コンテンツが少ない今は法人向けの販売拡大に注力

ARとVRの機能を兼ね備えた先進性が大きな特徴となっているZenFone ARだが、性能が高いだけに価格も決して安くはない。8GBのメモリと128GBのストレージを備えた上位モデル「ZS571KL-BK128S8」の価格は99,800円、6GBのメモリと64GBのストレージを備えた「ZS571KL-BK64S6」は82,800円となっている。

ちなみにZenFone ARに匹敵する高い性能を備える「ZenFone 3 Deluxe」の5.7インチモデルの価格を見ると、89,800円となっていることから、性能を考えれば価格相応ではある。とはいえ、一般ユーザーが手軽に購入できる価格ではないこともまた事実だろう。

しかもARに関しては、Tangoのコンテンツが30種類程度とまだ充実しているとは言い難く、ARに対する興味関心がよほど高いのでなければ、物珍しさだけですぐ関心が薄れてしまう可能性がある。またVRに関しては、先に触れた通りDaydream自体日本で利用できないことから、その本領を発揮できないという弱点もある。現状、一般ユーザーが満足できる環境を実現できるわけではないことも確かだ。

もちろん、そうした現状をエイスース側も十分承知しているようで、ZenFone ARは一般消費者だけでなく、法人向けにも積極販売する方針を示している。例えば家具やインテリアを扱う企業などであれば、実際の部屋にバーチャルな家具を配置して見せるなどしてARの強みを生かせることから、法人向けのアプリを開発するベンダーなどと組むことによって、インテリア販売事業者などにZenFone ARの販売拡大を進めたい考えが、エイスース側にはあるようだ。

ARで仮想的に家具などを配置できるリビングスタイル社のルームコーディネートアプリ「RoomCo AR」。こうしたアプリを活用し、法人向けの販売も拡大していく考えのようだ

ARのような新しい技術や概念を手掛けるには、端末がそろわなければコンテンツが広まらない、コンテンツがなければ端末が売れない……という「鶏が先か、卵が先か」の議論になりがちだ。それゆえ対応する端末を販売するには、相応のリスクがある。エイスースはそうしたリスクを、法人向けという安定した販路開拓を進めることで和らげることにより、新しい分野へのチャレンジを進めたといえそうだ。

だがARやVRを普及させるには、端末だけでなくキラーとなるコンテンツの登場が求められるだろうし、そうでなければかつてのAR・VRのように、一過性のブームで終わってしまう可能性もある。エイスースが本気でこの市場に取り組んでいくならば、アプリ開発者の関心を高め、盛り上げていくためのための取り組みも同時に求められるところだ。