6月25日には米寿(88歳)を迎えるアメリカ人の絵本作家エリック・カール氏。その大きくて温かそうな手は、『はらぺこあおむし』や『パパ、お月さまとって!』など数々の色あせることのない世界を紡いできた。そんなエリック氏の最新作も含めた、原画約160点の展覧会「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」が4月22日~7月2日、世田谷美術館で開催される。

もうすぐ米寿のエリック・カール氏が来場(エリック・カール展広報事務局提供)※写真全38枚

訪日が「私の仕事や人生を豊かにしてくれます」

開催に先駆けて4月21日に行われた開会式には、エリック氏や「エリック・カール絵本美術館」館長のアレクサンドラ・ケネディさんも登壇。アレクサンドラさんが、「エリックさんにとって、芸術においても生活においても、日本という国は30年以上もインスピレーションをもたらしてきました」と語るように、エリック氏と日本とのつながりは深い。

あの『はらぺこあおむし』の誕生には日本も密接に関係。さらに、2002年にマサチューセッツ州アマーストにエリック・カール絵本美術館が誕生したのは、エリック氏が妻・ボビーさんと来日した際に見た日本の絵本美術館がきっかけになっている。

エリック氏がゆっくりと優しく、日本への想いを語る

「この美しき国との長年の深いつながりに感慨を覚えます。妻のボビーとともに、長年にわたり、何度も日本を訪れる機会に恵まれました。エリック・カール絵本美術館は、絵本の分野で、しかも、この規模の美術館でというのはアメリカ初です。何年も前に訪れて感動した日本の美術館が種をまいてくれ、それが開花し、アメリカにおける絵本美術の拠点にまで成長しました。

日本人のみなさんが、私の本や絵を評価してくださっていることは存じております。私は小さい頃から日本美術、特に浮世絵がすばらしいと思っており、長年の間に、建築、工芸、食べものといった日本文化のいろいろなものに刺激を受け、心焦がれてきました。日本の子どもが私の作品に反応してくれることを、何よりも喜びに感じています。

今回の訪問でも細かな発見、会話、におい、風景を持ち帰り、宝とすることができるでしょう。日本を訪れる度にそこで生まれる友情や経験が、私の仕事や人生を豊かにしてくれます。この美術館に私の作品を飾る場所をおつくりくださり、私とボビーの絵本美術館のインスピレーションの源を与えてくださり、ご家族で私の物語や絵を読んでくださっていることがとてもうれしく、心から感謝しております」(エリック氏)。

開会式には赤子を連れた婦人も来場。エリック氏は会の節々で、愛おしそうにその様子を眺めていた

作品を通して知る日本との深い絆

今回のエリック・カール展は、エリック・カール絵本美術館からの全面協力を得て展開する。展示はパート1「エリック・カールの世界」とパート2「エリック・カールの物語」で構成。パート1では、動物たちと自然、旅、昔話とファンタジー、家族をテーマに、パート2では初期作品・素描、画家とともに、ひろがるカールの世界、カールと日本をテーマにして展開している。

「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」は7月2日まで

会場には『はらぺこあおむし』サイン入り初版本(1969年)も展示されているが、冒頭の通り、この絵本と日本とのつながりは深い。実はこの絵本、日本で印刷・製本されたのが始まりだ。穴の開いたデザインはこの絵本の特長でもあるのだが、当時のアメリカではこうした造本は子ども向けの出版物として採算がとれるものではなかったという。絵本の編集者が日本の出版社に話したことによって協力が得られ、作品が世に出ることになった。

『はらぺこあおむし』の原画も

日本とのつながりとして、会場にはいわむらかずお氏との共作『どこへいくの? To See My Friend!』(2001年)も展示。さらに、エリック氏が「以前、昔の着物の展覧会を見たものが非常に印象深かったので、自分でも絵具で彩色したおしがみで着物をつくってみました」と語る<<キモノ>>シリーズも公開されている。

エリック氏が描くと着物はこうなる(<<キモノ>>シリーズより)

もちろん、長年のエリックファンを笑顔にさせてくれる原画も勢ぞろいだ。絵本作家として活躍するきっかけとなった『くまさん くまさん なにみてるの?』に始まり、『とうさんはタツノオトシゴ』、『プレッツェルのはじまり』、『パパ、お月さまとって!』、『はらぺこあおむし』、『くまさん くまさん なに みてるの?』、『うたがみえる きこえるよ』、『どこへいくの? ともだちにあいに!』、『えを かく かく かく』という、数々の作品の原画も登場。絵本原画のほか、舞台衣装のデザインや立体作品などという、絵本とはまた違う"アーティスト"としてのエリック氏にも出会える。

『とうさんはタツノオトシゴ』より

『えを かく かく かく』より

「絵本は美術と文学に出会う最初の経験」

展覧会オリジナルグッズには、今回の展覧会にあわせて制作されたデザインの限定品もとりそろえている。同展にあわせて制作された、ARIGATOという言葉をあしらった「アクリルキーホルダー」(3種類/税込860円)には、あのなんとも言えない表情のあおむしをデザイン。絵本同様、ポップアップが楽しめる「ポップアップカード」(3種類/税込650円)、また、絵本の世界を再現した「アクリルジオラマ」(2種類/税込1,620円)は、組み立てるのも楽しくインテリアにもぴったり。

展覧会オリジナルグッズは自分用にもプレゼント用にも

関連イベントとして、4月23日にはエリック・カール絵本美術館館長のアレクサンドラさんによる開催記念講演会「エリック・カール~その人生と受け継がれていくもの~」(仮)、4月27日、5月13日、25日、6月3日にはおはなし会「みて きく エリック・カール えほんの せかい」、6月10日にはおはなしコンサート「カールさん の おたんじょうび」などを予定している。なお、エリック氏の誕生日である6月25日にも、何かしらのイベントができればと構想していると言う。

「エリック・カール絵本美術館」館長のアレクサンドラ・ケネディさん

アレクサンドラさんは絵本に関し、「ほとんどのお子さんにとって、絵本は美術と文学に出会う最初の経験となります。絵本は自分が誰なのかを理解する手助けとなります。新しい人や場所と出会い、心を開いて思いやりをもつことを教えてくれます。クリエイティブな想像を促し、想像力を刺激してくれます。私たちが何を大切にすべきなのかを考えさせてくれます。私たちがどんな世界に生きていきたいのかという、大切な質問を投げかけてくれます」と語る。このエリック・カール展は、そんな絵本の魅力に改めて触れる機会になることだろう。

●information
「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」
会期: 2017年4月22日~7月2日
開館時間: 10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日: 毎週月曜日(祝休日と重なった場合は開館、翌平日休館)
会場: 世田谷美術館(東京都世田谷区砧公園1-2)
観覧料: 一般1,200(1,000)円、65歳以上1,000(800)円、大高生800(600)円、中小生500(300)円
※( )内は前売料金および20名以上の団体料金。障害者割引あり
※東京会場(世田谷美術館開催)の後、7月29日~8月27日に京都会場(美術館「えき」KYOTO)、10月28日~12月10日に岩手会場(岩手県立美術館)、2018年4月14日~5月27日にいわき会場(いわき市立美術館)にて開催