新・名古屋メシとしてすっかり定着した感のある台湾まぜそば。名古屋市中川区の「麺屋はなび」が創作した汁なしラーメンの一種で、「味仙」(本店は名古屋市千種区)の台湾ラーメンが元ネタとなっている。いずれも唐辛子たっぷりの激辛ミンチ(通称"台湾ミンチ")をトッピングしてあるのが特徴だ。唐辛子の強烈な辛みは口の中がヒリヒリするほどで、だからこそ、そのあとでやってくるうまみや甘みがまたいきる。

ところが、この元祖である「麺屋はなび」がなんと、「辛くない台湾まぜそば」を売り出すという。辛いからこその存在意義を自らひっくり返すようなまさかのアレンジ。果たしてその真意とは?

「辛くない台湾まぜそば」(810円・税込)

元祖店が考案、その真意や狙いは?

台湾まぜそばの誕生は、2008年。オープン間もなかった「麺屋はなび」が新メニューとして売り出すと、ヤミツキになる味わいでたちまち大評判になった。やがて名古屋中に広まり、現在ではおみやげ品やカップ麺まで売られている。東京などにも「麺屋はなび」の系列店がある他、類似メニューを出す店も現れ、名古屋発の台湾まぜそば勢力が、じわじわと全国に広まりつつある。

台湾まぜそばの生みの親、「麺屋はなび」オーナーの新山直人さん

今回、辛くない台湾まぜそばを売り出し始めたことについて、店主の新山直人さんは「『食べてみたいけれど辛いのが苦手で食べられない』といったお子さんや女性などの声を受けて作りました」と語る。"辛いのが台湾まぜそばの一番の魅力"と理解はしつつも、台湾まぜそばらしさを守りつつ、より幅広い客に食べてもらえるメニューを提供したいと思ったのだそうだ。

気持ちは分かるが、辛くない台湾まぜそばなんて、甘くないケーキとか、辛くないカレーと一緒……と考えると、どちらもなくはないと思えてきた。名古屋メシの味噌煮込みうどんだって、実は原点となるのは、味噌がないたまり煮込みだったともいわれる。

……なんだか腑に落ちない気持ちを抱えつつ、何はともあれ一度食べてみなければ話は始まらない。辛くない台湾まぜそばのターゲットである子ども代表として、筆者の長男(6歳)にも実食させ、本当に子どもでも食べられるのかもチェックすることにした。

見た目は一緒、果たして味は……!?

右が新メニューの「辛くない台湾まぜそば」。左のレギュラーの台湾まぜそばと見た目は全く一緒(見分けがつくように具の配置は変えてあります)。ミンチ、のり、ニラ、ネギ、ニンニク、魚粉、卵黄がトッピングしてあり、麺と豪快に混ぜることで辛さやうまみ、甘みが渾然一体となる。いずれも810円(税込)

従来の台湾まぜそば、そして新メニューの辛くない台湾まぜそばをそれぞれ一杯ずつ用意してもらう。見た目は全く一緒で、見分けがつかない。

麺と具をしっかり混ぜ、辛くない方を長男に食べさせてみると……。「うまっ!」。一口目で早速気に入った様子。箸が止まらなくなり、ズルズルと一気呵成に麺を口に運んでいく。

筆者の長男(6歳)は、早速「辛くない台湾まぜそば」の虜に……!

筆者も試しに少し分けてもらった。確かに、ピリッと刺激的な辛さはない。しかし、うまみは濃厚で物足りなさは全くない。これはこれで、ひとつのメニューとして完成された味わいだ。

辛くない台湾まぜそば、単に台湾ミンチの唐辛子を抜くだけかと思いきや、そんな単純な話ではないとのこと。「玉ねぎやザラメ、しょうがを加え、調味料も醤油からたまり醤油に変えています。辛味をなくす分、甘みやコクをプラスして全体のバランスをとっています」と新山さん。このバランスがなかなかの難題で、試行錯誤を繰り返した末に、現在の味にたどり着いたのだという。

高畑本店の店内はカウンターのみ。塩ラーメンなども評判だが、お客の7割以上が台湾まぜそばを注文する

4月1日から全店で販売を開始しているこのメニューは、告知がSNSや店頭の張り紙ほどと、控えめなPRになっているものの、本店では初日に早くも20杯が売れたという。ニーズは確かにあったというわけだ。

「フルタイムモーニング」なる矛盾するネーミングのサービスを取り入れる喫茶店が市民権を得ているように、名古屋では、飲食店のメニュー名などに厳密さを求めるのは無粋なのかもしれない(そもそも台湾ラーメン自体、台湾にはない料理だし……)。おおらかな心で受け入れて、この"新・新・名古屋メシ"の辛くない魅力を味わってもらいたい。

麺屋はなび高畑本店。常に行列ができる大人気店。他、愛知県、三重県、東京・新宿にあわせて7店舗がある

●information
麺屋はなび 高畑本店
住所: 愛知県名古屋市中川区高畑1-170
営業時間: 11時半~14時、18時~21時(土・日は11時オープン。スープがなくなり次第修了)
定休日: 第1・3火曜日

※価格は税込

筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)

名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信する。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。著書に『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『名古屋めし』(リベラル社)、『名古屋の商店街』(PHP研究所)、『東海の和菓子名店』(ぴあ中部支局/共著: 森崎美穂子)などがある。Webガイドサイト「オールアバウト」名古屋ガイド。愛知県や名古屋市などの協同プロジェクト、なごやめし普及促進協議会ではアドバイザーを務める。