さて、ここまで説明してきたソリューションを構築するための環境がどうなっているのか、というのがPhoto12である。これはある意味Intel Goの一部、という考え方も出来る。FPGA向けには"FPGA SDK"と""Quartus Prime"、ディープラーニング・インタフェース・エンジン、AD Library/OpenCLランタイムといったものが提供され、これらを利用して迅速にシステムを構築できる、とする。これに向けてIntelが提供するのは、オートモーティブグレードのArria 10 GXである(Photo13)。スペックそのものはArria 10 GXそのものだが、AES-Q100の認定が取得可能なもので、かつISO 26262用のドキュメントおよびサポートを提供するとしている。

Photo12:いくつか欠けているコンポーネントがあるのだが、それについては後述

Photo13:ちなみにこのオートモーティブグレードのArria 10 GXは、Cortex-Aコアを内蔵しない、純粋なFPGAである

をて、氏の説明は大体こんなところだったが、以下補足説明をいくつか。Intelといえばディープラーニング向けにNervana Systemsを買収しており、自動運転向けとしては、2017年3月にMobileyeの買収を発表している。なので、当然これらとの絡みは気になるところだが、まずMobileyeに関しては買収が完了していない(プレスリリースによれば"The transaction is expected to close within the next nine months."とされている)ため、これが完了するまではMobileyeを絡めた話は出来ないということであった。一方のNervanaであるが、こちらはすでに買収が完了し、Nervana Engineを搭載した将来製品(Lake Crest)も発表されているものの、あくまでデータセンター向けソリューションとして必要なら提供は可能だが、今の時点ではまだIntel Goというか自動車向けのソリューションには含まれない、という話であった。

またPhoto12で、Intel HLS Compilerが欠けているのがちょっと不思議であった。言うまでも無く顧客のC/C++のアルゴリズムをFPGAに落とし込もうとすれば、これが一番早道だからだ。ところが現状は自動車向けにはこれは提供しない(もちろん使わせない、という話ではないが、Intel GoのIn-Cehicle Developmentの環境には含まれない)とする。理由は、というと、今は例えば画像認識とか推論とかには、それぞれDL Interface EngineやAD Libraryなどを提供しており、これを直接使うようにしてもらうほうが早道で、高級言語を使う場合はFPGA SDK for OpenCLもあるからということであった。

ところで最初にちょっと書いたが、現在のIntel Goは自動運転車の「開発」プラットフォームである。Arria 10 GXはフルに動かすと35Wだし、これと組み合わせるXeonも当然数十W~100WオーバーのTDPなので量産車には向かない。これは開発を促進するために最大限のパフォーマンスを得られる構成にしているから、という話である。なので実車にはこのクラスが使えない可能性は当然ある。そうしたことを考慮してか、Arria 10に加えてCyclone 10のオートモーティブグレード製品の提供も予定しているという(オートモーティブ用というよりも、オートモーティブもターゲットに含まれているCyclone 10そのものは2017年2月に発表されているが、AEC-Q100とかの取得はまだなされてない模様だ)。実際、量産車に搭載するには消費電力が数W~10W台でないとかなり厳しいため、Atom+Cyclone 10という組み合わせにはそれなりのリアリティがありそうだ。逆にStratix 10に関しては今のところ自動車向けには考えていない、という話であった。

ちなみにIntel PSGでは2016年8月、将来製品のロードマップを明らかにしており、この中ではおそらくHarrisvilleがArria 10の後継となると思われるのだが、これらに関しては今回は特に言及はなかった。こちらは出荷時期が未定ということもあり、しかも恐らくはその前にMobileyeの自動運転ソリューションとの統合というか住み分けが発生することを考えると、あまり先の話をしても意味はないのだろう。ただ生嶋氏曰く、FPGAはフレキシビリティがあるのが最大のメリットで、なので仮にMobileyeのソリューションを使っても、FPGAには役割がかならずあると思う、との事だった。実際そうだとは思うのだが、そうなってくるとQuartus Primeでガリガリ書け、というのはちょっとエンジニアには辛い気がしなくも無い。もっともその頃には、もう少しツールチェインも進化している気がする、というか進化していて欲しいものである。