現在、エンタープライズ・データセンターにおいてフラッシュ・ストレージの採用がとても多くなってきていますが、ネットワークもしっかり考えながら、インフラ構築をしている企業はまだ多くありません。フラッシュ・ストレージを導入するなら、ネットワークの最新のテクノロジーに対応したものにすることで、高速でロスのないデータセンターを構築することができます。

本稿では、その理由と導入のポイントを、新しい業界標準であるNVMe over Fabricsに関する情報も含み、ご紹介いたします。

なお本稿は、米Brocade Communications Systems ストレージ・ネットワーキング担当シニア・バイスプレジデント ジャック・ロンドーニ(Jack Rondoni)氏が執筆したものを、ブロケード コミュニケーションズ システムズ システムエンジニアリング本部 プロダクトソリューション部 シニアプロダクトスペシャリスト 辻哲也氏が翻訳監修したものです。

もし、あなたがエンターブライズ・データセンターで働いており、そこですでにフラッシュ・ストレージを使っていたとしたら、それは正しい判断だといえます。特に、フラッシュ・ストレージでしか実現できない性能を必要とするような、遅延が許されないアプリケーションや高精細ビデオ、モバイル・コンピューティング、およびアプリケーションが扱われている場合は、なおさら当てはまります。

ユーザーはアプリケーションが直ちに応答することを期待しており、フラッシュ・ストレージはそれを実現できる水準の性能を提供できます。事実、データセンターにおいてフラッシュ・ストレージに移行することで、以下のような多くの利点を得られます。

フラッシュ・ストレージに移行する利点

・より少ない消費電力(消費電力効率を、ハードディスクと比べて600倍に改善させることができる、と主張するベンダーもいます。)
・従来の回転型ドライブに比べて発熱量を低減
・より小さな設置面積
・さらなる低遅延の実現(ハードディスクに比べて、遅延を40倍低減できると主張するベンダーもいます)
・迅速な投資回収
・アプリケーション動作の向上

実はネットワークが重要です

このような利点を享受しようとフラッシュ・ストレージに投資しても、期待通りの投資効果を得られないこともあります。例えば、ストレージとサーバー間のトラフィックが増大することにより、既存のネットワーク接続能力がすぐに限界を超える可能性もあります。

フラッシュに移行することで、ストレージ・アクセスにおけるボトルネックが、ストレージからネットワークへ移る場合もあります。この場合、フラッシュ・ストレージの投資回収期間が延び、フラッシュの実装が遅れてしまうこともあります。自社のネットワークの性能と潜在的課題を理解することは必要不可欠です。

性能とスループットの向上、および低遅延は、フラッシュを使用することで得られる2つの主な利点です。しかし、コンピュータ、ストレージ、ネットワーク機器のバランスの取れたインフラなしには、フラッシュ技術の潜在能力を最小化してしまう可能性があります。全社にわたってフラッシュを積極的に導入し、性能を向上させようとしても、多くの企業の場合、この問題がさらに悪化することになります。

どのような選択肢があるのか?

最新のフラッシュ・ドライブや性能向上が図られたオールフラッシュ・アレイ、またはネットワーク・ハードウェア・ソリューションの購入を検討していたとしても、この段階では、自社の課題を解決するのに最善のソリューションは何かを推測しているだけでしかありません。もう一つの選択肢は、多くのデータを処理し、遅延が許されないアプリケーションの性能向上を目的に、フラッシュ向けに策定されたストレージ・プロトコルであるNVM Express(NVMe)を導入することです。

今日、NVMeはダイレクト・サーバ・アタッチド・ストレージ向けに使われていますが、共有ストレージ・ソリューションに有益なストレージ・ファブリックでもこの低遅延のプロトコルを利用したいというニーズが高まっています。また、NVMeを使用することで、1,000台まで共有ストレージ・デバイスを拡張することができます。

NVMeをさらに強化するために、新しい業界標準であるNVMe over Fabricsが、2016年6月に発表されました。NVMe over Fabrics は、NVMeコマンドを既存のネットワークでネイティブにサポートでき、NVMe規格を大規模なストレージ・ファブリックでも利用できるようにします。

NVMeはその性質上、ファイバーチャネルやイーサネットを含む、様々なファブリックで使用できます。多様なネットワーク・ファブリックに対応する共通の抽象化レイヤーを標準化することで、既存のネットワーク・アーキテクチャを継続して使用することができます。NVMe over Fabricsと比較すると、40ギガビット・イーサネットのiSCSI、ファイル・ベースのNFS(Network File System)やSMB(Server Message Block)、16Gファイバーチャネルでさえも、ネットワークのボトルネックになる可能性があります。これは、まるで高性能なスポーツカーをオフロードで走行させるような、性能不足を体験することになります。

これは、あなたのビジネスにどのような意味を持つのか?

