米国時間5月2日、Microsoftは文教向け戦略として、「Minecraft Education Edition」の強化や新デバイス「Surface Laptop」などを発表した。今回はこれらの中から「Windows 10 S」に注目する。

Windows 10 Sのデスクトップ

Windows 10 Sは、これまで「Windows 10 Cloud」と呼ばれていたWindows 10 Proのサブセットに位置するOSだ。MicrosoftはWindows 10 Sについて、「Windowsストアのアプリだけを使用し、Microsoft EdgeでWeb閲覧の安全性を確保する」と説明している。こちらのFAQに興味深い機能比較表があるので、まずは下表をご覧いただきたい。

Windows 10 Sの機能比較表

最初に注目すべきは、実行できるアプリケーションの種類である。Windows 10 Sは「Windowsストア以外のアプリケーション」は動作しないものの、「(Win32 Centennialアプリを含む) Windowsストアアプリ」は動作可能としている。ここで言うWin32 Centennialとは、.NET FrameworkやWin32で作成したMSI (Windowsインストーラーパッケージ) を、Appxパッケージに変換する「Desktop Bridge」を指す。最近ではデスクトップアプリの「秀丸」がDesktop Bridgeを利用して、Windowsストアに並ぶようになった。

Desktop Bridgeはあくまでもパッケージ変換に留まり、Win32もしくは.NETアプリケーションであることに変わりはない。そのため、「Win32 Centennialアプリを含む」という文言は、Windows 10 Sはデスクトップアプリも動作するけど、インストールの窓口はWindowsストア (ビジネス向けを含む) のみ、ということを意味する。つまり、他のWebサイトからダウンロードしたプログラムは実行できないのである。

Creators UpdateことWindows 10 バージョン1703からは、インストール可能なアプリケーションの種別を制限する設定項目が加わっているが、Windows 10 Sも、このロジックを利用してデスクトップアプリのインストールを抑止しているのだろう。

Windows 10 バージョン1703からはデスクトップアプリのインストールを抑止できる

アプリケーションの動作に関する制限は、Windows RTと同じように見える。だが、Windows RTはARM上で動作するWindows 8であり、構造的な問題からWin32向けデスクトップアプリが動作しなかった。その点、Windows 10 Sを乗せたSurface LaptopはIntel Core i5を搭載しているため、デスクトップアプリも問題なく動作するだろう。

アプリケーションのインストールを制限する理由は、Windows 10 Sが文教向けOSである点に尽きる。筆者も過去を思い返してみると、学生時代に教師が何を言っても反発するばかりだった。そんな頃にPCを与えられたら、好き勝手にアプリケーションをインストールしていただろう。そこでアプリケーションのインストール元をWindowsストアに制限することで、リスクを回避しようということだ。

なお、MicrosoftはWindows 10のエディションとして、「Windows 10 Education」を用意しているが、こちらは教育機関向け。Windows 10 Sは、K-12 (米国における幼稚園から高等学校までの13年間を指す) の生徒向けとなるため、Educationと競合することはない。

もう一つ注目すべきは、既定WebブラウザーをMicrosoft Edge以外に変更できない点だ。さらに、Bing以外の検索プロバイダーも選択できない。これらの制限もWindows 10 Sが教育の現場で使われるOSであることを思い返せば合点がいく。なぜなら、Bingには検索結果から成人向けコンテンツを制限するセーフサーチ機能があるからだ。

Bingの設定ページを開くと、成人向けコンテンツを排除するセーフサーチが設定できる

個人的に気になるのが、Active Directoryへ参加できない点である。日本国内のICT教育現場ではWindows Serverを設置し、授業などで利用するデバイスをドメインに参加させるケースも少なくない。そのため、オンプレミスのADでシステムを構築した学校にWindows 10 Sを導入する場合は、システム全体の見直しが必要となる。

Windows 10 Sのリリースによって、エディション数が増加したことは懸念点である。Home、Pro、Enterprise、Enterprise LTSB、Education、Pro Education、そしてSと、エディションは7種類となった。この数は、エディションの過度な多様化によって混乱を招いたWindows Vistaの6種類を超えている。Microsoftには、これまで以上の情報整理と的確なサポートを期待したい。

阿久津良和(Cactus)