー有人探査運用局長によると、これら改修や試験を行うための追加コストはおよそ6~9億ドルにもなり、また実施時期も2020年前半までずれることになるという。

ライトフット長官代理はまた、この検討においてNASAとホワイトハウスは連携し、またトランプ政権からは非常に力強いサポートがあったと述べ、今回の結論もホワイトハウスと共同で下したものだと強調している。

トランプ大統領は4月24日にも、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士と交信するイベントを行った際、「私の1期目、遅くとも2期目の任期中に人を火星に送りたい」と発言し、2024年までに有人火星飛行を行いたいという考えを述べている。ただ、これについてNASAは、今のところ、ホワイトハウスから検討などの指示は受けていないという。

2月28日、議会で演説するトランプ大統領 (C) The White House

4月24日、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士とテレビ電話で交信するドナルド・トランプ大統領 (C) NASA

無人でもEM-1は数か月遅れに

この記者会見ではまた、SLSとオライオンの開発状況についても説明され、双方の開発の遅れから、これまで2018年11月に予定していた無人のEM-1の実施時期を、2019年の前半まで延期することも明らかになった。

ライトフット長官代理とゲスティンマイヤー氏によると、そもそも機体の製造や試験が遅れていることに加え、今年2月にはルイジアナ州ニューオーリンズにあるNASAのミックハウド組立施設が竜巻の被害に遭い、SLSやオライオンの開発や試験のスケジュールに影響が出ているという。

さらに今月3日には、ミックハウド組立施設において、SLSの液体酸素タンクの後部ドーム部が落下する事故が発生。被害者こそ出ていないものの、ドーム部は修復不可能なほどに損傷し、施設内の設備にも被害が出ているという。NASAによると、この部品は試験用のもので、実際の飛行には使われないものだとしているが、再製造などで試験と実際の打ち上げが遅れることは間違いない。

ライトフット長官代理によると、正確な新しい打ち上げ時期は今後1~2カ月以内に決定したいという。

またゲスティンマイヤー氏によると、EM-1とEM-2とでは使用する地上システムが大きく異なるため、両ミッションの間に大規模な改修が必要になり、したがってEM-1の実施が遅れれば、同時にEM-2も遅れることになるという。

NASAミックハウド組立施設を襲った竜巻 (C) NASA

落下事故で損傷したものと同型の、SLSの液体酸素タンク。直径8.4m、全長15mほどもある (C) NASA

参考

NASA Affirms Plan for First Mission of SLS, Orion | NASA
NASA to Study Adding Crew to First Flight of SLS and Orion | NASA
NASA Statement on Tornado at Michoud Assembly Facility | NASA
NASA rules out crew on first SLS flight - Spaceflight Now
NASA decides not to place a crew on first SLS/Orion mission - SpaceNews.com

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