明らかになった2つのミッション内容

米空軍は今回のOTV-4で初めて、X-37Bのミッションの内容を、たった2つだけではあるものの初めて公式に明らかにした。

それによると、まずひとつは「XR-5A」と名づけられた電気推進エンジンの試験だという。XR-5Aは燃料のキセノンをイオン化させて噴射することで推力を得るエンジンで、ロケット・エンジンのメーカーでは老舗として知られるエアロジェット・ロケットダインが開発した。

ちなみに電気推進エンジンというと、「はやぶさ」に搭載されたイオン・エンジンが有名だが、XR-5Aはホール・スラスターという、異なる仕組みで動くエンジンである。一般的に、イオン・エンジンは燃費(比推力)に優れ、ホール・スラスターは推力に優れている。

米空軍によると、XR-5Aは将来の軍用通信衛星に使うことを見込んでいるという。現在、米空軍が現在運用している軍用通信衛星「AEHF」には「XR-5」というホール・スラスターが搭載されており、XR-5Aはその改良型と考えられる。

着陸したX-37B OTV-4。後部に2つの黒い突起が見える。右が従来から装備されている軌道変更用スラスターで、左の白い覆いがかけられているものが、今回試験されたXR-5Aホール・スラスターと考えられる (C) U.S. Air Force

現在、米空軍が現在運用している軍用通信衛星「AEHF」には「XR-5」というホール・スラスターが搭載されている (C) U.S. Air Force

もうひとつは、「METIS」と呼ばれる新開発の材料の試験である。METISは、25セント硬貨大(直径約24mm)、合計100個を超える材料のサンプルをX-37Bに搭載し、宇宙空間で真空や強い放射線の環境にさらして試験するというもので、NASAを中心に、米国内のさまざまな企業や研究機関が参加しているという。ちなみにNASAは、国際宇宙ステーション(ISS)でも「MISSE」という名前で、やり方は違うものの同様の試験を行っている。

XR-5AもMETISも、どちらもX-37Bならではの試験といえよう。宇宙空間で動かしたエンジンがどうなるのか、宇宙空間にさらした材料がどう変化するのかといったことは、近くに設置したセンサやカメラで見るだけでなく、地上に持ち帰って詳しく分析すれば、より多くのことがわかる。それができるのは、地球と宇宙を往復できる宇宙船だけである。

もちろん、MISSEのようにISSでも同じことはできなくはないだろう。しかし、XR-5Aのような米空軍がかかわる試験は軍事利用にあたるため、実際に行うのは難しい。またISSは米国以外も利用するため、打ち上げや回収、宇宙飛行士による実験の機会は順番待ちになることから、好きなときに好きなように実験や試験をすることはできない。その点、X-37Bは他ならぬ米空軍自身が運用しているため、いつ、なにをやろうと自由である。

たった2つだけながら、米空軍がX-37Bのミッション内容を公表したことについて、「いや、他にもなんらかのミッションを行っているはずだ」、あるいは「公表したのは他に行っている口外できないミッションを隠すためだ」という人もいる。

実態がどうあれ、米空軍にはそのすべてを明らかにする義務も責任もないし、たとえ知られても痛くも痒くもない内容だったとしても、それを公表、広報するにはコストがかかる。なにより秘密にしておくことで、他国の情報機関から個人までが勝手に憶測をし、そのやっかいな相手の時間やコストを奪い、あるいは勝手な妄想で恐怖してくれることも期待できる。これほど手のかからない抑止力もない。

今回、米空軍がミッション内容を少しだけとはいえ公開したのは、それなりに考えがあってのことだろう。たとえばXR-5Aのようなホール・スラスターは、すでに民間の衛星などにも搭載されているため珍しいものではなく、またエンジンである以上機体の外に装着されているため、着陸後に公開された写真でもしっかり写り込んでおり、遠からずその存在が明らかになってしまうことは予見できた。そのため、公表しても問題なしと判断されたのだろう。

METISについては、そもそも米空軍ではなくNASAのミッションであるから公表されたと考えられる。

X-37B OTV-4で行われたとされる新しい材料の試験(METIS)と同様のことは、やり方は違えど、ISSでもMISSEとして行われている (C) NASA

MISSEで使われる機器。この25セント硬貨大の円の1つひとつに新開発の材料が入っており、宇宙空間にさらして試験する。これと同等のものがX-37B OTV-4にも搭載されたと考えられる (C) NASA

X-37Bは宇宙戦闘機?

もっとも、X-37Bのペイロード・ベイの大きさを考えると、この2つのミッションだけしか行っていないと考えるほうが難しく、他にもなんらかの目的をもった試験を行っていた可能性は高い。

最もありうるのは、米空軍にとってのMETISのような新材料の試験や、新開発の太陽電池などの試験を行っていた可能性だろう。また、この4回の飛行を通じ、米空軍には再使用型の宇宙船に関する独自の知見がたくわえられているはずであり、スペースXのファルコン9などとはまた違った形での、再使用ロケットの開発に活かされる可能性もある。

そしてもちろん、将来の偵察衛星で使うことを見越した新開発のセンサなどの、より軍事的な要素の試験であった可能性も否定できない。X-37Bで試験、実験された技術や得られたノウハウが、将来的により高性能な軍事衛星の開発に活かされることは十分考えられる。

あるいは、X-37Bがそれを搭載するかどうかはともかく、敵の衛星に近づいて破壊するような兵器の開発につながる技術の試験が行われていた可能性も否定できない。もっとも、フィクションのようなミサイルやレーザーといった兵器を積んでいる可能性は低く、せいぜい通信内容を傍受したり、ハッキングしたり、電磁波でコンピューターや電子部品を破壊したりする程度であろう。もちろん、一部で噂されている地震兵器だとかマインドコントロール兵器だとかもナンセンスである。

しかし、通信の傍受やハッキングでも、あるいは電子的な破壊といった、『スター・ウォーズ』とは似ても似つかない地味な絵面であっても、実現すれば立派な宇宙戦争になることには違いない。これまで宇宙空間が戦場にならなかったのは、ひとえに各国の理性、あるいは配慮や遠慮によるものであり、そのタガが外れるのはそんなに難しくはない。

「薔薇に棘あり」という言葉があるが、X-37Bのミステリアスな容姿の裏に、そのたがを外しかねない凶悪な顔が隠れていたとしても不思議ではない。

滑走路に舞い降りるX-37B OTV-4 (C) DVIDS

スペース・シャトルの実物大模型の前を通過するX-37B OTV-4 (C) DVIDS

参考

X-37B Orbital Test Vehicle-4 lands at Kennedy Space Center > U.S. Air Force > Article Display
NASA Test Materials to Fly on Air Force Space Plane | NASA
NASA Partners with X-37B Program for Use of Former Space Shuttle Hangars | NASA
Air Force’s X-37B lands at KSC’s Shuttle Landing Facility | NASASpaceFlight.com
X-37B Orbital Test Vehicle