乳がん治療が女性のライフプランに与える影響は?

日本人女性にとって最もかかりやすいがんである「乳がん」。早期発見ができれば根治も期待できるといわれているが、再発・転移を防ぐためには、治療に長い年月を要することも多い。

治療計画は、妊娠をはじめとする女性のライフプランへも影響する。今回は、乳がん標準治療の治療期間と、治療後の妊娠を見据えた「卵子凍結保存」について、胸部・乳腺外科の法村尚子医師にお聞きした。

――早期乳がんにおける一般的な標準治療の流れについて教えてください。

乳がん治療の基本は手術です。手術は1週間前後の入院期間で終わり、乳がんの手術は術後の回復も早いため、それほどの時間を費やすことにはなりません。しかし、治療が手術だけで終わることはほぼなく、術後は再発や転移を防ぐことを目的とした治療を行うことが一般的です。

具体的には、乳がんのタイプより、ホルモン治療、放射線治療、抗がん剤治療、分子標的治療などを組み合わせ、その人に合う治療を行います。各治療には、この程度の治療期間を費やすことになります。

■ホルモン治療
5~10年、毎日薬を飲みます。注射を組み合わせることもあります。

■放射線治療
週5回通院し、1カ月半程度かかります。乳房温存術後は放射線治療が必須です。

■抗がん剤治療
3週間に1回の頻度で3~6カ月間、点滴を受ける方法が一般的です。進行している場合や、再発しやすいタイプの乳がんであれば必要になります。

■分子標的治療
3週間に1回の頻度で1年間、点滴を受けます。

――乳がん治療中でも、妊娠することはできますか?

薬剤の治療や放射線治療によって、胎児の奇形が増すなど、胎児に影響を与える可能性がありますので、治療中は妊娠できません。治療終了後は妊娠が可能ですが、終了から数カ月間は妊娠を避けたほうがよいでしょう。

また、乳がんの治療はとても時間がかかります。一般的に年齢とともに卵巣機能は低下していきますし、乳がんの患者さんは、治療の影響によって卵巣機能が失われる可能性もあります。

――治療後の妊娠を望んで「卵子凍結保存」を選択する人はいますか?

乳がんの手術後、術後の治療を始める前に卵子凍結保存を選択する方はいます。

卵子凍結保存は、「排卵を誘発し卵子を育てる→卵巣に針を刺して卵子を採取する(採卵)→凍結保存する」という流れで行います。ただし、一度の採卵で確実に卵子を採取できない可能性もあり、凍結保存までに数カ月かかることもあります。その間、乳がんの治療は先送りになってしまうことも理解しておかなければいけません。

既婚女性の方は、受精卵の方が未受精卵よりも妊娠率は高くなるので、受精させてから凍結保存する方がよいでしょう。受精させるためには、卵子と精子を1つのシャーレの中に入れて培養します。この方法で受精しにくい場合は、針を使って精子を卵子内に直接注入します。

乳がん治療が終了し、妊娠の許可が出たら、凍結保存した卵子(または受精卵)を用いて妊娠にトライします。また、実施する施設によって費用は異なりますが、検査、採卵、受精、卵子の保管料などで数十万円がかかります。

※写真と本文は関係ありません


取材協力: 法村尚子(ノリムラ・ショウコ)

胸部・乳腺外科
2005年香川大学医学部医学科卒。現在、高松赤十字病院胸部・乳腺外科副部長。乳腺外科を中心に女性が安心して受けられる医療を提供。また、En女医会に所属し、ボランティア活動や各種メディアにて医療情報を発信している。
資格 乳腺専門医、外科専門医、がん治療認定医など

En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。