全世界で興行収入が10億ドルを突破(4月13日時点)するというメガヒットを記録中の映画『美女と野獣』(公開中)は、1991年のアニメーション版をリスペクトしつつも世界観をより深く掘り下げる、ある意味大胆なシークエンスを加え、装い新たな実写版として登場した。ディズニー音楽の名匠アラン・メンケンが手掛ける楽曲の数々、エマ・ワトソン演じる神々しいまでに美しいベル、「ひとりぼっちの晩餐会」などの名場面を見事にひとつの作品に紡いだ巨匠が、『ドリームガールズ』(06)、『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(15)などのビル・コンドン監督。公開を前に来日した監督に、これほどの大ヒット作となった理由を聞いた。

ビル・コンドン監督

――今回の実写版、ファンは待ち望んではいましたが、とてつもないヒットとなっています。ここまでの反響について、どう分析をされますか?

最初に特報を打った際に9,000万ヒットをして僕たちは胸をなでおろしたけれど、あの音楽を人々は待っているとは思っていたよ。アラン・メンケンと昨晩食事をした際、やはり25年前に彼らが作り上げた音楽があまりにも素晴らしくて、その音楽が持っている力だという話をした。楽曲が人々の心を揺り動かし、みんなが大好きになった。その音楽にまた会えるということで関心を持ったと思うよ。だから答えとしては、音楽の持っている力だったと思うよ。

――実写化にあたっては、具体的なコンセプトを皆で共有するなど、共通言語は何だったのでしょう?

それは確かにあったよ。例えばまず、ある特定の時代設定を決め、リアリティーを前面に出すことも決めた時点で、ファンタジーであることはいったん置いてくんだ。俳優たちも、通常の映画のようにリハーサルを重ねて撮影をした。まったく普通のアプローチで、リアルな映画を撮ったんだ。イアン・マッケランも置時計の役ではあるけれども、普通の映画の現場のように参加してもらった。彼自身の顔はほぼ出ないけれど、たくさんの準備をした。キャラクターのバックストーリーも、リアリティーを重視したんだ。

――例えば、ガストンの変化ですね。アニメーション版ではまぬけな悪という感じでしたが、実写版では狂気を感じました。その一方でベルの内面の美をも見抜いているという、魅力的なキャラクターになっていました。

そう。現実に根差すとなると、俳優はもっといろいろな情報が必要になるものだ。根差すものがあって、初めて演技になるからね。’91年のあのキャラクターをそのまま映画にした場合、この世に存在しないような人になる。1日たりとも生きていられないような、ね。ガストンは自分の頂点を17歳で迎え、侵略した村人を軍事的に率いて、英雄となった。言ってみれば高校時代にアメフトのヒーローになって、それ以上うだつが上がらないような人なんだ。過去の栄光に囚われたような人で、そしてまた彼は戦争を体験しているゆえのトラウマもあるだろう。そういう情報をもとにルーク・エヴァンスは演じてくれたんだ。

――一方で非人間のキャラクターもリアルでした。細かい話ですが、ルミエールの顔がロウではなく、燭台に変えた理由は何でしょうか?

アニメーションだと、ロウソクのロウの部分が顔だよね? 今回は実写だからリアルな部分で考えると、アニメーションはロウソクが顔だから、顔の上に常に火があるので、ロウが溶け出すことになるだろう? 溶けたロウが目や口に入りやしないかということで、予期せぬ事態にもなりかねない。ロウソクは燃え続け、溶けたロウはどうなるかなど、突き詰めすぎることはよくないと思い、ルミエールの燭台については、初期段階で美術と話し合っていたよ。物語の設定を18世紀のフランスにすることにしたので、当時の資料を観ると、ともても燭台が細かく細工されていた。それを見ていて台の部分が顔になるよねって、決まったよ。

――その一方で91年のアニメーション版に忠実でもありますよね。そういう意味で大切にしたシーンは、どこでしょうか?

それは、たくさんあるよ。新しいシーンとしては野獣のシーンだけれど、彼の感情を感じてほしいから入れたんだ。古いシーンでは「ひとりぼっちの晩餐会」のシーンは、『美女と野獣』の象徴的なシーンでもあるからね。人々の記憶に刻まれて残っているシーンだから、そういうところは大切にしたところだよ。

――最後にうかがいしますが、91年のアニメーション版以降に生まれたような若い世代には、本作をどう進めますか?

若い女性には楽しんでほしいね。それはエマ・ワトソンの願いでもあるよ。自分の人生に対して自分が責任を持つこと、自分が仕切ることが大事というメッセージがある。自立心であったり、ほかの人の見た目や自分の見た目を気にしたりすることは重要ではないという基本的なことが、この物語の価値でもある。また今の世の中、いろいろな表面的なことが出回っているということもあるので、そういうことにとらわれないようにすることが重要だということを知ってほしいね。

■プロフィール
ビル・コンドン監督
1955年生まれ、アメリカ出身。イアン・マッケランとの『ゴッド・アンド・モンスター』(98)で、アカデミー賞脚色賞を受賞。同名ミュージカルを映画化した『シカゴ』(02)で、2度目のアカデミー賞にノミネート。ブロードウェイを描いた『ドリームガールズ』(06)では、ジェニファー・ハドソンがアカデミー賞助演女優賞を獲得した。そのほかの監督作品には、リーアム・ニーソン、ローラ・リニー出演『愛についてのキンゼイ・レポート』(04)、『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part1』(11)とその続編、『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part2」(12)、ベネディクト・カンバーバッチ、ダニエル・ブリュールが出演した『フィフス・エステート/世界から狙われた男』(13)などがある。

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