2016年度の税制改正で、通勤費の非課税限度額が「月15万円」に引き上げられました(改正前は10万円)。これにより、新幹線通勤が再び注目を集めています。今回は、新幹線通勤と在来線通勤でかかる時間・お金の違いや、新幹線通勤のメリット・デメリット、確定申告で通勤費を控除する方法についてご紹介します。

在来線と新幹線 = お金と時間、どっちをとる?

毎日の通勤を考えると、会社はできれば家から近いに越したことはありません。でもそうもいかないのが現実。最近では新幹線を上手に利用して、通勤時間が片道2時間くらいの距離でも首都圏まで通っている人はたくさんいるようです。では、実際に首都圏に会社があり、新幹線で通勤をしている方も多い街、栃木県宇都宮市と静岡県三島市を例に、新幹線通勤でかかるお金と節約できる通勤時間をチェックしてみましょう。

表1に、新幹線または在来線を使った場合の、「宇都宮駅 - 東京駅間」と「三島駅 - 東京駅間」の1カ月の定期代をまとめました。「宇都宮駅 - 東京駅」で新幹線通勤(東北新幹線利用)をする場合、定期代は約10万円となり、在来線通勤と比較すると約2倍の費用がかかることが分かります。「三島駅 - 東京駅」も同様で、新幹線通勤(東海道新幹線利用)では在来線通勤の約1.5倍の金額となっています。

定期代の比較

次に表2の通勤時間比較を見てみましょう。在来線を使うと「宇都宮駅 - 東京駅」で約1時間50分、「三島駅 - 東京駅間」で約2時間かかるのに対し、新幹線利用ではそれぞれ約50分、約55分とどちらの場合も通勤時間が約半分に短縮されています。定期代の比較と合わせてみると、かかるお金は2倍になるけれど時間は半分になるといえます。"時は金なり"とは正にこのことですね。

通勤時間の比較

時間の節約だけじゃない! 新幹線通勤のメリット・デメリット

新幹線通勤か在来線通勤かという悩ましい二択は、本当に「お金を取るか? 時間を取るか?」というだけの問題なのでしょうか。

新幹線通勤のメリットは通勤時間の節約だけではありません。一番大きなメリットは、「ゆったり座って通勤できる」ということです。広々とした座席で、寝る・音楽を聴く・本を読むなど自分の好きなように過ごすことができます。満員電車の通勤、これが解消されるというのは正に大きなメリットといえるでしょう。

特に始発駅から乗車する場合は、新幹線の座席には机も備え付けてあるので、ゆっくりと朝食を食べながら出勤することもできます。帰宅時には、車内販売でビールとおつまみを買って晩酌をする、何てことも新幹線ユーザーにしかできない楽しみのひとつです。

更に多忙なビジネスパーソンにうれしいのが、電源・Wi-Fi環境があること(車両によってはない場合もあります)。朝の段階でメールチェックなどPCでの作業が行えるので、1時間弱の通勤時間も勤務時間のひとつと割り切れば、仕事のために有効活用することができます。また、在来線通勤では、トイレに行きたくなってしまった際には途中下車しなければいけませんが、新幹線通勤の場合は車両のトイレが利用できるため朝の体調への心配も無用です。

逆に、在来線ユーザーから見ると新幹線通勤にも確かにデメリットがあります。例えば、始発・終電です。表3を見てみましょう。まず、東京駅発の終電は、三島駅の場合は在来線も早いですが、新幹線はどちらも22時台と早く、遅くまで飲み会に参加したり残業をしたりすることが難しくなります。また、始発に関しては6時半頃発のため到着は7時台になってしまいます。

始発・終電時刻の比較

税制改正、特定支出控除……通勤費の税控除を上手に活用しよう!

昨年2016年1月から、新幹線ユーザーにまたひとつ大きなメリットが加わりました。税制改正により、通勤手当の非課税限度額が10万円から15万円になったのです。過去には1998年度の改正で5万円から10万円に引き上げられましたが、その後見直しはされていませんでした。

通勤手当の支給はほとんどの企業で導入されていますが、それが非課税となる上限額が定められています。例えば、これまでは会社が月15万円の交通費を全額支給していたとしても、10万円からの差額5万円は所得とみなされ課税対象となっていました。しかし、この5万円に対する課税分が、今回の改正で取り戻せるようになりました。

新幹線通勤の範囲で考えると、「宇都宮駅 - 東京駅間」と「三島駅 - 東京駅間」の定期代は約10万円でしたが、「越後湯沢駅-東京駅間」(14万8,870円)、「静岡駅-東京駅間」(13万3,860円)に関しても今後は全額非課税に。そのことで「遠くから通勤しているにもかかわらず、自腹を切らなければならない…」というような状況が大きく改善されました。

また、もし通勤費の中で、通勤手当でカバーされない分が出てしまっても、確定申告の際に仕事上の経費として控除してもらえます。この「給与所得者の特定支出控除」という制度は、新幹線ユーザーなど高い交通費を支払っている人なら是非活用すべきです。

特定支出控除では、控除額に関して判定の基準となる金額(その年の給与所得控除額の2分の1)が設定されています。そのボーダーラインを超えた分が控除される仕組みになっており、通勤費の場合の計算式としては、

1年間の通勤費の合計 - 判定の基準となる金額 = 控除額

となります。ですが、既に会社から通勤手当が出ている分に関しては対象外となるので注意しましょう。手続きには、まず特定支出に該当しているという旨の勤務先からの証明書が必要です。これは国税庁のホームページから自分で準備して、勤務先に確認をして認可を得ることになります。

確定申告の際に、会社発行の証明書と領収書を忘れずに添付してください。この「給与所得者の特定支出控除」は、通勤費以外にも、資格取得費・図書費・研修費など仕事のための自己研さんにかかった費用について控除を受けることができます。会社への問い合わせ・領収書の整理などの事前準備は多いですが、上手に活用して控除を受けるようにしましょう。

株式会社回遊舎


"金融"を専門とする編集・制作プロダクション。お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで一手に引き受ける。マネー誌以外にも、育児雑誌や女性誌健康関連記事などのライフスタイル分野も幅広く手掛ける。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術」「J-REIT金メダル投資術」(株式会社秀和システム 著者酒井富士子)、「NISA120%活用術」(日本経済出版社)、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点10」(株式会社ダイヤモンド社)、「子育てで破産しないためのお金の本」(株式会社廣済堂出版)など。