前クールの冬ドラマでは、『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)の吉高由里子・榮倉奈々・大島優子、『突然ですが、明日結婚します』(フジテレビ系)の西内まりや・中村アン・岸井ゆきの。今クールの春ドラマでは、『母になる』(日テレ系)の沢尻エリカ・板谷由夏・小池栄子、『人は見た目が100パーセント』(フジ系)の桐谷美玲・水川あさみ・ブルゾンちえみ。さらに昨年も、『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』(TBS系)の中谷美紀・マルシア・蘭寿とむ、『不機嫌な果実』(テレビ朝日系)の栗山千明・高梨臨・橋本マナミ…。

このところ、仲良し女性3人組を描く物語や、3人の女優を並べ立てるようなキャスティングが増えている。『東京タラレバ娘』などは原作漫画があり、きっかけになっているのは間違いないが、連ドラとしての理由はそれだけでなく多岐にわたっているようだ。ドラマ解説者の木村隆志氏が、歴史を振り返りながら解き明かす。

『母になる』(左から)沢尻エリカ、小池栄子、板谷由夏

『人は見た目が100パーセント』(左から)水川あさみ、桐谷美玲、ブルゾンちえみ

多様なニーズに応え、共感させるために

最大の理由は、「三人三様のキャラを描くことで、誰かに共感してもらいたい」という制作サイドの狙い。これは人々の価値観、趣味嗜好、生き方などが多様化したことで、「ヒロイン1人だけを描いていても、多くのニーズに応えられなくなった」という時代の変化が大きい。

また、平日夜放送のドラマは、年を追うごとに女性視聴者のウェートが重くなり、それを受けて昨年あたりから、女性が主人公の作品が7~8割を占めるようになった。そのため、80年代の『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)、90年代の『白線流し』(フジ系)、2000年代の『木更津キャッツアイ』(TBS系)などの複雑な男女群像劇ではなく、シンプルで見やすい女性3人組の物語が増えている。

つまり、「男女のさまざまなキャラを描くのではなく、女性3人に絞ることで、多様性と共感力を両取り」しようということ。同時に、見た目も性格も異なる女性3人を設定することで、「男性には好みのタイプを選んで楽しんでもらおう」という意図もある。

ちなみに、『人は見た目が100パーセント』(ひとパー)で見ると、堀之内純(桐谷美玲)は、自信がなくオシャレに背を向けてきた根暗キャラ、前田満子(水川あさみ)は既婚者で流行から取り残されたキャラ、佐藤聖良(ブルゾンちえみ)は「必死になりたくない」と言いながら実はモテ願望が強いキャラ。3人の誰かに共感し、男性も楽しめるように、見た目も性格も分散されている。

絶対的な主演女優不在、女子会の流行

今クールでは『緊急取調室』で主演を務める天海祐希

もう1つの理由は、絶対的な主演女優が減ったから。かつては「ヒロインと言えばこの人」と、日本中の人々が同じ名前を挙げるような女優がたくさんいた。現在で言えば、米倉涼子や天海祐希などが該当するが、特に10~20代の若手女優で「"主演女優"という重責を1人で背負える」存在は少ないため、同世代女優のサポートが欠かせないのだ。

重責という点で見逃せないのは、主演女優に対する逆風の強さ。1人の女優にフォーカスした物語にするほど風当たりが強くなり、少し視聴率が悪ければ「主演女優失格」「○○がメインというだけで見ない」などの酷評が飛び交うなど、そのリスクは過去よりも大きくなっている。制作サイドも芸能事務所も「リスクを分散させたい」という気持ちがあるのは間違いない。

さらに、昨今の風潮で挙げておきたいのは、女子会。このフレーズが一般化した数年前から、ドラマの中でも女性グループでお酒を飲むシーンがグッと増えた。女子会のシーンは、楽しくお酒を飲むだけでなく、大騒ぎする、グチをこぼす、なぐさめ合う、悪態をつくなど自由自在。説明セリフを増やして物語を進めることも、友情を感じさせて泣かせることもできるなど、制作サイドにとっては便利なシーンなのだ。

以前は、女性向けドラマと言えば"女同士の激しいバトル"を前面に押し出していたが、最近は女子会の楽しげな描写が多くなっている。平日のドラマには、「仕事から帰ってきてギスギスしたものではなく、ほっこりするものが見たい」という視聴者ニーズが高まっていることが、女性3人組の女子会シーンを増やしているのかもしれない。