【レポート】

1万機の衛星でインターネットをあまねく世界に! - スペースXが目論む次の一手

米スペースXは5月3日(米国時間)、米上院の商業・科学・運輸委員会において、多数の低軌道衛星を打ち上げ、全世界にインターネットをつなぐ計画について説明を行った。打ち上げる衛星の数は1万機を超える予定で、今年末から試験機の打ち上げを始め、2024年から運用を開始したいという。

同社の衛星インターネット計画は、2015年に同社CEOのイーロン・マスク氏によって明らかにされたものの、打ち上げる衛星の数やサービスの開始時期などについては、これまで公式に、また詳細に語られたことはなかった。

多数の衛星を使って全世界にインターネットをつなぐ計画は、起業家グレッグ・ワイラー氏が立ち上げた「ワンウェブ」も打ち出しており、こちらは早ければ今年中にも実際の衛星打ち上げを始めるとしている(ワンウェブの詳細は、以前掲載した「全世界にインターネットを! ソフトバンクが10億ドル出資するOneWebの挑戦」を参照)。

スペースXの考える衛星インターネットとはどのようなものなのだろうか。

ロケットの再使用などで注目を集めるスペースX。その次の一手は衛星インターネットである (C) SpaceX

衛星インターネット計画はワンウェブも進めている (C) Airbus D&S/OneWeb

合計1万1925機の衛星からなるスペースXの衛星インターネット

スペースXの衛星インターネット計画は、「地球低軌道に多数の小型衛星を打ち上げて、地球を覆うように配備し、全世界にインターネットをつなぐ」という点では、ワンウェブと共通している。

しかし、打ち上げる衛星の数に大きな違いがあり、ワンウェブが打ち上げる衛星の数は648機(予備機などを含めると約700機)とされるが、スペースXは4425機という、桁違いの数の打ち上げを計画している。

この4425機の衛星は、高度1110~1325km、83の軌道面に分けて配備される。通信にはKuバンドとKaバンドという周波数帯を使う。この周波数帯は小さなアンテナでの大容量通信に適しており、近年、既存の衛星通信でも主流になりつつある。ただ、低い周波数帯に比べて、雨によって電波が弱くなってしまいがちなため、それをどう補うかという技術的な課題もある。ちなみにワンウェブが打ち上げる700機の衛星もKuバンドを使う。

スペースXはさらに、この4425機に追加して、7500機の衛星を打ち上げる計画もあるという。この追加の7500機は、KaバンドやKuバンドよりもさらに高い、Vバンドという周波数を使うことが検討されている。Vバンドを使った衛星通信の技術はまだ開発途上で、とくに雨にはKu、Kaバンド以上に弱いものの、より大容量の通信や、妨害を受けにくいことを活かした機密通信などへの展開が期待できる。

ちなみにワンウェブも負けてはおらず、昨年末にソフトバンクから10億ドルの出資を受けたことをきっかけに、今年2月には2000機のVバンド衛星を追加で打ち上げる計画を明らかにしている。この2000機のうち、720機は高度2000km以下の低軌道に、1280機は高度1万~2万km前後の中軌道に乗せるとしている。

スペースXもワンウェブも、Ku、Kaバンド衛星網とVバンド衛星網の、2つの系統の仕組みを用意しておくことで、サービス全体の堅牢性を高めるとともに、前述のように、Vバンドはより大容量の通信ができる代わりに雨に弱いため、晴れのときにはVバンドを使って大容量の通信を、雨のときはKuやKaバンドを使い、やや通信量は少なくなるもののサービスを提供し続けられるようにする、といった意図があると考えられる。

衛星インターネット計画について語るスペースXのパトリシア・クーパー(Patricia Cooper) VP (C) U.S. Senate

スペースXが昨年、連邦通信委員会(FCC)に提出した周波数の使用申請書に描かれていた図 (C) SpaceX/FCC

課題は多いものの実現にむけてひた走る両社

スペースXにしてもワンウェブにしても、これだけ多数の衛星を打ち上げ、インターネット網を構築し、運用・維持し続けることへのハードルは高い。

たとえば打ち上げでは、それぞれの衛星は小型なので、大型ロケットを使えば一度に複数打ち上げることはできるものの、それでも数千機から1万機も打ち上げるとなると、1週間に1回ほどのペースで打ち上げを続けなければならない。たとえばスペースXは、ロケットの再使用による低コスト化を進めているが、それは自社で多数の衛星を安価に、そして頻繁に打ち上げることへの布石でもあるのだろう。

