20日の放送で月9ドラマ『突然ですが、明日結婚します』(フジテレビ系)が終了した。同作は「月9史上最低視聴率の更新」がたびたびネットニュースに取り上げられ、全話平均も6.6%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)のワーストを塗り替えるなど、最後まで不名誉を覆すことができなかった。

しかし、視聴率の低迷と反比例するように、配信サービスは過去最高ペースで推移していたのも、また事実。特に「全視聴の約25%を17~22歳女性のユーザーが占めていた」というデータは、若者のテレビ離れが叫ばれる中で大健闘と言っていいだろう。

月9は、今年4月で放送30周年を迎えるフジテレビの看板枠。高視聴率、社会的なブーム、物議を醸した問題作、そして視聴率の低迷まで、これまでの歴史を振り返りながら、近未来の予想図を読み解いていく。

『突然ですが、明日結婚します』のキャスト陣(左から中村アン、山村隆太、西内まりや、沢村一樹、山崎育三郎)

スタートは"業界モノ"だった

萩本欽一の『欽ドン』シリーズが終わった1987年4月。月9第1弾は、岸本加世子主演の『アナウンサーぷっつん物語』だった。続けざまに、田原俊彦主演の『ラジオびんびん物語』、とんねるず主演の『ギョーカイ君が行く!』、東山紀之主演の『荒野のテレビマン』など、いわゆる"業界モノ"を放送。当時、憧れの職業だったマスコミをテーマに選んだことが、翌1988年のトレンディドラマにつながっていく。

陣内孝則主演の『君の瞳をタイホする!』、三上博史主演の『君が嘘をついた』、中山美穂主演の『君の瞳に恋してる!』の"君3部作"は、男女を問わず若年層の心をガッチリとつかんだ。「あんなカッコイイ恋がしたい」と夢を描かせる月9のイメージは、この時に形成されたものと言っていいだろう。

1990年代に入ると、恋愛ドラマ路線が加速。浅野温子と三上博史がオープニングでキスを連発した『世界で一番君が好き!』、安田成美と吉田栄作が旅行代理店で社内恋愛する『キモチいい恋したい!』、中山美穂が切ない片想いに揺れる『すてきな片想い』。そして、1991年の鈴木保奈美と織田裕二の『東京ラブストーリー』、浅野温子と武田鉄矢の『101回目のプロポーズ』という月9人気を決定づけた名作にたどり着き、視聴率も30%台に突入した。

無双状態で挑戦的な作品を連発

当時の月9は怖いものなしの無双状態で、翌1992年に衝撃的な作品を連発。三上博史が1人3役と女装で騒然とさせた『あなただけ見えない』、中森明菜をヒロインに起用した『素顔のままで』、映画『ゴースト』をそのまま連ドラにした『君のためにできること』、「ヒューヒューだよ」「カキーン」のセリフが斬新な『二十歳の約束』と、攻めに攻めた作品が続き、常に話題の中心となっていた。

続く1993年の江口洋介主演『ひとつ屋根の下』はホームドラマ、中井貴一主演『じゃじゃ馬ならし』は親子もの。1994年の西田ひかる主演『上を向いて歩こう!』はドタバタコメディ、和久井映見主演『妹よ』は兄妹もの。1995年の中山美穂主演『For You』はシングルマザーのヒロイン、小泉今日子主演『まだ恋は始まらない』は時空を超えたSFラブコメ。

1996年の和久井映見主演『ピュア』は知的障害者のヒロイン、中山美穂主演『おいしい関係』は料理をモチーフ。1997年の反町隆史・竹野内豊主演『ビーチボーイズ』はイケメンに特化。1998年の田村正和主演『じんべえ』は血のつながらない親子の恋愛。1999年の広末涼子主演『リップスティック』は少年鑑別所の世界と、初めてのテーマに挑み続けた。

このころ、木村拓哉主演の『ロングバケーション』『ラブジェネレーション』が圧倒的な人気を集めていたが、むしろ恋愛以外の要素をフィーチャーしたこれらの「チャレンジングな作品こそ、月9らしさ」のような気もする。実際、月9の後を追うように、各局の連ドラがさまざまなテーマの作品を手がけはじめ、のちの定着につながっていった。

