蜂蜜を与えられた赤ちゃんが、乳児ボツリヌス症で亡くなるという悲しいニュースがあった。周囲の子育て中の女性からは、「蜂蜜がダメなのは常識」という声が聞かれた一方、さまざまな理由で情報を得ることができない親や、離乳食の常識が、現在と異なる時代に子育てをしていた祖父母世代の方もいるかもしれない。

そこで今回は、赤ちゃんに離乳食を与えるときの注意点や基本について知るため、東京都品川区の荏原保健センターで開催された離乳食教室に足を運んでみた。

東京都品川区の荏原保健センターで開催された離乳食教室の様子

蜂蜜の注意喚起を強化

改めて赤ちゃんに蜂蜜、黒砂糖、コーンシロップを与えないよう、注意喚起が行われた

この日の離乳食教室で講師を務めたのは、保育園・保健センターで20年以上、子どもの食事に関わってきたベテラン管理栄養士。教室でははじめに、このたびの離乳食の事故を受けて、改めて赤ちゃんに蜂蜜、黒砂糖、コーンシロップを与えないよう、注意喚起が行われた。

これまでも、乳児健診や離乳食教室の場で、口頭での説明を行ってきたものの、フリップを使った注意喚起は、事故が起きて以降の対策だという。

蜂蜜に限らず、甘い物に関しては、「赤ちゃんが本能的に好きな物。喜んでたくさん食べるかもしれませんが、それでお腹がいっぱいになってしまい、離乳食や母乳・ミルクから十分な栄養がとれない可能性もあります」とのこと。

最近では、乳児用のイオン飲料なども販売されているが、普段の水分補給は麦茶や湯冷ましがお勧めで、具合が悪い時などに活用してほしいという。また果汁については、離乳食の進め方の検討がなされる中で、平成19年以降、与えなくても良いとされているそうだ。

初めての食べ物を与える時は「1日1さじ」から

そして、生後5~6カ月の離乳食の与え方について、解説が始まった。なぜこの時期から離乳食がスタートするのか。それは、「首のすわりがしっかりしている」「支えてあげると座れる」「食べ物に興味を示す」といったように、赤ちゃんの食べる準備が、整ってくるからだそうだ。

親も赤ちゃんも体調が良い日を選び、1日に1回、10倍粥1さじから始め、様子を見て、少しずつ量を増やしていく。その後、じゃがいも、にんじん、キャベツ、豆腐など、少しずつ食べ物の種類も増やし、ポタージュ状にして与えるといいという。加えて、初めて食べる食材を与える時は、必ず「1日1さじ」を守り、様子を見て、進めてほしいと話した。1さじとは、ティースプーン1杯くらいが目安だ。

生後5~6カ月の離乳食の与え方(例)

また、離乳食を与えるタイミングについては、万が一、具合が悪くなった場合に、病院に駆け込める午前中がお勧めなのだとか。離乳食を与えた後は、赤ちゃんがお腹いっぱいになるまで、授乳を行うことも忘れないでほしいという。

「赤ちゃんにとって、スプーンから食べ物を食べるのは、初めての経験となります。上手に食べられなくても心配しないでください」。何回も繰り返し離乳食を与えることで、赤ちゃんは少しずつ、食べることに慣れてくれる。焦らないことが大切だという。

市販の商品も上手に活用を

教室では、離乳食の試食タイムも設けられていた。キャベツ、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、だし昆布を水に入れて火にかけ、野菜が軟らかくなるまで煮たスープは、裏ごしした食材に加えて、滑らかにするために使う。調味料は一切使用していないので、大人からすると物足りないが、赤ちゃんには素材の味を、十分に味わってほしいのだそうだ。これらは、冷凍保存して作り置きしておくと、便利に使える(ただし冷凍後、1週間以内に使い切る)。

奥に3つ並べられたお皿は、ささみのすりつぶしのイメージ。左手前は、野菜スープの具材、右手前はゆで加減の確認用に展示されたにんじん。押すと簡単につぶれるほど、軟らかかった

また驚きだったのが、手作り以外の離乳食も紹介していたこと。ベビーフードとして売られているものは上手に活用してほしいという。「大人用であっても、市販の白粥などは、食品表示を確認して"米のみ"であれば使えます。食べ慣れておけば、災害時にも便利です」。災害時でも、食べ慣れているものなら食べてくれる。商品自体をストックしておくことも勧めていた。

市販の商品も表示を確認して活用してみよう

ただしスープのだしについては「大人用のだしやコンソメは、塩分が入っているので使わないようにしてください」とのこと。いずれにせよ、食品表示を確認する習慣をつけておくと良さそうだ。

生後7カ月以降は、心配しすぎず、さまざまなものを食べさせてあげて

生後7~8カ月になると、与える離乳食の形状は「ポタージュ状」から「マッシュ状」へ変わり、食事の回数も、1日1回から1日2回に増える。「プリンなどの軟らかい物を食べる時の、自分の口の中の動きをイメージしてみてください」。そのようにして、舌ですりつぶせる硬さ、具体的には、豆腐くらいの硬さをイメージすると分かりやすいという。また、しょうゆ1~2滴程度の風味づけであれば、味付けをしても大丈夫。ただ味がなくても食べているようであれば、無理に味付けする必要もないそうだ。

生後7~8月カ月の離乳食(1食分)の例

「この時期は、いろいろな味や舌触りを楽しめるように食品の種類を増やしてほしいと思います」。アレルギーが心配だからと、誤った判断で食物の除去をするのは、お勧めできないという。例えば卵であれば、固ゆで卵の卵黄の部分をつぶし、1さじずつから始めてみる。それで様子を見て、異常がなければ、卵白の部分も与えてみる。「食物アレルギーかな?」と思ったら、専門医に相談してみよう。

そして、1日3回食になる生後9~11カ月では、形状が「歯茎でつぶせる硬さ」に変わる。「刺身であれば、新鮮で骨も皮もありません。ゆでてすりつぶして与えると便利かもしれません」。この時期は、鉄分不足になりやすいので、赤身の肉や魚を積極的に取り入れるといいそうだ。

調理前の手洗いと食材の十分な加熱を

最後に全体を通して気をつけるべきこととして、「調理前に手洗いをする」「キッチン用品、スポンジや台布巾は消毒する」など、衛生面の配慮があげられていた。また、どんな食材であっても、十分に加熱してほしいという。

「とにかく焦らないこと。離乳食は食べたり食べなかったりを繰り返すことがあります。悩むことがあれば、保健センターへぜひ相談に来てください」。品川区だけでなく、各自治体には、相談に応じてくれる栄養士がいることだろう。

"立派な離乳食"を作ろうとしなくていい

講師を務めた管理栄養士によれば、離乳食教室を訪れる親の割合は、年々増えているという。「核家族化の影響などで周囲に相談できる人がいなかったり、不安を抱えていたりする方が多いと感じます。インターネットを始め、さまざまな情報があふれているので、"間違いがない情報"を求めて、来られるのだと思います」。インターネット上の情報を参照する場合には、国や自治体が運営しているホームページや、そのホームページにリンクされている他団体の情報など、信頼性が高いものを活用してほしいと話した。

「インターネットや書籍などで、たくさんの離乳食のレシピを見ることがあると思いますが、凝ったものである必要はありません。例えば、親の食事を味付けする前に、取り分けてつぶして与えるなど、がんばり過ぎなくていいんです」。ご飯、野菜、たんぱく質という3つの要素が入っていて、栄養のバランスがとれていれば、全く問題ないそうだ。

講義を受けて印象に残ったのは、「おおまかに、おおらかに、離乳食に取り組んでください」という言葉。もちろん、赤ちゃんの食べ物については、さまざまな注意が必要だ。しかし、最低限の知識を身につけたら、おおまかに、おおらかな気持ちで、赤ちゃんとの楽しい時間を大切にできるといいのかもしれない。