妊娠中の身体状態は、それ以前とは全く違うもの。自分だけの身体ではないし、これまでは何気なく行ってきたことでも「大丈夫かな? 」と心配になる人も多いだろう。特に運動は、健康のためにやった方がいいような気がしていても、ものによって赤ちゃんに何かしらの影響を及ぼしそうな気がするかもしれない。

妊婦は運動をした方がいいの?

そこで今回、妊娠中にした方がいい運動、逆にしてはいけない運動について、順天堂大学医学部附属練馬病院産婦人科長の荻島大貴先生にうかがった。

妊婦さんも運動をしよう!

近年では「妊娠中は2人分食べよう」という考え方は薄れ、適正な体重でいられるように気を遣う人が多くなってきた。出産後もできるだけ早く元の体型に戻したいもの。そのためには、栄養管理だけでなく運動も効果的な方法なのでは、と思うことだろう。

「健康な妊婦さんには、『有酸素運動をしてください』と言います」と荻島先生は話す。有酸素運動とは、ウォーキングやエアロビクスなど、心肺機能を高めるような運動を言う。なぜ、このような運動が妊婦さんにいいのだろうか。

パニックになると息が吐けなくなることも!?

妊娠中に、「よし、じゃあ格闘技を始めよう」などと思う人はいないだろうが、単に、赤ちゃんに負担をかけすぎないために有酸素運動がちょうどいい、というだけではないらしい。荻島先生は、「"息を吐くこと"をしっかりできるようにイメージすることが大事」と言う。

妊婦さんに限らず、人はパニックに陥った時、過換気症候群(かかんきしょうこうぐん)になることがある。すると過呼吸の状態になり、「どんなに吸っても息が吸えない! 」となってしまう。そうなるとパニックは度を増していくだろう。

息は吐かないと吸えない。当たり前のことだが、混乱している時はそれすらもできなくなることがあるようだ。出産には強い痛みもあり、恐怖を感じる人も多い。分娩台でパニックになる場合もあるという。そんな時には、身体をさするなどして落ち着かせ、息を吐くことをうながすそうだ。「運動をすることで、ゆっくり長く吐く呼吸法を身につけてください」と荻島先生は言う。

運動量は自分の身体の調子を確かめながら

"息を吐く運動"としていいと言われているものは、ウォーキング、ヨガ、太極拳、水泳、エアロビクスなど。もちろん、やればやるほどいいのではない。妊娠中の母体は貧血のような状態のため、心拍数も通常より早くなっている。自分の身体の調子を確かめながら行おう。具体的には、運動しながら会話ができるぐらいがちょうどいい。

妊娠中にしてはいけない運動は?

おなかに直接打撃を受ける運動がよくないことは容易に想像できるが、その他にも気を付けたい点がある。仰向けを保持する、長時間動かずに立った姿勢でいる、落下や外傷の危険のある運動、スキューバダイビングなどは避けた方がいいという(参考:『産婦人科診療ガイドライン 産科編2014』 編集・監修: 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、発行: 日本産科婦人科学会)。何となく気になるサイクリングは、「自転車は膝への負担が少ない有酸素運動なので身体にはいいが、転倒すると母児共の命の危険性が高いので止めた方がいい」と荻島先生は話す。

また、運動をしてはいけない妊婦さんもいる。荻島先生は「早産の危険性がある人や、妊娠高血圧症候群などの産科的な合併症がある人、安静が必要な人には運動は勧められません」と言う。

運動で合併症の予防は可能?

妊娠中毒症などを運動で予防できるといいなと思う人は多いだろう。『産婦人科診療ガイドライン 産科編2014』によると、今のところ医学的には「予防効果については証拠が乏しい」としている。

一方で、『助産雑誌vol.70 no.08 August』米国スポーツ医学会によるガイドラインの記述では「妊娠糖尿病への影響については、その発症リスクを減らすかもしれない」となっている。いずれにしてもいまだ研究中で、はっきりしたデータは出ていないようだ。

運動をすることでリラックス、という運動そのものがもつ効果も大切

適度な運動は身体機能の向上や体重維持だけでなく、リラックスにもつながる。医師や助産師と相談しつつ、楽しみながら行ってみてはいかがだろうか。

※写真はイメージで本文とは関係ありません

監修者プロフィール: 荻島 大貴

1994年順天堂大学医学部卒業、2000年同大学大学院卒業。現職 順天堂大学医学部付属練馬病院 産科婦人科診療科長・先任准教授。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本婦人科腫瘍学会専門医・指 導医・評議委員、日本がん治療認定機構がん治療認定医、日本周産期・新生児学会周産期専門医、母体保護法指定医。練 馬区を中心として城西地区の婦人科がんの診療と周産期医療を行っている。

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスにつづったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。