米Adobe Systems(以下、Adobe)がAI(人口知能)の開発に注力している。Adobeでエグゼクティブバイスプレジデント兼CTOを務めるアベイ・パラスニス(Abhay Parasnis)氏は、「AIはAdobeにとっていちばん大きな投資分野であり、今後も投資を継続していく」と明言した。

2016年11月に発表された「Adobe Sensei」。Senseiは日本語の“先生”が語源。Adobe関係者は命名の理由を「その道を究めた達人から学ぶというニュアンスがある(と米国Adobeのチームが)感じたから」と説明した

3月19日から23日までの日程で開催したAdobe Systemsの年次マーケティングカンファレンス「Adobe Summit 2017」では、マシンラーニングを統合したAIフレームワークである「Adobe Sensei(センセイ)」を、マーケティング分野でも機能強化すると発表した。ちなみに、Senseiは日本語の“先生”が語源で、「教師」「マスター(修士)」「学習」という意味を持つ。Adobe関係者は命名の理由を、「その道を究めた達人から学ぶというニュアンスがある(と米国Adobeのチームが)感じたから」だという。

では、Adobe Senseiは、他ベンダーのAIと何が異なるのか。Senseiの強みは何か。Adobe Summit 2017期間中、パラスニス氏は日本メディアのグループインタビューに応じ、マーケティング分野における同社のAI戦略について語った。

Adobeでエグゼクティブバイスプレジデント兼CTOを務めるアベイ・パラスニス(Abhay Parasnis)氏

Senseiの強みはコンテンツとデータ、クリエイティブ

AI分野ではMicrosoftの「Cortana」や、IBMの「Watson」などがある。SenseiはこれらのAIと比較し、何が異なるのか。

パラスニス氏:Senseiは、3つのインテリジェンスに注力している。「クリエイティビティ(創造性支援)」「ドキュメント(コンテンツ理解)」そして、「マーケティングとカスタマー」だ。特に「マーケティングとカスタマー」は、顧客体験を向上させるための知見(洞察)を提供するものであり、われわれの得意分野でもある。

Senseiは他ベンダーのAIと比較し、大きく異なるポイントが2つある。1つは、われわれが多くのコンテンツとデータを擁しており、すでに(Adobe)Analyticsの中に大きなデータリポジトリを保持していることだ。Senseiは、こうしたデータを学習の“糧”としている。

もう1は、デザインの優位性だ。われわれは(画像や動画といった)クリエイティブの分野を得意としており、その知見もある。同分野に関するデータの蓄積度と(そのデータを基とした)学習能力は、他のAIよりも長けていると自負している。

この2つが相互補完する形で、専門的な技術の独自性と優位性を有している。それが強みと言えるだろう。

AIアーキテクチャの観点から、Senseiと他ベンダーのAIとの違いを教えてほしい。Senseiのアーキテクチャは、salesforce.comやOracleなどが提供するAIアーキテクチャと同じである印象を受けるのだが…。

パラスニス氏:最初に明確にしたいのは、Senseiの(AI)システムが、他ベンダーのAIシステムと大きく異なっていることだ。AdobeはAnalyticsから100兆件超のトランザクションデータを使用できる。また、(IllustratorやPhotoshopなどを包含する)Creative Cloudには、1億件以上の(フォントやフリービジュアルといった)デジタル・アセットがある。ユーザーはSenseiを利用することで、膨大なデータセットとコンテンツから得られる知見を活用できるのだ。

他ベンダーはAIを“広く浅く”網羅する「水平展開戦略」で、様々な業種業界を対象にしているように見受けられる。しかし、われわれはAIを「クリエイティビティ」「ドキュメント」そして、「マーケティングとカスタマー」に特化させ、AIアルゴリズムを構築している。

もう1つ、われわれが他ベンダーと異なるのは、AIの戦略をオープンプラットフォームで公開していることだ。開発者向けサービスであるAdobe I/Oを通じて、オープンAPI(Application Programming Interface)として、パートナーに提供している。これによりパートナーは、同プラットフォームに基づいてアプリケーションを構築できるのだ。

Adobe CloudアーキテクチャとSenseiに位置づけ