学内の教育用計算機システムにMacを採用している東京大学・駒場キャンパスで、生活協同組合が提案する「東京大学 駒場モデルパソコン」が今年も販売され、推奨モデルとしてMacBookPro 13インチ(ファンクションキー搭載モデル)、MacBook 12インチ ローズゴールド/スペースグレイの3モデルが選ばれた。

東京大学の駒場モデルパソコン

駒場モデルパソコンは、購入者向けにセットアップ講習会が実施されているのだが、これが、先輩学生によるもので実用的であるという話を聞きつけ、その様子を伺ってみることにした。

セットアップ講習会の様子

当日、講習会は2回実施され、筆者は1回目のほうに潜り込むことができた。後から聞いた話では、ともに参加者は70名以上とのことで、ほぼ満席に近い状況での催行となったようだ。

入学直後の履修登録や必修科目であるアカデミック・ライティング・コース「ALESS (Active Learning of English for Science Students)/ALESA (Active Learning of English for Students of the Arts)」の英語論文作成には、自分専用のパソコンがあったほうが便利だ。また、もう一つ、必修科目「情報」の授業は、学内のパソコンを使用するのだが、これは4月2週目からスタートする。駒場キャンパスでは、約850台のパソコンが設置されているが、それらは全部Macである。となれば、自分用に購入するならMacを選択するのが良いという判断になるだろう。

先輩の学生スタッフがサポートで入っている

講習は先輩の学生スタッフが対応し、「基本セットアップマニュアル」「セットアップ講習会テキスト」と題された冊子も学生スタッフによって作成されている。この冊子、とても完成度が高く、そこらのMacの解説本より丁寧に作られているのだ。ITに疎い筆者でも、これなら理解できるし、自分でセットアップできそうだ。

「基本セットアップマニュアル」「セットアップ講習会テキスト」と題された冊子は学生スタッフが作成している

初期設定を行ったのち、プリンタドライバをインストール、トラックパッド、キーボードの使い方、Finder、Dockなどの基本操作の解説に入っていく。

分らないことがあれば、緑のブルゾンを羽織った先輩の学生スタッフがサッとヘルプに入ってくれる。初めてMacに触るという人には、ちょっとしたことでも手助けがあるとありがたい。学生スタッフは、Macを2年、3年使ってみて、その良さを実感した上で、新入生にアドバイスを送ってくれる。親身であるのは、使ってみれば分かる、実際に良いからという想いもあってのことだろう。良いものは良いという気持ちがストレートに伝わってくる。

冊子の制作はもちろん、講習の内容も学生スタッフ主導で決めている。このあたりは学究の徒らしいあり方だと言えよう。誰かに指図されるのではなく、研究に没頭するための環境は自分たちで作るのだという熱意に溢れている。また、彼らは、何よりもこの活動を楽しんでいるのだ。

東京大学生協駒場購買部の店長・斉藤謙作さん

東京大学生協駒場購買部の店長、斉藤謙作さんは、Macを採用したことでビジネスが大きく拡がりを見せるようになったという。Macを推奨パソコンとする前は、富士通、パナソニックの製品を扱っていたとのことだったが、この頃の販売台数は全部あわせて500台程度に留まっていた。ところが、昨年、初めてMacBook Airを採用したところ、販売台数は、その倍の1,000台となった。これは想定外の事態で、販売目標は600台、7~800台いったら嬉しいなというのが正直なところであったと、当時の心情を吐露する。この大成功については、大学にMacがあるという状況と生協の提案が一致したところにあるのではないかと斉藤さんは分析している。

新入生の多くはiPhoneユーザーであるが、Macを持っている人は少ないという。そこで、iPhoneとの親和性が高いパソコンは?となると、自ずと選択するのはMacになるという流れができてくる。さらに、Macの使い方が分らなくても、先輩から教えてあげるよという状況があって、サポートがつくとなれば選ばないファクターのほうが小さくなっていく。

今年度の新入生向けには、昨年発売となった13インチMacBook Pro(ファンクションキー搭載モデル)と、MacBook 12インチ ローズゴールド/スペースグレイの計3モデルが用意された。13インチMacBook Airを継続して販売するという施策も考えられたが、MacBookとの組み合わせとなると、より軽量なMacBookのほうが高くなってしまうという現象が起こるので、MacBook Proを推奨モデルとする運びとなった。また、MacBook AirはUSBポートを搭載したモデルであって、USB Type-Cポートは非搭載である。ユーザーインターフェース周りは最新のものがよかろうということもあって、MacBook ProとMacBookの採択が決定した。MacBook AirとMacBook Proの重量差が200gに留まるという点もチョイスの要因になったようだが、なにより東大生向けには、最高の機種としてMacBook Proを提案したいという想いがあったとのことである。

斉藤さんによれば、公費の伝票の処理も面倒がないので教員も生協で購入するケースが多いという。3、4年生で研究室から供与されるマシンに切り替えるケースも多いという本郷には本郷モデルという研究生や教員向けのモデルが存在するとのことだ。

工学部の4年生・原田央さん(左)と理科一類の2年生・原田健太郎さん

講習会でレクチャー、サポートを担当した学生にも話を伺ってみた。工学部の4年生・原田央さんは、自分が使っていて、こういうところが便利ですよっていうことや、教えてもらって感動したことを後輩達にも伝えたいという。冊子に書いてあることなら、東大生で、できない人はいない。だが、実感として伝えたいことはマニュアルの副読本では伝わらないと熱っぽく自身の体験を語る。実体験とか感想が混ざるほうが講習会としては相応しいのだとも。原田さんは、大学に設置されているMacはデュアルブートされているので、Macそのものの良さは分かりにくいと指摘し、教室にあるデスクトップ型のMacを使ってみると、MacBookのトラックパッド周りの便利さが良く分からなくなるとも続けてくれた。

理科一類の2年生・原田健太郎さんは、去年自分たちがどうだったかなと思い出しながらレクチャーできるのは良いことだと思うと述べ、Adobe製品を使って作成しているという、先ほどの新入生向けに作ってる冊子を紹介してくれた。MacはWeblioを見ながら、TwitterやYouTubeを覗くといったことに使っているそうだ。もちろん、音楽を聴いたり、ゲームをしたりと、研究以外のことにも利用している。デュアルブートについて聞いてみたところ、Windowsの環境が必要になったことはないので、Mac OSがずっと走ってると答えてくれた。研究分野にもよるが、必ずしもWindowsやその他の環境が要るということではないようである。

今年の分の駒場モデルパソコンの販売は既に終了しているが、MacBook ProとMacBookあわせて1,200台超えと、昨年の販売台数を上回る数字を残している。新入生は3,093人とのことだから、実に入学者の4割に迫る勢いでMacが売れたという展開だ。生協以外での購入も合わせるとMacの占有率は半数近いことになっているのではないだろうか。

各地域の主要大学では国公立・私立とも大学生協を通じ、軒並み100台以上、Macが販売されていて、特に伸びが顕著なのが関西と九州と聞いている。関西地区で言うと、京都大学に大阪大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学あたりだ。個別の大学では、北海道大学での販売数の伸びが目立つとも。有名大学の施策に対して、右へ倣えの傾向は、間違いなくあると言えるので、今後、Macが大学の設備として導入されるというケースは増えていくだろうし、そうとなれば、自然と学生のMacの購入率も上がっていくことだろう。「会社入ったらWindowsだから」という時代も終わりが近付いているのかもしれない。