今日の多くのビジネスでは、業務用基幹アプリケーションにおいて、大規模なネットワークで送受信される超高速なデータ転送を実現する必要があります。NVMe over Fabricsは、NVMe コマンドとストラクチャをエンド・トゥ・エンドで直接伝送することで、遅延を大幅に低減し、SCSI変換が不要になります。その結果、アプリケーションを高速に稼働させ、より大規模に拡張させることができます。

NVMeの主な目的は、ファイバーチャネルやイーサネットといった、従来のカプセル化技術に見られるプロトコル・オーバーヘッドを解消し、その結果、遅延を低減し、ホストとターゲット・ストレージ・デバイス間のIOPSを改善することにあります。NVMe over Fibre Channel(FC-NVMe)は、フラッシュ・ストレージと併用することで、当初望んでいた性能と低遅延を確実に得られるだけでなく、ファイバーチャネル・ネットワークによる一層の信頼性と性能も享受することができます。

このように、ファイバーチャネル・ネットワークでNVMeをネイティブに稼働させることで、プロトコル変換の必要がなくなるとともに、フラッシュ・ストレージの利点をさらに高め、フラッシュを簡潔かつ効率良く維持することができます。これは、アプリケーションの性能を向上させるだけでなく、データ・ストレージ容量を増やし、情報の分析やパーソナライゼーションをより高度化できることを意味します。

多くの企業にとって、NVMe over Fabricsは高性能で低遅延なソリューションです。その主な利点は、性能に影響を及ぼすことなく、持続可能な拡張性を追加できる点にあります。

オールフラッシュ・アレイで低遅延接続を実現するNVMe over Fabricsは、大規模エンタープライズおよびSANインフラストラクチャ向けの新たな有望なソリューションです。今すぐに移行できなくても、NVMeに少しずつ移行する中で、第6世代ファイバーチャネル・ソリューションによって、NVMe over Fabricsへの準備を整えることができます。

将来への備えをすることができます

NVMeとファイバーチャネルの組み合わせにより、最も高速なファイバーチャネルを活用しながら、低遅延と性能におけるフラッシュの利点を拡張することができます。今の段階から、NVMeをサポートするハードウェアに投資することで、将来何が提供されようとも、それに対して自社のネットワークとストレージを確実に最適化させていくことができます。これは、エンタープライズ・データセンターやモバイル・コンピューティング、高性能コンピューティング、リレーショナル・データベース、その他の用途に今後対応できることを意味します。

アプリケーションの高度化が進み続け、データセンターに仮想化が浸透するのに伴い、今後、フラッシュ・ストレージも同様に成長するでしょう。将来的に自社のアプリケーションでどれほどの帯域幅が必要になるか、すなわちどれほど高速なアプリケーション応答時間が見込まれるのかを理解することは、今後の計画に不可欠な要素となります。

フラッシュやフラッシュを必要とするアプリケーションに対応させるように、現在のデータセンター環境を再考するにあたり、NVMeやNVMe over Fabricsの導入について検討することになるでしょう。ストレージ、コンピューティング、ネットワークリソース間でどれだけの通信が行われているのかを理解することは、今後のビジネスの成功に大きな影響を及ぼします。

NVMeをストレージ・ネットワークにおける次の”革新的なステップ”として利用することで、状況に合った、自社のビジネスにとって最適なソリューションを実装することが可能となるのです。

執筆
Brocade Communications Systems,Inc. ストレージ・ネットワーキング担当シニア・バイスプレジデント ジャック・ロンドーニ(Jack Rondoni)
翻訳監修
ブロケード コミュニケーションズ システムズ
システムエンジニアリング本部 プロダクトソリューション部
シニアプロダクトスペシャリスト 辻 哲也