『逃げ恥』を中心に大豊作だった秋ドラマに続くべく、時間と予算をかけた意欲作ぞろいの冬ドラマ。『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)を除く(最終話が31日深夜に放送)、すべての作品が終了した。

視聴率は、『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)、『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)、『嘘の戦争』(フジテレビ系)が、全話平均2桁を記録。その一方で、視聴率が低迷していた『カルテット』(TBS系)の人気がネットで爆発し、連日多くのメディアを賑わせた。

ここでは、「『カルテット』という異物」「背筋も凍るキレキレの悪女」という2つのポイントから検証し、全19作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

■ポイント1:『カルテット』という異物

左から高橋一生、松たか子、満島ひかり、松田龍平

前述した視聴率と反比例するような盛り上がりは、ドラマ業界の常識を超越。「面白いものほど録画する」「視聴の数だけでなく、愛着の深さも評価指標に入れるべき」という声が飛び交うなど、視聴者の心に残る作品だったのは間違いない。

会話群像劇、サスペンス、ラブ、ヒューマンなどのテーマが混在する難解な作風は、分かりやすさを重視する昨今のドラマ業界では異例。しかし、セリフの面白さ、含みを持たせた演技、伏線とその回収、今後の予測など、視聴者が深掘りしたくなる仕掛けが目白押しで、SNSは常にヒートアップしていた。

象徴的だったのは、ネットメディアの過熱ぶり。「『カルテット』の記事は、熱心な視聴者たちからアクセスが殺到してPVが上がる」ため、毎日記事をアップする媒体も見られた(私のもとにも「『カルテット』のコラムを書いてほしい」という10数社の依頼が届いたほど)。

また、ネット上で沸騰した「時間軸がズレている」説の広がりを危惧したプロデューサーが「単純なミスです」と謝罪。それがYahoo!ニュースの総合トップになるほど反響を呼んだものの、批判どころか拍手の声が集まるなど、その愛されようは『あまちゃん』(NHK)を彷彿させるものがあった。

ともあれ、『カルテット』という異物は、「テーマと主演選びに偏り」「原作ありきの企画」「分かりやすさ重視」という現状の流れにアンチを打ち込み、今後のドラマ制作に影響を与えるだろう。

■ポイント2:背筋も凍るキレキレの悪女

左から水原希子、菜々緒、田中麗奈

冬ドラマでは、とにかく悪女キャラの活躍が目立った。特筆すべきは、強烈な「悪女のタイプがバラバラだった」こと。いずれの悪女も、一切の遠慮なく、主演を食ってしまうほどの暴れぶりを見せた。

・『A LIFE』榊原実梨(菜々緒)は、不倫略奪タイプ
・『嘘の戦争』十倉ハルカ(水原希子)は、詐欺師タイプ
・『カルテット』来杉有朱(吉岡里帆)は、愉快犯タイプ
・『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)森山蘭(水野美紀)は、激情タイプ
・『真昼の悪魔』(フジテレビ系)大河内葉子(田中麗奈)は、サイコパスタイプ
・『就活家族~きっと、うまくいく~』(テレビ朝日系)川村優子(木村多江)はストーカータイプ
・『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)左江内円子(小泉今日子)は、悪妻タイプ
・『突然ですが、明日結婚します』(フジテレビ系)桜木夕子(高岡早紀)は、女の敵タイプ

各番組が強烈な悪女キャラを作る理由は、「話題性を高め、感情移入を促したい」から。昨年、『僕のヤバイ妻』や『ナオミとカナコ』(ともにフジテレビ系)の悪女がネット上の話題を集めたことが、制作サイドの意識を変えているのは明らか。しかも、上記のほとんどが、「最後まで改心しなかった」ところが、悪女キャラの描き方が変わりつつあることを示している。


全作の全話を見た結果、冬ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『カルテット』。脚本・演出・演技の質はもとより、それを実現させたプロデュース力に頭が下がる。「見る人を選ぶ作品」と言われたが、要は視聴環境。映画館のような映像に集中できる環境なら、大半の人が楽しんで見られるレベルにあった。

意欲とテクニックの両面では、『バイプレイヤーズ』も負けていない。背景にある贅沢さを逆手に取るようなユーモアあふれる仕掛けが光った。

その他、『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK、『お母さん』に略)、『増山超能力師事務所』(日本テレビ系、『増山超能力』に略)、『銀と金』(テレビ東京系)の世界観も印象的。いずれも、穏やかな中に緊張感を醸し出す演出の技が光っていた。

男優では、「若手ナンバーワンは俺だ」と言わんばかりの熱演を見せた『銀と金』の池松壮亮。裏社会の悪と対峙しながら、話し方、表情、佇まいなどが徐々に変わっていく姿を演じ切った。

女優では、「母親の束縛に疑問を抱きはじめる」ヒロインを演じた『お母さん』の波瑠。演出陣を味方につけて、意思を持たない“お人形さん”のような、虚しさと美しさの同居した女性像を作り上げていた。

【最優秀作品】『カルテット』 次点-『バイプレイヤーズ』『お母さん』
【最優秀脚本】『カルテット』 次点-『増山超能力』
【最優秀演出】『真昼の悪魔』 次点-『カルテット』
【最優秀主演男優】池松壮亮(『銀と金』) 次点-草なぎ剛(『嘘の戦争』)
【最優秀主演女優】波瑠(『お母さん』) 次点-田中麗奈(『真昼の悪魔』)
【最優秀助演男優】浅香航大(『増山超能力』) 次点-坂口健太郎(『東京タラレバ娘』)
【最優秀助演女優】斉藤由貴(『お母さん』) 次点-吉岡里帆(『カルテット』)
【優秀若手俳優】山田美紅羽(『下剋上受験』) 石川恋(『東京タラレバ娘』)