都市部で不足する保育園の用地対策として、注目を集める「公園内保育園」。子どもたちが過ごすスペースを十分に確保でき、住宅から離れていれば、子どもの声などに対する住民からの反発も軽減できる期待の施設だ。しかし一部の地域では、住民の憩いの場・遊び場としてのスペースが削られるとして、反対運動も起こっている。

4月からは日本で初めて、複数の都市公園内で保育園が開園予定。このうち、東京都世田谷区の祖師谷公園内に開園する「茶々そしがやこうえん保育園」が3月23日、プレス向けの内覧会を開いた。公園内とはいえ、住宅地からほど近い距離に建設された保育園で、住民の理解を得るためにどのような工夫がされたのか。そして、公園という資源を生かした保育内容とは?

祖師谷公園内に開園する「茶々そしがやこうえん保育園」

「東側に窓を作らない」その理由は?

4月から80名(0~5歳)の子どもたちを受け入れる予定の「茶々そしがやこうえん保育園」。祖師谷公園の中でも、住宅地よりのスペースに立地していることから、建物の造りは、周囲から子どもたちの声などがうるさく感じられないよう、工夫されている。

中でも特徴的なのが、住宅地が広がる建物の東側には「窓を作らない」という点だ。これにより、子どもたちの声が住宅の方に伝わりにくくなるという。東側に窓はなくとも、白を基調とした園内は明るく開放的。光を十分に取り入れるために、天窓も設置されていた。

園内の保育室の様子。写真の左側が「東側」で、窓は作っていない

また、2階部分に設けられているテラスも、西側は公園を臨む開放的な造りにしている一方、東側はガラスを全面に設置。テラスで遊ぶ子どもたちの声も、伝わりづらくなるだろう。

左はテラスの西側、右はテラスの東側

無料のカフェは地域住民も利用可能

さらに、保育園には無料で利用できるカフェが併設されている。子どもを迎えに来た保護者が一息ついたり、保護者や子どもどうしが交流したりする場としての活用に加え、同保育園が意識しているのは「地域住民の利用」だ。

実はこのカフェ、公園に訪れた地域住民にも、無料で開放する予定。設置しているベンダーで、コーヒーやお茶などを楽しむこともできるという。

地域住民にも開放予定の「ちゃちゃカフェ」

用意されているベンダーでは無料でコーヒーやお茶などを楽しむことができる

「カフェに訪れたことがきっかけで、地域の方と保育園のつながりが生まれることを期待しています。まずは、保育園のことを知っていただきたいです」と担当者。地域住民に向けては、既に4回の説明会を実施していて、今後は施設の見学会も予定しているという。

「自然」と「最新デジタル」双方を取り入れた保育

公園という場所では、既にその中に地域のコミュニティが築かれている点も魅力だと、担当者は語る。「公園の自然について子どもたちに教えたいというお声がけもあります」。公園を拠点に活動する団体との交流も、見据えられそうだ。

同保育園に園庭はない。しかし、目の前に広がる公園を通して、植物や生物と日常的に触れ合い、四季の移り変わりを感じながら、自然を愛し、自然と共生していく子どもたちを育てたいという。

川も流れる自然豊かな祖師谷公園

カモも発見した

一方で、最新のデジタルデバイスも積極的に取り入れていきたいとのこと。園内には、保育室とは別に「クリエイティブルーム」という、真っ白で何も無い部屋があえて作られている。

クリエイティビティを育むためのまっさらな部屋を作りたいとの思いから設けられた「クリエイティブルーム」

ここでは、壁面に映像を映すためのプロジェクターが設置されていて、例えば、公園内で見つけたてんとう虫に興味を持ったとき、動画を使って、てんとう虫の生態や動き、飛び方などを学んでもらうといった活用法を想定しているそうだ。また、映像を使ったプレゼンテーションについて、子どもたちに学んでもらう機会も作りたいという。

壁面に映像を映して学びを深めるスペースに

保育室も、一斉保育という形ではなく、年齢や子どもの興味に応じて遊びに没頭できるよう、スペースをテーマごとに区切っている。保育内容も子どもたちの個性に合わせて、考えていくとのことだ。

3~5歳を対象とした保育室

年齢別に学びを深められる遊びが充実

同保育園のプロデューサー・おちまさと氏は、内覧会で「保育を明るい話題に変えていきたい。子どもたちの声を"騒音"ではなく、"心地良い音"に変えていける保育園にしたい」と思いを語った。用地対策だけではない、さまざまな可能性を秘めている公園内保育園。同施設がモデルケースとなりうるのか。今後が注目される。