監修・執筆協力に携わった精神科医で作家でもあるゆうきゆう氏は、医師として診療しながら読者数16万人のメールマガジン「セクシー心理学」を発行している。このプロローグをインターネット上で読み、その「わかりやすさ」に衝撃を受けてリツイートしたところ、約40万人いるフォロワーから多くの反響を得て、今回のコラボが実現したという。

本書にはゆうきゆう氏による6本のQ&Aコラムも収録されている。「重度のうつにおちいる前に、早期の受診・治療が大切。おおげさなやつと思われたら恥ずかしい……などと躊躇せずに、まずは気軽に受診予約の電話をしてほしい」と呼びかける。

労働時間だけでは見極められない過労死ライン

一般的な過労死ラインは「残業時間が月平均80時間以上」だが……(写真と本文は関係ありません)

一般的な過労死ラインは「残業時間が月平均80時間以上」とされているが、ゆうきゆう氏は「人には個体差があるし、労働時間だけでは『がんばりすぎ』なのか『まだがんばれる』のか判断することはできない」という。個々人によってがんばれる程度には差があるため、一概に数字で線引きをすることへの危険性について指摘している。

そのうえで、「がんばっていることが自分自身で決めたことかどうか」「がんばったことの成果がわかりやすいかどうか」の2点が、がんばり続けても大丈夫か否かを見極める際に重要な要素になるという。また、以下に挙げた5点のうち、3つ以上に該当する場合は即座に医療機関を受診すべきだとしている。

■眠れない
■食欲がわかない
■仕事に行きたくない
■好きなことや趣味が楽しく思えない
■死について考えることが増えてきた

精神科医であるゆうきゆう氏でさえ、過去にストレス過多状態が続き、不眠や食欲不振に陥り、仕事に行きたくないと落ちこんだ時期があるとのこと。「『何があっても絶対大丈夫な人』は存在しないのです」「『自分は心が弱いんだ』などとさらに自分の気持ちを追い込む必要は全くありません」という彼のメッセージは心強い。

休めない・辞められない理由

なぜ、仕事を休んだり辞めたりできないのだろうか。本書に登場する人物たちは「職場に迷惑かけられないから」「店長で責任者だから」「休むとみんなが困るから」「自分だけじゃないから」などと口をそろえ、自分ではなく他者を中心にした理由の数々を述べる。

帰国子女の筆者は、これらの思考はまさに「個人」よりも「集団」を重んじる日本人特有の「美徳」だと思う。真面目さや勤勉さ、努力する姿勢、責任感、他者への配慮など、本来は讃えられ、報われるべきはずのものなのに、その意識が高い人ほど辞められず、うつになってしまうのではないだろうか。

全編にちりばめられた汐街コナ氏からの助言は、簡潔でわかりやすく心を打たれる。

「できないとがんばっていないはイコールじゃない」
「精神論だけで乗り越えられるものは多くはない」
「うつ状態も心が複雑骨折しているようなもの」
「大丈夫ですよ 俺がやらねば誰かやるですよ」……etc.

漠然とわかってはいても、あらためて明記されると胸にしみる。「そうだよな、そうなんだよな」と徐々に意識が転換されてゆくのがわかる。