さらに、数千機から1万機もの数の衛星を運用し、安定したサービスを提供し続けるのも大きなハードルである。また近年問題になっている宇宙ゴミ(スペース・デブリ)にぶつからないように、あるいは自身がゴミにならないようにするのも、これまで以上の努力が必要になる。現在のところ、すでに両社とも、すべての衛星に運用終了時に軌道離脱するための設計を取り入れたり、軌道の監視や他の衛星との衝突回避などのため、他の機関と密接に協力したりすることを表明している。

ハードルは高く多くとも、しかし技術的に不可能というわけではない。全世界にあまねくインターネットを届けるためには、えっちらおっちらとケーブルを引くほうが無理難題であり、衛星を使うというアイディアはほとんど唯一無二の最適解でもあろう。

そしてマスク氏も、ワイラー氏も、その最適解に向けて走り始めている。すでにスペースXは、Ku、Ka、Vバンドの周波数使用申請を出しており、早ければ今年末にも試験機を打ち上げるとしている。一方のワンウェブは、Kuバンドについてはすでに使用認可を得ており、今年から実際の衛星打ち上げが始まる予定となっている。またVバンドについても使用申請を出しており、ソフトバンクなどからの出資をもとに、フロリダ州に衛星を製造する工場の建設も始めた。

フロリダ州エクスプロレーション・パークで、2018年から稼働開始が予定されているワンウェブの衛星製造工場の想像図 (C) ソフトバンクグループのニュースリリース


火星移民と人類の未来をひらく衛星インターネット

衛星を使ってインターネットをあまねく世界にもたらすという計画は、ワイラー氏にとっては、ワンウェブの経営者としての目標であるとともに、かねてよりの悲願でもある。

ワイラー氏はかつて、内紛でインフラがぼろぼろになったアフリカのルワンダ共和国で、携帯電話やインターネットを引く事業を手がけた経験をもつ。社会的にも経済的も疲弊している国で、新たにインフラを構築する作業は困難の連続で、ときにはワイラー氏自らケーブルを地中に埋める作業を行ったという。しかし彼の努力は実を結び、現在首都のキガリは、アフリカの中で最もインターネットが発達した都市となっている。

ワイラー氏はこのことから、インターネットがもたらす可能性と、それを実現することの難しさの両方を知り尽くした。その彼が次に目指したのが、まだインターネットにつながっていない40億もの人々に、安くて高速なインターネットを提供することであり、それを実現する手段として選んだのが人工衛星だった。

一方のスペースXも同じように、まだインターネットに接続できない人々に、その環境をもたらすことを目指している。かつてのルワンダのような国はもちろん、米国でさえ、国土が広いこともあってブロードバンドはおろかインターネットすら行き届いていない地域はまだ多く、その人口は3400万人にも達する。さらにスペースXにとっては、衛星インターネットで得た収益をもとに火星移民計画を進める狙いもある。

全世界がインターネットでつながれば、世界は文字どおり大きく変わることになろう。それは決して良いことばかりではないかもしれない。それでも、全人類のうち半分がネットを使え、もう半分は使えないという現状が続くよりは、よほど良い。

こうした技術の進歩と、それによる私たち人類の意識や生活の変化が、世界平和や環境問題などといった、多くの課題や問題の解決につながることを願いたい。

参考

Investing in America’s Broadband Infrastructure: Exploring Ways to Reduce Barriers to Deployment - Hearings - U.S. Senate Committee On Commerce, Science, & Transportation
Microsoft Word - SpaceX Testimony Senate Commerce Committee Broadband Rev.05.01.2017 - 655C5CBED75A50881172C1E9069D91E6.testimony-patricia-cooper---broadband-infrastructure-hearing.pdf

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