eSIM搭載スマートフォンの投入はまだ先か

だがキャリアの視点に立つと、eSIMには大きな弱みもある。eSIM内の情報を書き換えるだけでキャリアを変えられるので、ユーザーが容易にキャリアの乗り換えをしてしまうのではないか? という懸念があるのだ。

実はeSIMは需要が高い法人向けのM2M(機械間通信)用の標準化は早期に進められており、NTTドコモは2014年より車両や建設機械等のM2M機器向けeSIMを提供している。だがキャリア側の懸念などもあってか、コンシューマー向け機器に関するeSIMの標準化はそれよりも進展が遅く、2016年10月に標準化団体のGSMAにおいて、遠隔でSIMカードに書き込みができる「Remote SIM Provisioning Version2.0」の仕様が確定したことで、ようやく大規模に展開できるようになったのである。

実際、今年の2月にはNTTドコモが、この仕様を用いてコンシューマー機器向けのeSIMプラットフォームを開発し、対応する製品を2017年中に発売する予定であることを明らかにしている。またソフトバンクも3月に、IoT推進の一環としてeSIMプラットフォームを開発することを発表。こちらも発表内容を見るとM2M向けだけでなく、コンシューマー向けの展開を意識した内容となっている。

とはいえ、各社のeSIMを用いたサービスイメージ図を見ると、そこに描かれているのはタブレットやウェアラブルデバイスなどであり、スマートフォンの姿はない。それゆえ当面、コンシューマー向けに提供されるeSIM搭載デバイスは、データ通信用の端末に限られるのではないかと考えられる。

NTTドコモのコンシューマー向けeSIMプラットフォームのイメージ図(プレスリリースより)

ソフトバンクのコンシューマー向けeSIMプラットフォームのイメージ図(プレスリリースより)

主力のスマートフォンでは各キャリアやMVNOが激しい競争を繰り広げているが、それ以外のデバイスは普及の限界が見えてきたタブレット、普及がなかなか進まないウェアラブルデバイス、といったように、競争よりも普及の方が大きな課題となっている。そうしたことから、キャリアは普及を進めたいデバイスにeSIMを先行して導入することにより、契約しやすい環境を提供する狙いがあるといえそうだ。

将来的にはスマートフォンにもeSIMの利用が広まり、その際にはモバイルデバイスのあり方も大きく変わってくるかもしれない。だがそこに行きつくまでには、契約面からサービス面など、さまざまな部分で業界全体での合意を進める必要があり、まだしばらく時間がかかるといえそうだ。