「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由」(汐街コナ 著、ゆうきゆう 監修/あさ出版: 税込1296円)

2016年10月、大手広告代理店に勤めていた女性社員が2015年末に自殺した原因は、過労にあったとして労災が認定されたニュースは、連日にわたりさまざまなメディアで大きく報じられた。

一連のニュースを目の当たりにし、「東大卒でこんなに若くてきれいな子がどうして? 」「ポテンシャルが高いのだから、いくらでも転職できたはずなのになぜ? 」といった疑問を抱いたのは筆者だけではないはずだ。

「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由」(汐街コナ 著、ゆうきゆう 監修/あさ出版: 税込1296円)は、そんな疑問を抱いた人々に「自分だってわからないかも……」と感じさせる、説得力あふれる「過労死マンガ」(コミックエッセイ)である。

今現在仕事がつらい人はもちろん、「まだ大丈夫」と思っている人や、自殺する人の気持ちが理解できない人など、すべての人々に読んでほしい一冊だ。

自殺が「素晴らしいアイデア」に感じる思考

本書は、フリーのイラストレーター・汐街コナ氏がTwitterに投稿して大反響を呼んだ漫画を、大幅に加筆して単行本化したもの。精神科医のゆうきゆう氏が監修・執筆を担当し、過労死や過労に伴う自殺を選んでしまった人が「死ぬくらいなら仕事を辞める」ができない理由をわかりやすく解説している。

汐街コナ氏はデザイナーとして月平均100時間もの残業をしていた(写真と本文は関係ありません)

Twitter上に投稿された漫画の反響はすさまじく、総閲覧数は3,000万、リツイートは30万を超えた。読み終えた後に「リアルすぎて泣ける」「この漫画は命の恩人です」などのコメントを残す人もいた。本書にはプロローグとして、同漫画が8ページにわたり収録されている。

汐街コナ氏は美大卒業後、デザイナーとして月平均で100時間も残業していた。ある夜、終電を待つ駅のホームで「今一歩踏み出せば明日は会社に行かなくていい」ことに気づく。それが「素晴らしいアイデア」に思え、「これまで死にたいなんて思ったこともなく、死ぬつもりなんてなかった」のに、一瞬ホームに飛び降りようとして、うっかり過労自殺しかけた体験とそこに至るまでの心情を表現している。

汐街コナ氏はもともと、自殺する人の気持ちがわからなかったそうだ。連日の残業をしていた際も確かに仕事はきつかったが、決定的な体調の異変もなかったため、「まだ大丈夫」とがんばり続けていたという。最終ページには、そんな彼女からの渾身のメッセージが記されている。

このように、「まだ大丈夫」なうちに判断しないと、判断そのものができなくなるのです。

過労は徐々に、無意識のうちに、当人の思考力や判断力を破壊してゆく。「自分だけじゃない」「そういうものだ」「仕方ない」とあきらめさせ、地獄から逃げ出す意志を奪い、気づいたときにはもう出口は見えない。そんなブラック企業から逃げ出す勇気を持つための「具体的な意識転換」が、体験者ならではのリアルさでつづられている。