「月9=恋愛」のイメージが消える

1997年に東京・台場に移転したフジテレビ

2000年代に入ると、一転して純度の高い恋愛ドラマが復活。中山美穂と金城武の『二千年の恋』は国家スパイの恋、佐藤浩市と稲森いずみの『天気予報の恋人』はバツイチ同士の恋、松嶋菜々子と堤真一の『やまとなでしこ』は貧富をめぐる恋と、ピュアな恋心を引き立てるような設定の妙が光った。

しかし直後、劇的に路線が変わる。きっかけになったのは、2001年の木村拓哉主演『HERO』だった。以降、いわゆる"お仕事モノ"が続いていく。

滝沢秀明主演『アンティーク~西洋骨董洋菓子店~』はパティシエ、2002年の竹内結子主演『ランチの女王』は洋食店コック、2003年の江口洋介主演『東京ラブ・シネマ』は映画配給会社、ミムラ主演『ビギナー』は司法修習生の世界を描いた。

とりわけ演技未経験のミムラを大抜擢した『ビギナー』は驚きを呼び、2004年の『東京湾景~Destiny of Love~』も韓流ブームを丸ごと採り入れる作風に騒然。その後も、2005年には生物学者と遺伝子を恋に絡めた『不機嫌なジーン』、2006年には不朽の名作を蘇らせた『西遊記』、クラシック界の群像劇『のだめカンタービレ』、2007年には物理学ミステリーの『ガリレオ』、2008年には学園ドラマの『太陽と海の教室』、政界を描いた『CHANGE』、2009年には刑事ドラマ『東京DOGS』を放送。

テーマはバラバラで「月9=恋愛」のイメージは極めて薄くなり、年間4作中恋愛ドラマは1~2作しか放送されなかった。視聴率がグッと下がり始めたのもこの時期であり、現状打破のために試行錯誤をしていた様子がうかがえる。

再々々度の路線変更に見る苦闘

2010年代に入ると、「月9=恋愛」に再度の路線変更。木村拓哉主演『月の恋人~Moon Lovers~』、松本潤主演『夏の恋は虹色に輝く』、竹野内豊主演『流れ星』、戸田恵梨香主演『大切なことはすべて君が教えてくれた』、香取慎吾主演『幸せになろうよ』、新垣結衣主演『全開ガール』、香里奈主演『私が恋愛できない理由』と、7作連続で恋愛ドラマを放送した。

しかし、2012年には再々度の路線変更。アクションアリの探偵ドラマ『ラッキーセブン』(松本潤主演)、鍵マニアの事件解決モノ『鍵のかかった部屋』(大野智)、お金と家を失った男の再生を描く『PRICELESS~あるわけねぇだろ、んなもん!~』(木村拓哉)、本をモチーフにした推理モノ『ビブリア古書堂の事件手帖』(剛力彩芽)、巡回診療船の活動を描いた『海の上の診療所』(松田翔太)、裏社会のトラブル解決に挑む『極悪がんぼ』(尾野真千子)、初の時代劇『信長協奏曲』(小栗旬)、池井戸潤原作のミステリー『ようこそ、わが家へ』(相葉雅紀)と恋愛から離れ、作品ごとに視聴ターゲット層が異なる作品が続いた。

『5→9~私に恋したお坊さん~』

『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』

『ラヴソング』

『好きな人がいること』

ただ、「やっぱり」と言うべきか、2015年夏に再々々度の路線変更が訪れる。『恋仲』(福士蒼汰)、『5→9~ 私に恋したお坊さん~』(石原さとみ)、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(有村架純)、『ラヴソング』(福山雅治)、『好きな人がいること』(桐谷美玲)、『カインとアベル』(山田涼介)、そして今クールの『突然ですが、明日結婚します』(西内まりや)と、恋愛モノを連続放送したのだ。しかも、ほとんどの作品が若年層をターゲットにしたものだった。

視聴率はますます下がってしまったが、2年弱の間その路線を変えずにトライし続けた勇気は、もっと称賛されてしかるべきだろう。そして、いよいよ今年4月、30周年を迎える。