親の介護費用といっても、状況によって全く異なります。長く寝たきりの場合もある反面、突然倒れ、その日のうちに亡くなるケースもあります。両親の年齢差や考え方、住む環境などによっても異なるでしょう。預貯金をそれなりに持っていると思っていても、老後の使い方次第では、あっという間に底をつきます。若い子供世代は、自分たちの生活と老後の準備で精いっぱいのはずです。

したがって、まったくどうなるかわからない状況にたいして、「いくらかかる?」を考えるよりは、どんなことが起きうるか、どんな対処法があるかを考えて準備しておく方が実践的だと思います。

老後の生活のあり方で違う介護の費用

施設入居派? 自宅生活派?…健康なうちに住宅型の施設に入居し、寝たきりになったら、あらかじめ決められている施設に転居する場合、入居費などを本人の資産で賄うと考えれば、月々の生活費としての食費・管理費・光熱費、介護保険の自己負担分、追加で介護を受ける費用やおむつ代、身の回りの費用等は、施設のパンフレットや日ごろの生活からある程度想定可能でしょう。

年金との差額が不足分で資産を取り崩す必要のある額です。施設に支払う毎月の金額は、非常に幅がありますので、親が望む施設のレベルを確認しておくとよいでしょう。どうなるかわからない計算しようのない医療費や追加の介護費用などは、ざっくりと考えるしかありません。

※サンプル事例: 介護付きの有料老人ホームに入居していた私の父の場合は約800万円の一時金、月々20万円の固定費(管理費、食費、光熱費)+5万円(その他の生活費用※月によって前後2~3万の差はあり)+医療費といった感じです。在宅の場合は管理費などを差し引いて考えてください。当時、母は自宅にいましたので、別途母の生活費もかかります。この別居期間が最も費用が掛かると思います。

両親の年齢差…片方が配偶者の介護を負担できる環境であるかどうかは重要なポイントです。今までは妻が夫の介護を担い、看取ってから自分の要介護段階へと入っていきました。しかしこれからは少し事情が違うかもしれません。

住まいの状況(マンション・戸建て住宅、老朽化度合い)…維持管理が簡単なマンションと戸建てではかなり違いがあります。バリアフリーとなっていない戸建住宅の場合は、定年前にリフォームしておくことをお勧めします。

周辺の環境(買い物、病院)…マンションで、駅に近く、スーパーや病院などが近くにある環境であれば、長く自立しやすくなります。反対に駅に遠く、閑静な住宅地で坂が多い地形となると、足腰が弱ってきたら何かと不便でしょう。

平均寿命と平均余命、健康寿命と健康余命

平均寿命と平均余命、健康寿命と健康余命、この違い知っていますか? 介護は平均余命と健康余命の間に生じます。平均寿命とは0歳児が平均何歳まで生きるかを表す数値です。それに対して平均余命とは、現在●●歳の人間であれば平均何歳まで生きるかを表す数値です。したがって、0歳の平均寿命と平均余命は一致します。一方健康余命とは、現在●●歳の人間が何歳まで健康に自立して生活できるかを表す数値です。

一つのパターンを想定して考えてみましょう。これから老後に入る世代のパターンです。健康余命のデータは見当たりませんので健康寿命で考えてみましょう。昔は夫婦の年の差がありましたが、現在は女性の結婚年齢が高くなればなるほど年齢差はなくなっています。今回は2歳としましたが、実際の両親の年齢や自分と配偶者の年齢差に当てはめてみてください。

男性は妻に老後の面倒を見てもらうつもりでいるケースが多いと思います。今までは実際にそうしたケースが普通でしたが、これからは下記の通り、ほとんど不可能だと思います。ただし、健康寿命を超えてもいきなり寝たきりになるわけではありません。平均寿命と健康寿命の差は大きいですが、実際の介護期間は生命保険文化センター「生命保険に関する全国調査」(2015年度)によると平均4年11か月だそうです。10年以上は約16%、4年以上も含めると半数近くになります。完全に妻が健康で夫を介護できるのは、下記のパターンでは3年程度ですが、何とか夫の最後の約5年間を妻がフォローしているのが実態ではないでしょうか。

今後結婚年齢が高くなるにつれて、夫婦の年齢差は0に近づくと思います。また平均余命の伸び程健康年齢は延びません。介護必要年数は長くなっているのです。介護の準備もそれを想定して取り組まなければならないでしょう。

「健康年齢から見る介護期間」(C)佐藤章子

「主な年齢の平均余命」(C)佐藤章子

活用したい国・公共団体の制度

介護保険…2000年4月1日に施行された、すでに多くの方々が利用している周知の制度です。40歳以上の方は保険料を支払っています。

市区町村の社会福祉協議会…成年後見人制度の支援や高齢者を対象に不動産を担保にした生活福祉資金貸付事業等を行っています。不動産を担保にした「不動産担保型生活資金貸付制度」は、住まいを担保にして住みながら生活資金を受け取れるリバースモーゲージ制度ですが、対象は戸建て住宅のみとなっています。

住宅金融支援機構 高齢者向け返済特例制度…リフォーム工事融資の高齢者向けの特例制度です。

特徴1: 月々のご返済は利息のみとなり、月々の返済額を低く抑えられます。
特徴2: 元金は、借り入れた方全員がお亡くなりになったときに一括返済していただきます。
特徴3: 融資限度額は1,000万円です。
特徴4: 機構が承認している保証機関が連帯保証人になります。
特徴5: バリアフリー工事又は耐震改修工事を含むリフォーム工事を行う場合の融資です。

市区町村の独自の取り組み…最寄りの自治体では独自の取り組みをしているケースもあります。介護が身近に迫ったら、一度最寄りの市区町村に確認することをお勧めします。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

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