これは、決算発表で、iPadが低迷している事実に反するように見えるだろう。iPadの販売台数は2014年第1四半期を頂点に、長い下落トレンドの中にある。しかし企業や教育機関で求められていた安価に導入できる9.7インチのiPadは足りていなかった。つまり、作れば売れる製品を、作れる体制になっていなかった、ということだ。

iPad/Mac/サービスの売上推移。iPadの売上は2014年第1四半期を頂点に長期の下落トレンドに(図表:アップル決算資料をもとに編集部で作成)

厚みを増し、iPad Airシリーズの名前を脱却したiPadを用意したことと、iPadのラインアップ数を削減した理由は、価格が安い9.7インチのタブレットへの大きなニーズに応えることと、そのニーズに応えられる生産体制を整えることを実現しようとしていた、と見ることができる。

iPadの活用は面の展開に

iPadの活用事例を見ていくと、iPhoneのような個人個人がエンパワーメントされるというよりは、企業や教育機関などの組織の中で1人1台を実現し、活用を深めるという「面」の展開が考えられる。

iPadを導入し成果を上げている企業を取材すると、パソコンでは実現できなかったICT環境の実現を指摘する声が多い。

セットアップや操作の簡単さからどんな年齢層にとってもストレスが少なく、若いスマートフォンが当たり前の世代にとっては、スマートフォンのスキルをそのままつぎ込むことができる。

同時に、パソコンが定着しなかった比較的年齢が高い経営層も、スマートフォンを使うようになり、タブレットのハードルは低い。ITのトレーニングコストはぐっと下がる。とくにメール活用やファイル共有、セキュリティ、リテラシーの部分をきちんと教育すれば良いのだ。

また、なにより壊れにくく、バッテリーが長持ちし、経年で動作が遅くなることがほとんどない上、社内でユーザビリティを重視するアプリを内製することで、働き方を変革するきっかけを作ることができるようになる。

また教育機関でも、投資コストの低さが目立つ。よく語られていることだが、パソコンの導入のためには特別な教室設備を用意しなければならなかった。無線ネットワークの敷設はiPadでも同様だが、ノートパソコン型のコンピュータを導入する場合でも、電源やより広いテーブルへの変更といった教室の再デザインが必要となってしまう。

またiPad向けには、Appleが、文書作成、表計算、プレゼンテーション、ビデオ編集、オーディオ編集、プログラミング教育といった一通りの基本アプリを用意しており、別途ライセンスを購入する必要がない。

ビジネス導入の話でも触れたが、耐用年数の長さも重要だ。学校購入の学校導入の場合は、壊れにくさとパフォーマンスが落ちないという両面での「耐用年数」が重要となるし、教材として生徒個人で購入してもらう場合も3~4年の利用を前提にできることが重要だ。

iPadは、PCやChromebook、Androidと比較して、面での導入のしやすさが目立ち、結果的にコストのメリットで導入を決めることができる対象となっている。そのiPadをさらに値下げしたことの効果の大きさは、絶大なものになるのではないだろうか。