2017年国際線夏ダイヤが3月26日から始まる。ここでは中東を拠点とするエアライン各社に視点を向け、日本路線における各社の思惑・戦略を見ながら、その背景と課題を分析してみたい。

エミレーツ航空は3月26日より、ドバイ=成田路線にエアバスA380を再導入する

中東エアラインの情勢を考える上で、今回の夏ダイヤでの変更も含めて注目したのは以下である。

エミレーツ航空: ドバイ=成田/モロッコ(カサブランカ)/ブラジル(サンパウロ)線をエアバスA380に大型化、ドバイ=クロアチア(ザグレブ)線の就航
エティハド航空: 成田=アブダビ線を深夜から夕方便に時間変更、機材をボーイング787に小型化、アブダビ=ブラジル(サンパウロ)線休止、ルフトハンザ ドイツ航空との業務提携
カタール航空: 2016年3月に関空線を休止

中東エアラインが迎える2つの問題

日本周辺の路線や機材を論じる前に、もう少し大きなスコープで中東エアラインを眺めてみよう。2016年末の航空業界記事では、日の出の勢いで事業を拡大してきた中東各社の戦略がややペースダウンしてきたという論調が目立った。「エミレーツが2018年以降に予定されていた12機のA380のデリバリーを延期」や「エティハドが今後の人員整理を発表」 などだ。

この背景には、世界経済の成長を大きく上回るテンポで事業の拡大を進めてきた中東各社の戦略が一程度飽和状態に近づいてきている可能性がある。拡大を支えるために奪ってきた「相手のパイ」が、そろそろ払底してきているという意味だ。

加えて、長引く原油価格の低下によって本国政府からの財政面のバックアップが楽でない状況となり、航空会社経営、特に事業でのキャッシュアウトに対して厳しい目が向けられていることが大きいとみられる。ただエミレーツに関しては、ドバイ首長国がアブダビ首長国やカタールのような原油資源で国家財政をなす国家ではないため、相対的に資源価格下落の影響を受けにくい環境にあることは事実である。

協業関係に舵を切ったルフトハンザの狙い

このような中で、2016年末に発表されたルフトハンザ ドイツ航空とエティハドのコードシェアを含む業務提携実施と、エティハドのジェームス・ホーガンCEOの退任は、ある意味で象徴的な出来事であった。これまで中東勢エアラインを「人の庭で仕事をする」としてきたルフトハンザだったが、ここに来て「中東との協業関係構築」へと大きく舵を切った。アブダビ=フランクフルト/ミュンヘン線のコードシェアに始まり、最も大きな両社間の課題であった「エア・ベルリンの救済」に乗り出したのである。

ルフトハンザ ドイツ航空とエティハド航空は2月1日よりコードシェアを開始した他、1億ドル規模のグローバル・ケータリング契約や、航空機の整備や修理、オーバーホールに関する協力についての覚書を締結した

エア・ベルリンは、フルサービスキャリア(FSC)とLCCの間という立ち位置で経営を悪化させていた。そこに、エティハドが"成長スピードを金で買う"的な買収戦略のもと、30%超で資本参加して活用を思案。しかし、現在に至るまで経営は低迷したままで、抱える機材の活用もままならぬ状態であった。これをルフトハンザが、同社38機の機材・乗員を傘下のユーロウィングスとオーストリア航空にウェットリースに活用する契約を結んだのである。

これにより、エティハドの負担・重荷は軽減され、ルフトハンザにとっては競合相手を取り込みながら自社グループネットワークの充実を図ることが見込まれ、相互にメリットの見いだせる提携であったと言える。両社の提携は、今後もMRO・整備部門も含め更に強化されるとみられており、エティハドもCEO退任でM&A戦略の綻びに区切りをつけた後、欧州での新たな成長戦略の構築に向かうとみられる。

このような中で、カタールはインターナショナル・エアラインズ・グループ(IAG、ブリティッシュ・エアウェイズとイベリア航空を運営)との資本提携やコードシェアなどのアライアンス強化を表明しており、残るエールフランス・KLMオランダ航空とエミレーツの今後の出方が注目される。

日本路線を強化するエミレーツ

最初に見たように、日本での今夏ダイヤでの変化を見ると、「路線増強のエミレーツ」「スケジュール変更と小型化のエティハド」「東京集中のカタール」と三者三様の絵柄になっている。

エミレーツは、今や同社が運航するA380の機材数はそれ以外の世界中の航空会社のA380と同レベルに達する唯一最大のユーザーとなるなど、ひとり異次元の拡大を続けている。

夏ダイヤから成田=ドバイ線にA380を再投入し、2015年に成田に自社ラウンジを建設して以来の日本重視路線を堅持する方針だ。これ以外のドバイ以遠の路線を見ても、ドバイ=カサブランカ/サンパウロ線をA380に大型化、また、ドバイ=クロアチア(ザグレブ)線に就航する。そのほかでは、日本路線とはつながらないが、ドバイ=ミャンマー(ヤンゴン)=カンボジア(プノンペン)線の開設など、積極的な路線拡大を続けている。

2015年6月には、成田空港にエミレーツのラウンジが誕生した

日本においては、中東エアラインが地政学的に欧州と日本のハブとして機能しにくい中で(後述あり)、限られた日本市場のパイをとりきれる規模と先行メリットをエミレーツは有している。具体的には、カタールやターキッシュエアラインズが撤退して中東では唯一の運航となった関空路線、欧州・アフリカ・南米につながる観光需要に強い成田路線、ビジネス需要の競争力に勝る羽田路線と、日本路線全てにわたって競争優位を確保している状況と言える。

他方、日本でのエティハドは、ここに来てある意味で転機を迎えているかもしれない。そんなエティハドの戦略もふくめ、今後予想される中東エアラインの課題を考察してみよう。