米国の宇宙企業スペースXは3月31日(日本時間)、通信衛星「SES-10」を搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。このロケットは昨年4月に一度打ち上げ、回収されたもので、ファルコン9にとって初の「再使用打ち上げ」となった。同社は今後、ロケットの再使用打ち上げを続け、1回あたり100億円前後とされる打ち上げコストの大幅な低減を目指す。

通信衛星「SES-10」を搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

昨年4月に回収されたファルコン9の第1段。今回の打ち上げではこの機体が再使用された (C) SpaceX

ロケットは日本時間3月31日7月27分(米東部夏時間3月30日18時27分)、フロリダ州にある米国航空宇宙局(NASA)ケネディ宇宙センターの第39A発射台から離昇した。

ロケットの第1段、は2016年4月に飛行したものを回収し、再使用した「中古」の機体だった。しかし、スペースXはこの機体を「Flight proven Falcon 9 (成功が約束されたファルコン9)」と呼んでおり、その言葉どおりの問題なく順調に飛行。第2段と分離後はふたたび船へ着地し、「再回収」にも成功した。

一方の第2段も順調に飛行し、SES-10を計画どおり分離して所定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。

SES-10は、ルクセンブルクの衛星通信会社SESが運用する通信衛星で、西経67度の静止軌道から、ラテン・アメリカやカリブ海地域に衛星通信サービスを提供する。

現在、衛星の状態は正常で、地上との通信の確立にも成功。このあと衛星は自身のスラスターを使って、運用が行われる静止軌道へと乗り移る。

ふたたび回収されたファルコン9の第1段機体 (C) SpaceX

打ち上げられた人工衛星SES-10の想像図 (C) SES

ファルコン9、初の再使用打ち上げ

今回の打ち上げは、ファルコン9にとって初めてとなる「再使用打ち上げ」となった。ロケットの再使用による人工衛星の打ち上げは、2011年に引退したスペース・シャトル以来約6年ぶり。ファルコン9のような垂直に離着陸できるロケットに限れば世界初の出来事である。

スペースXでは、ロケットを旅客機のように再使用し、同じ機体と何度も打ち上げられるようにすることで、打ち上げコストを従来の「100分の1」にすることを目指している。同社にとっては2002年の設立以来の大きな目標の1つであり、さまざまな研究や開発、試験を続けてきた。

今回打ち上げられたファルコン9の第1段は、2016年4月に「ドラゴン」補給船運用8号機の打ち上げに成功し、大西洋で回収船「もちろんいまもきみを愛している」号によって回収された機体で、その後はスペースXの工場で点検や整備などを行った後、今年はじめにはエンジンの燃焼試験にも成功。満を持しての実施となった。

打ち上げ成功後、スペースXを率いるイーロン・マスク氏は次のように語った。

「私たちは今日、人工衛星打ち上げロケットの第1段機体を初めて再使用することに成功しました。今日は宇宙開発にとって、そして宇宙産業にとって、驚くべき日になったと思います。大いなる進化であると言っても良いでしょう。ここにたどり着くまでに、15年もの年月がかかりました。とても長く、険しい道のりでした。今日はスペースXにとってだけではなく、宇宙産業全体にとっても、そして何より、多くの人々が『不可能だ』と言ったこの再使用のアイディアを、可能だと証明できたという意味でも、本当に素晴らしい日です」

再使用に向けた準備中のファルコン9 (C) SpaceX

再使用の成功後、喜びのコメントをするスペースXのイーロン・マスクCEO (C) SpaceX

スペースXとSESは、今回の打ち上げにかかったコスト、あるいは価格を明らかにしていない。ただ、昨年スペースXのグウィン・ショットウェル社長は、「第1段を再使用するファルコン9の場合、10%の割引で提供する」と発言している。

現在、新品のファルコン9は6200万ドル(約69億円)で販売されているため、再使用の場合はおおよそ5580万ドル(約62億円)ということになる。また、今回は初めての再使用打ち上げであったことから、さらに割引が行われたものと考えられる。

第1段の再使用による値下げについては、ショットウェル社長は2016年3月に「最大で30%の割引が可能」とも語っている。しかしいずれにしろ、スペースXが掲げている「コスト100分の1」という目標には届いていない。今後、再使用に必要な作業の効率化や省力化などにより、どこまでコストダウンや値下げが実現するのかが注目される。

スペースXはこれまでに8機の回収に成功しており、また今年3月には、今年だけでも(今回を含め)6回の再使用打ち上げをしたいと表明している。また、現在の再使用は試験的なものであるものの、年末ごろに完成する予定のファルコン9の改良型「ファルコン9 ブロック5」の運用が始まれば、再使用打ち上げが常態化する。

その一方で、ファルコン9は2015年と2016年に1回ずつ打ち上げに失敗した影響で、衛星の打ち上げ予定がひっ迫しているばかりか、信頼性にも疑問の声が上がっている。同社は今後、再使用打ち上げなどの試験に挑みつつ、ロケットそのものの信頼性を、他のロケットと同程度にまで回復させていかなくてはならず、難しい舵取りを強いられることになる。

打ち上げを待つファルコン9 (C) SpaceX

ファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX